「街場のメディア論」 内田樹 著
内田樹さんの本は前にも読んだことがあるんですが、物の見方や考え方が、僕の好きな感じなんですよね。この本も、実に面白く読ませていただきました。
特に第六講「読者はどこにいるのか」。中でも、本棚について語ったくだりは最高です。
「人から『センスのいい人』だと思われたい、『知的な人』だと思われたい、あるいは『底知れぬ人』だと思われたい、そういう僕たちの欲望が書棚にはあらわに投影されている」(p150)
そうそう、そうなんですよ。その通り。よく分かってらっしゃる。
「正直に言って、書棚にある本のうち小説やエッセイの類はそこそこ読んでますけれど、哲学書なんか八割方読んでない。開いたこともない。でも、『いつか読まねば』と思っているから、手に取りやすいところに並べてある。『いつも読むから』手元にあるんじゃないんです。『いつか読まねば』と思っているから手近に置いて、そうやってわが身を叱咤しているわけです。」(p153)
うんうん、そうなんです。そのとおりなんですよ。
こういう視点で考えた、電子書籍に対する認識に、僕は大いに共感しました。それは、物事をなんでもかんでも「消費」のビジネスモデルに当てはめてしまう、現代社会に対する批判、警鐘であります。
「このビジネスモデルは、僕の直感では、本をあまり読まない人間が設計したものです。」(p164)
これ、当たってると僕も思います。数年前、あるビジネス誌を数カ月購読したことがあるんですけど、その頃誌面に登場していた社長連中なんかには「情報はネットで十分だから、紙の本は読まない。これからは電子書籍の時代だ」と断言するような人が多かったんです。でも、まず、本を読むのって「情報を得る」ためじゃないんですよね。根本的な認識の差を感じて、そのビジネス誌を読むのをやめてしまいました。
今、書店は減り続けているとはいっても、紙の本の需要って、決して激減している訳ではないと思います。雑誌はかなり苦戦しているようですけど、単行本、文庫、新書の類をみていると、そう意気消沈しているようにも見えない。絶版本を紙で復刊する取組なんかもあります。
内田さんは紙の本の出版業界に対してかなり批判もされてますが、僕は割とその点は楽観的です。この本が出版されて10年経ちますから、その辺の事情も多少、変わったのかもしれません。
素晴らしい本でした。ありがとうございます。