星さんぞう異文化きまぐれ雑記帳

異文化に接しての雑感を気ままに、気まぐれに

ケロウナ便り(106) ある松茸ハンターの告白(3)

2010年09月18日 06時21分34秒 | Weblog
戻ってこないリーダーに何が起こったのか知る由もない留守部隊。早速「リーダー捜索本部」を立ち上げ、捜索方針会議です。

あれだけのベテランリーダーがもどってこないのは、
①山中で何らかの事故に遭い、自力で歩行ができなくなった
②熊に襲われて瀕死の重傷を負った
③森の奥に入りすぎ森の中をさまよい続けている
④群生する松茸を発見して時間を忘れて貪欲にハントし続けている

遠浅の森でもあり、③と④の可能性は薄いと判断して、何組かに手分けして森に分け入り、森の中で倒れている可能性の高いリーダーを捜索することに決定して、切込隊長に選ばれたKちゃんが、くだんの林道まで探してくれたようです。林道を足早に去ったリーダー、それより一瞬遅く林道に現れたKちゃん。映画の「すれ違い」シーンを見るようですね。

リーダーの考えたこと。

このまま夜になったら、留守部隊が地元警察署に捜索願を出す。もう遅いから捜索は明朝ということで本日中の動きはない。だとすると、今晩は林道で野宿か。食料は一袋のシャンテレールだけ。昼間の暑さで脱いでしまった長袖シャツなしで夜の冷気に耐えられるか?。それよりもなによりも、熊は大丈夫か?「松茸ハンター熊に襲わる」と地元の新聞の見出しを飾るなんてぶざまな事になりやしないか。 あぁ、それにしてもいい家族に恵まれ、いい友達に恵まれた、良い人生だったなぁ!

ところで、捜索ヘリコプターなんていくらぐらい掛かるのかなぁ?受益者負担なのかなぁ?

K捜索本部長の考えたこと。

このまま夜になったらどないしよう。捜索願なんて何処にだしたらええのやろ。わからへんなぁ。何処にいてはるのリーダー!ホイッスル聞こえてへんの?なんとかいうてえや。林道のどこかで行き倒れてはるの?

午前中に歩いた林道にあったのと同じ「キロ・ポスト」が林道沿いの松の木に掲げられているのが目に入りました。それには「N-1」と書かれています。林道のスタートから1キロ地点であるに違いありません。どうやら、入り口(林道からの出口)は近そうです。日頃から「歩きゴルフ」で鍛えてある脚力だけを頼りにひたすら全速力で歩き続けました。

ハイウエイを全速力で走り抜ける車の音が耳に入ったときには、全身の力が抜けるのではないかと思うくらいの安堵感が身体の中を、これまた全速力で走り抜けました。

バンザーイ!! 熊に襲われることもなく無事に帰還できましたぁ!

林道を出たハイウエイの景色には見覚えがあります。先ほど漁場を探していたときに通り過ぎた地点です。捜索本部の設置されている駐車場までの距離はせいぜい1キロ前後のはずですが、緩やかなカーブで見通しは効かず、おまけに緩やかとはいえ上り坂。身の安全を仲間に一刻も早く知らせねばと最後の力を振り絞っての行進が続きます。

はるか前方にいる捜索隊員がこちらの存在を認めてくれた様子が分かった瞬間に、全身から力が抜け、道端にヘタリ込みたい衝動に駆られましたが、ええカッコしいのハンターは、遠くからズッコケた真似をして、仲間の皆さんにかけたご迷惑とご心配を詫びるのが精一杯でした。

こんどはK捜索隊長の姿が見当たらず、「すわ第二次遭難事件か!」と緊張が走りましたが、動物的な運動能力と動物的な消化器能力を備えたKちゃんが捜索本部に戻る頃にはリーダーも呼吸を整え終わり、何もなかったようにコーヒーで乾ききった喉を癒していたのでした。

客観的には半径1キロ程度の舞台で繰り広げられた一時間足らずの「プチ遭難劇」、終わってみれば笑い話でしかありませんが、リーダー本人にとっては文字通り「最悪のケースも視野に入れた」覚悟もし、残されたグループにとっても当事者全員がいっときは「生きた心地もしなかった」30分間でした。

今後は「絶対に単独行動は慎むこと」を指導の基本に据えることを改めて肝に銘じたリーダーでした。またベテラン度が一皮むけました。

お詫びと口封じのためにリーダーハンターが夕食代を払ったことは言うまでもありません。ヘリコプター出動に比べたら安いものです。

お騒がせしてご心配いただいた各方面の方々に謹んでお詫び申し上げます。

追伸: 写真は反省会を兼ねたすき焼きパーティーのお裾分けです。




ケロウナ便り(105) ある松茸ハンターの告白(2)

2010年09月18日 04時11分52秒 | Weblog
この漁場はハイウエイに沿って平行に横歩き出来る「浅瀬」が多く、森の奥まで分け入る必要がない、初心者向きともいうべきコースです。適宜笛を吹いたり大きな声でやり取りしている仲間の声を聞いて安心したこともあり、新人の面倒をみるリーダーの立場を離れて、このベテランは自分の「漁」に一瞬没頭したに違いありません。

暗い森の中で「白い点」を探し続けるうちに約束の30分が近くなった気配です。そろそろ引き揚げて帰る準備をせねばと、シャンテレールのいっぱい詰まった袋を片手に、やや急斜面ではあるけれど、それほど奥に入ったわけでもないので、道路の明るさの開けているはるか前方を目指して下山しはじめたのです。

苔むした倒木に足を滑らせながら、熊か他の動物の残した物と思われる糞の状態をチェックしながら、湿った山肌を歩くこと10分程度、ようやく視界が開けて下界に到着です。

????? あれれ、ハイウエイではありません。最近拓けた風情の漂う林道じゃありませんか。いったいどうなってんの?後ろを振り返ると、たった今自分で下ってきた森の斜面が真っ黒い姿を見せながら「戻ってくるか?」と呼びかけているようです。

熊鈴とホイッスルの他には時計も磁石も携帯も持ち合わせない、何とも無用心なリーダーです。こんなことは想定外だったのです。

何年か前にある知人が同じような状況に陥り、林道を2時間以上さまよった挙句に自力では仲間と合流できず、たまたま通りかかった林業のトラックに助けられて事なきを得たという話を思い出しました。ただ、今回は時間がありません。もう5時を過ぎているはず、あと2時間もすると日没で漆黒の闇と化すのは必然。リーダーの心中穏やかではありません。

フェリーで聞いた熊情報も脳裏をかすめます。念のためあたりを見回しますが、それらしい影は無く、まずは一安心といったところです。念入りに熊鈴を鳴らし、元気づけにホイッスルも吹いてみます。とにかく自分を鼓舞して、これからの身の処し方を冷静に判断するしかないのです。約束の時間になっても戻ってこないリーダーを心配する仲間の姿が目に浮かび、心は千々に乱れます。

「せいぜい30分かけて降りた山、また30分かけて登れば元に戻るじゃん!」なんて言うのは、無責任な傍観者の言い草です。こんな当たり前のことが当たり前に発想できない心理状態なのです、遭難者は!

残された時間と熊のことを考え、森に戻る選択肢は捨てて誰かに遭遇する幸運を託して林道を進むことに決めました。林道を右に行くと、まだ開発途中なのか伐採された大きな木が横たわっていて林道の体をなしていません。どうやら林道のスタート地点は左に進んだところにありそうです。あとはスピードを速めて一目散に進みます。

走っている姿を熊に見られたら、逃げていると勘違いされて追いかけられるかもしれないので、走らずに「歩く」ことに徹したのです。熊と遭遇したら、じっと熊の目を見て視線をそらさずに徐々に距離を開け、決して死んだふりなんかするな。こんなノウハウを自分に言い聞かせながら夕闇の近づく林道を一人歩くベテランハンターを誰が想像したでしょうか。

ハンターのカミさんのセミプロ、一緒に来た仲間の心配顔、彼らなりに「次の一手」を模索しているに違いない状況が手に取るようにわかります。リーダーは安全だよ、熊にやられてないよ、まだ生きてるよ、林道をどっちだか分からないけどとにかく進んでるからもうちょっと待っててよ。もしチャンスがあったらハイウエイ沿いの林道らしきところに入って来てみてくれない? 

こんなことを連絡し合えないもどかしさだけが募ります。時間だけが速足に過ぎ去ります・・・・。