運転者の注意を喚起するとともに、車に徐行ないしは停止して「もらう」ために、日本では歩行者が手を挙げて横断歩道を渡る習慣があります。それを無視してすっ飛ばすマナーの悪いドライバーもいるので、横断歩道を渡っても安全かどうかを歩行者が確認しながら注意深く渡っているとういのが実情だと思います。こちらが横断歩道に入って明らかに歩き出そうとしている姿を見ていながら、一向にスピードを落とさない悪質なドライバーには、懲らしめのために、こちらもわざと早足で横断するようなフェイントをかけてやることがよくあります。焦って急ブレーキを踏み、こちらを睨みつけますが、こちらも睨み返しながら運転マナーを教えてやっています。ある意味「命がけ」の指導です。
カナダでは人が横断歩道に入ったら(横断歩道に入ろうとしていたら)、横断を始めていなくても車は止まることが道路交通法で義務付けられています。つまり、運転者は横断しようとする人がいるかどうかに常に注意を払い、横断しようとする人がいたら必ず停止して、決して歩行者の邪魔をしてはいけないのです。
交通量の多い道路でも安全に横断するための横断歩道ですが、そこまで行くのが面倒くさいので、適宜判断して歩道以外の場所で自己責任のもとで横断しているのは日本でもカナダでも同じことです。
横断歩道を巡る「異文化の衝突」のお話です。
午後9時半を過ぎても「薄暮」より明るさの残る真夏のケロウナ。ゴルフ場に沿って住宅の並ぶリゾート内の道路。我が家に向かって左折する丁字路近くで4~5人の男女がブラブラ散歩しながら横断しているらしい姿を手前から認めました。横断歩道ではありません。二人は急ぎ足に横断したものの他は左側に残っています。「車が来るから早く渡ろう」というはっきりとした横断の「意思」が感じられません。私の車をやり過ごすために横断を中断したようなので私は徐行しながら左折しました。ルールに叶った行動で、非の打ち所がありません。
すると、左折している私の車にゴルフクラブを二本持った爺さんが近づいてきてクラブで車を叩きます。グリップ部分であったから損傷ありませんが、こちらもムッと来て車から飛び出し、道路を挟んでの異文化間コミュニケーションです。
「Excuse Me?」(語尾を精一杯高く上げ、『おいおい、なんだっつうのよぉ!』)
「We are crossing the road, don’t you see? 」(『横断してるの見えないのかよぉ?』)
「No pedestrian’s crossing here! 」(『ここは横断歩道じゃねーじゃねーかよぉ!』
「Are you going to kill us?」 (『汝は我等を殺す気なりや?』)
「ハア?(語尾上げ)アホらしい、くそ爺ぃ!バ~カ!」(英語が面倒くさいのと、表現方法に自信が無かったので、最後は日本語での捨て台詞でした。)
むかっ腹が収まった後の冷静な分析結果は次の通りです。
① 横断歩道の無い道路での対処の仕方には、当方には落ち度は無く、違法行為は無い。
② 交通量の多い一般道路とは異なるリゾート住宅地内の道路には「横断歩道」は無いものの、交差点には眼に見えない「横断歩道」があるとも解釈でき、交差点をブラブラ渡っていた連中を責めきれない。
③ リゾート内道路でもあり、一旦停止して「横断させてあげる」ゆとりが欲しかった。法以前の道徳、マナーの範疇の問題。カナダ人なら停まったと思われる。
④ 爺さまは「自分なら停止して横断させてやる」状況で、停止しなかった車に怒りが爆発。但し、クラブで車を叩くのは暴力行為。この点はキッチリと言ってやる必要あり。
それにしても、とっさの一言は日本語でも難しく、「あの時ああ言えば良かった」と反省したり後悔したりするものです。同文化の中でのコミュニケーションでも難しいのに、上の分析内容を現場でとっさに英語で意思疎通しなければならない異文化コミュニケーション、難しいものですねぇ!