星さんぞう異文化きまぐれ雑記帳

異文化に接しての雑感を気ままに、気まぐれに

ケロウナ便り(107) サバイバル能力

2010年09月20日 04時38分54秒 | Weblog
カナダでの生活で常々実感するのは「自然の近さ」です。果樹園のみならず一般家庭の庭木でたわわに実る果物の豊富さ。野鳥、小動物から最近では住宅街やゴルフコースにまで熊が出没することが報じられています。

日常生活の場面で自然をあまり近く感じない日本では「サバイバル」というと産業界やサラリーマン社会等競争社会での「生き残り」を連想しますが、ここカナダでは文字通り自然界の外からの攻撃に如何に対処して自分を守るか、「自然の中で生き残る能力」そのものであることを実感します。サバイバル能力が問われる場面は日本よりはるかに多いと思われます。それと同時に、如何に自然と共存・共生するかとの視点を大切にした様々の社会のシステムが出来上がっていると感じます。

自然の厳しさを体験して初めて身につくサバイバル能力、自然を相手に生き残る知恵。自然との付き合いが浅く、経験の乏しい私なんぞにはとても備わっていない能力です。

卑近な例として、私と同い年の日系カナダ人(戦時中の幼少期を日本で過ごした、いわゆる『帰加二世』)の友達がいます。

彼も松茸大好き人間で毎シーズンの松茸狩りを楽しみにしている一人ですが、森の中に入るからには熊との遭遇も想定して、それなりの用意を怠りません。熊鈴の他に研ぎすまされたナタを必ずベルトに下げて携行するのです。彼にしてみれば「熊に襲われたら手をこまねいてるわけにゃいがねだろ。俺も命を落とすかもしれないけんど、相手に一撃・二撃を加えてから死にたいだろ。死力を尽くして戦ってもダメならあきらめもつくけんどよ」と東北訛りで言われると、なかなか迫力あるし、説得力もあります。これも多分これまでの経験から身につけたサバイバルのノウハウであろうし、ここにいたるまでには何度か危うい目にあってきたに違いありません。

ひたすら熊と遭遇しないことを祈るだけの我が身の軟弱な無防備さを思うと、サバイバル能力を比較するのもおこがましい話です。

パソコンが少しばかりいじれたり、思ったとおりのショットが打ててパーで上がったなんて喜んでいるような自分が、随分と小さく感じることの多いカナダ生活です。




ケロウナ便り(106) ある松茸ハンターの告白(3)

2010年09月18日 06時21分34秒 | Weblog
戻ってこないリーダーに何が起こったのか知る由もない留守部隊。早速「リーダー捜索本部」を立ち上げ、捜索方針会議です。

あれだけのベテランリーダーがもどってこないのは、
①山中で何らかの事故に遭い、自力で歩行ができなくなった
②熊に襲われて瀕死の重傷を負った
③森の奥に入りすぎ森の中をさまよい続けている
④群生する松茸を発見して時間を忘れて貪欲にハントし続けている

遠浅の森でもあり、③と④の可能性は薄いと判断して、何組かに手分けして森に分け入り、森の中で倒れている可能性の高いリーダーを捜索することに決定して、切込隊長に選ばれたKちゃんが、くだんの林道まで探してくれたようです。林道を足早に去ったリーダー、それより一瞬遅く林道に現れたKちゃん。映画の「すれ違い」シーンを見るようですね。

リーダーの考えたこと。

このまま夜になったら、留守部隊が地元警察署に捜索願を出す。もう遅いから捜索は明朝ということで本日中の動きはない。だとすると、今晩は林道で野宿か。食料は一袋のシャンテレールだけ。昼間の暑さで脱いでしまった長袖シャツなしで夜の冷気に耐えられるか?。それよりもなによりも、熊は大丈夫か?「松茸ハンター熊に襲わる」と地元の新聞の見出しを飾るなんてぶざまな事になりやしないか。 あぁ、それにしてもいい家族に恵まれ、いい友達に恵まれた、良い人生だったなぁ!

ところで、捜索ヘリコプターなんていくらぐらい掛かるのかなぁ?受益者負担なのかなぁ?

K捜索本部長の考えたこと。

このまま夜になったらどないしよう。捜索願なんて何処にだしたらええのやろ。わからへんなぁ。何処にいてはるのリーダー!ホイッスル聞こえてへんの?なんとかいうてえや。林道のどこかで行き倒れてはるの?

午前中に歩いた林道にあったのと同じ「キロ・ポスト」が林道沿いの松の木に掲げられているのが目に入りました。それには「N-1」と書かれています。林道のスタートから1キロ地点であるに違いありません。どうやら、入り口(林道からの出口)は近そうです。日頃から「歩きゴルフ」で鍛えてある脚力だけを頼りにひたすら全速力で歩き続けました。

ハイウエイを全速力で走り抜ける車の音が耳に入ったときには、全身の力が抜けるのではないかと思うくらいの安堵感が身体の中を、これまた全速力で走り抜けました。

バンザーイ!! 熊に襲われることもなく無事に帰還できましたぁ!

林道を出たハイウエイの景色には見覚えがあります。先ほど漁場を探していたときに通り過ぎた地点です。捜索本部の設置されている駐車場までの距離はせいぜい1キロ前後のはずですが、緩やかなカーブで見通しは効かず、おまけに緩やかとはいえ上り坂。身の安全を仲間に一刻も早く知らせねばと最後の力を振り絞っての行進が続きます。

はるか前方にいる捜索隊員がこちらの存在を認めてくれた様子が分かった瞬間に、全身から力が抜け、道端にヘタリ込みたい衝動に駆られましたが、ええカッコしいのハンターは、遠くからズッコケた真似をして、仲間の皆さんにかけたご迷惑とご心配を詫びるのが精一杯でした。

こんどはK捜索隊長の姿が見当たらず、「すわ第二次遭難事件か!」と緊張が走りましたが、動物的な運動能力と動物的な消化器能力を備えたKちゃんが捜索本部に戻る頃にはリーダーも呼吸を整え終わり、何もなかったようにコーヒーで乾ききった喉を癒していたのでした。

客観的には半径1キロ程度の舞台で繰り広げられた一時間足らずの「プチ遭難劇」、終わってみれば笑い話でしかありませんが、リーダー本人にとっては文字通り「最悪のケースも視野に入れた」覚悟もし、残されたグループにとっても当事者全員がいっときは「生きた心地もしなかった」30分間でした。

今後は「絶対に単独行動は慎むこと」を指導の基本に据えることを改めて肝に銘じたリーダーでした。またベテラン度が一皮むけました。

お詫びと口封じのためにリーダーハンターが夕食代を払ったことは言うまでもありません。ヘリコプター出動に比べたら安いものです。

お騒がせしてご心配いただいた各方面の方々に謹んでお詫び申し上げます。

追伸: 写真は反省会を兼ねたすき焼きパーティーのお裾分けです。




ケロウナ便り(105) ある松茸ハンターの告白(2)

2010年09月18日 04時11分52秒 | Weblog
この漁場はハイウエイに沿って平行に横歩き出来る「浅瀬」が多く、森の奥まで分け入る必要がない、初心者向きともいうべきコースです。適宜笛を吹いたり大きな声でやり取りしている仲間の声を聞いて安心したこともあり、新人の面倒をみるリーダーの立場を離れて、このベテランは自分の「漁」に一瞬没頭したに違いありません。

暗い森の中で「白い点」を探し続けるうちに約束の30分が近くなった気配です。そろそろ引き揚げて帰る準備をせねばと、シャンテレールのいっぱい詰まった袋を片手に、やや急斜面ではあるけれど、それほど奥に入ったわけでもないので、道路の明るさの開けているはるか前方を目指して下山しはじめたのです。

苔むした倒木に足を滑らせながら、熊か他の動物の残した物と思われる糞の状態をチェックしながら、湿った山肌を歩くこと10分程度、ようやく視界が開けて下界に到着です。

????? あれれ、ハイウエイではありません。最近拓けた風情の漂う林道じゃありませんか。いったいどうなってんの?後ろを振り返ると、たった今自分で下ってきた森の斜面が真っ黒い姿を見せながら「戻ってくるか?」と呼びかけているようです。

熊鈴とホイッスルの他には時計も磁石も携帯も持ち合わせない、何とも無用心なリーダーです。こんなことは想定外だったのです。

何年か前にある知人が同じような状況に陥り、林道を2時間以上さまよった挙句に自力では仲間と合流できず、たまたま通りかかった林業のトラックに助けられて事なきを得たという話を思い出しました。ただ、今回は時間がありません。もう5時を過ぎているはず、あと2時間もすると日没で漆黒の闇と化すのは必然。リーダーの心中穏やかではありません。

フェリーで聞いた熊情報も脳裏をかすめます。念のためあたりを見回しますが、それらしい影は無く、まずは一安心といったところです。念入りに熊鈴を鳴らし、元気づけにホイッスルも吹いてみます。とにかく自分を鼓舞して、これからの身の処し方を冷静に判断するしかないのです。約束の時間になっても戻ってこないリーダーを心配する仲間の姿が目に浮かび、心は千々に乱れます。

「せいぜい30分かけて降りた山、また30分かけて登れば元に戻るじゃん!」なんて言うのは、無責任な傍観者の言い草です。こんな当たり前のことが当たり前に発想できない心理状態なのです、遭難者は!

残された時間と熊のことを考え、森に戻る選択肢は捨てて誰かに遭遇する幸運を託して林道を進むことに決めました。林道を右に行くと、まだ開発途中なのか伐採された大きな木が横たわっていて林道の体をなしていません。どうやら林道のスタート地点は左に進んだところにありそうです。あとはスピードを速めて一目散に進みます。

走っている姿を熊に見られたら、逃げていると勘違いされて追いかけられるかもしれないので、走らずに「歩く」ことに徹したのです。熊と遭遇したら、じっと熊の目を見て視線をそらさずに徐々に距離を開け、決して死んだふりなんかするな。こんなノウハウを自分に言い聞かせながら夕闇の近づく林道を一人歩くベテランハンターを誰が想像したでしょうか。

ハンターのカミさんのセミプロ、一緒に来た仲間の心配顔、彼らなりに「次の一手」を模索しているに違いない状況が手に取るようにわかります。リーダーは安全だよ、熊にやられてないよ、まだ生きてるよ、林道をどっちだか分からないけどとにかく進んでるからもうちょっと待っててよ。もしチャンスがあったらハイウエイ沿いの林道らしきところに入って来てみてくれない? 

こんなことを連絡し合えないもどかしさだけが募ります。時間だけが速足に過ぎ去ります・・・・。


ケロウナ便り(104) ある松茸ハンターの告白(1)

2010年09月16日 13時53分55秒 | Weblog
夏の終わりに毎年訪れる松茸街道。師匠の付き添いで5年前に始まったアロー湖沿いの松茸狩りも今年で単独行動3年目、この世界ではそろそろベテランの域に入った、ある松茸ハンターのお話です。

3年前に開発した漁場へは二台のフェリーを乗り継いで行くのですが、二台目のフェリーにはいつも他の客がいたことがありません。今日はハンターが指南役を勤める二組のお客さんの他に林業関連機械の整備をするという地元の業者のトラックがフェリーに同乗していて、いつになく活気を呈している今日のフェリーです。

松茸狩りとは無関係に見える整備業者との何気ない会話からでも情報を得るのがベテランのベテランたる所以です。
「やあ、おつかれさま。どう、松茸ハンター最近結構来てる?」
「今日も先ほどのフェリーで二組ほど森に入って行ったよ」
「まだちょっと早いかなと思ったんだけど、お客さんもあるし、来てみたのよ」
「そろそろ季節が始まったみたいで、それなりに採れてるみたいよ。でも、今年は好物のブラックベリーが不作で、食料に困った熊が例年以上のペースで餌探しに来てるらしいから注意したほうがいいよ、本当の話」
「そりゃ気をつけなくちゃね。サンキュー!」

熊避けの鈴をベルトに下げたり、森の中で迷子にならないようにホイッスルを各自持って、随時笛を鳴らして連絡しあい、単独行動は慎むようにと、指南役のベテランハンターとしては培ったノウハウを惜しげなく新人ハンターに伝授しています。人材育成もベテランです。

ハンターの十八番の漁場は林道の悪路を40キロ近く走った奥のまた奥なので、新人教育には無理があろうと判断し、今日は入り口から5~6キロの地点で実習開始です。まず小手調べといった趣ですね。

9月下旬~10月上旬が松茸シーズンなので、今回はまだ1~2週間早いかなと危惧したとおり松茸の「まの字」も見当たる気配がありません。例年ならたくさん見つかるシャンテレールも今年はあの白い姿を現しません。ハンターの責任でもないのに、なんとかしてあげなくちゃと、責任感の強いハンターは心を痛めながらの実習教育です。

そのうちハンターのカミさん(実は彼女の方がプロに近いワザを持っているセミプロだと専門家筋は見ています)が「ちょっと育ち過ぎだけど、マツタケがいたよ!」と第一号発見!新人たちから尊敬と羨望のまなざしを一身に浴びています。セミプロさんもまんざらでもなさそうです。ホンモノ松茸の香りを新人の鼻先に持って行って「こんな匂いのを探すのよ!」と、こちらも後進の指導に余念がありません。

ピクニック気分でお昼ご飯を美味しくいただいてから、フェリーに戻る道すがらに2~3スポットに立ち寄って様子を見ましたが、新人が2~3本の小ぶりの松茸をヒットした以外は思わしくありません。こういう時は長居せずに次のチャンスでの挑戦を思い描いて、潔く撤退することも必要と、ベテランが一行を説得して帰路につきました。

朝通った同じ道を帰るのも芸がないので、ちょっと遠回りながらナカスプの街を経由してレベルストーク経由で帰ることとし、その途中で5年前に師匠に教わったポイントに立ち寄ってみようと、どこまでも新人思いのベテランハンターです。

でも、そろそろ4時近くでもあり、これまた長居せずに、文字通り「サクっと」立ち寄るだけであることを一行に説明することも怠らない、何事にも慎重かつ用意周到なベテランです。

ベテランハンター、セミプロのカミさんは言うに及ばず、二組のお客さんの誰もが想像すらしていなかったことが、この後起こるのです。あってはいけないことが起こったのです。


ケロウナ便り(103) 中級スペイン語の顛末

2010年09月04日 14時04分39秒 | Weblog
偉そうなことを言いましたが、結局今年も中級のマスターは見送ることとなりました。

7月の4クラスは皆勤賞ものでしたが、8月に入ってからはお盆休暇を中心に日本の友達が千客万来、一緒に遊び回っているうちに、どうしても月曜日の夜の時間が取れなくなって、結局3週連続でサボるはめになったのです。

サボるに際しての私の言い分、言い訳は次のとおりです。

まず毎週の授業は、中級らしい文法の解説を期待していたのに、テキストを使うでもなく、前週のおさらいを中心に雑談的に進み、時々先生が生徒に質問する程度のものであり、一度欠席したら次の講義に追いついていけないというほどの緊張感がないのです。ま、言ってみれば、サボり易いクラスなのでした。

私がサボり始めた前の週、つまり7月の最後のクラスにいたっては、私を含めて3人だけの教室でした。サボっているのかドロップアウトしたのかは不明でしたが、先生にしてみれば張り合いのないことだろうなと、他人事ながら心配したものです。

この先生はUniversity of British Columbia(UBC)で英語とフランス語をダブルで専攻したバリバリの若手語学者らしく、一つ一つの単語の語源やら、他の言語との共通性なんぞを講釈してくれて、それなりに面白いのですが、どうも千差万別のレベルの多国籍学生を教えた経験が少ないのか、ご自身でクラス運営のペースを掴む前に生徒の方から離れていったのではないのでしょうか。

多分私も「同じ穴のムジナ」と思わてたのでしょう。ドロップアウトしたと思われていたのでしょう。私にしてみれば「落伍したのではなく、たまたま忙しかったから欠席しただけ」と最後に説明して身の潔白を訴えるため、お詫び方々8月の最後の講義に出席してきました。

定刻になっても他の生徒が教室に入ってくる気配がありません。そのうちに先生が「定刻だから始めましょう。今日は個人授業ね」と言いながら手持ちの分厚いテキストを開きます。そして、一冊しかないテキストを私にも読めるようにとの心配りですが、先生と私が机のコーナに「Lの字」で座るような格好になっているのです。授業に熱が入ると、先生が身を乗り出して「準横並びツーショット」状態になるのです。

大勢の生徒のときは廊下へのドアを閉めるのですが、さすがに二人だけの今日の教室では廊下へのドアも開いたままでした。たまたまなんでしょうけどね。

今日のクラスの始まる前に見た、廊下の掲示板に張り出してあった予告では、秋のスペイン語クラスは他の先生が担当するとの内容でした。この先生では生徒が集まらないからかと余計な心配をして、ここらへんの事情を先生に尋ねてみました。この手の込み入った話は勿論スペイン語上級者の範疇なので、中級以下の私は英語で聞いたのですが。

先生の計画ではケロウナ地区に農業従事者として移住して来るメキシコはじめラテン系移民のためにESL(English as a Second Language、英語教室)を自宅で開校するなどの予定があり、秋の講座担当は見合わせたとのことで、こちらもホッとした次第です。

今日の個人授業の内容(文法の勉強を交えながらの文章読解)こそ、私がイメージしていた授業内容に沿ったもので、私のニーズにぴったりフィットだったのです。どうやら、安い受講料で遊び半分で受ける授業では語学なんて身につかないということなのでしょうか?

そこで、さっそく先生とご相談です。もしも、もしもですよ。もし来年私がケロウナに来たときに、先生の都合が合えばですけど、個人教授なんてアリ?(これも英語でした、為念)

先生も真面目に、「Como No? レベルの違う生徒と一緒よりも個人授業の方が遥かに効果的なのよね」と、やる気充分です。

来年の私の気力と資力がどうなるのやら、先行き不透明ながら、先生の電話番号とメールアドレスはしっかり頂戴して、来年の再会を約して、今年の中級スペイン語教室は閉講となりました。

Hasta entonces!!