緊張感を身体中に漲らせながらも、確実に落ち
着きを取り戻した娘を確認して、私も少し安心
しました。
いつものように、ドレスのリボンをしっかりと
結んであげて、最小限の言葉を掛けて、送り出
しました。
卒業実技試験の曲は、E先生と相談して選んだ、
ラヴェルの「鏡」。
プロコフィエフのピアノソナタ2番も候補にあが
り、こちらの曲もしばらく練習しましたが、最
終的にラヴェルに決めました。
娘の持つ音は、ラヴェルの曲ととても相性が良
いので、これが正解だったと思います。
とはいえ、曲がしっかり定まってからここに至
るまでの道のりは、本人が覚悟していた以上に
ずっとずっと険しいものでした。
素人が演奏を聴いて、なんて綺麗な音! 曲の
イメージにぴったり! 情景が思い浮かぶ!
などと好意的に思ってもらえることももちろん
大切ですが、そうした表面的な感想とはかけ離
れた、もっと深く、もっと細かい部分。
テクニックにしても、表現にしても。
曲に向かい合って苦しむのは毎度のことではあ
るのですが、今回はやはり特別中の特別。
音高に入学してから7年間、ピアノを始めてから
13年間の集大成。
当事者にとっては、ただただ冷たく、暗く、恐
ろしい存在の卒業実技試験。
ここを乗り越えない限り次には進めない、行手
を阻む化け物のような。
