眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

歌会

2023-04-04 | 
青い月明りに導かれて
 僕等は窓から逃避行した
  風が優しく耳朶を撫で
   昔歌を口ずさみながら散歩を続けた
    行き先はあの草原だった
     たっぷりのワインと煙草を手に
      上機嫌の僕等には柔らかな青の光が道しるべとなった
       ヘンゼルとグレーテルみたいね。
        少女が呟いた
         お菓子の家にはたどり着けないよ。
          僕が云うと
           いい、甘ったるいのは嫌いだから。
            お酒と煙草があれば何もいらないわ。
   
            草原にたどり着いた僕等は
             大きめのマグカップにたっぷりとワインを注ぎ乾杯した
              安いハウスワインだったけれど
               酔っぱらうには十分な味だった
                二人で煙草を吹かし
                 僕等は静かに青い月明りで月光浴をした
                  世界は静寂で風は優しく
                   僕は生きていることを感謝した
                    こんな日が来るなんて
                     あの頃には想像も出来なかったからだ

                     それからマグカップにワインをなみなみと注ぎ
                      今はいない君に乾杯した
                       あるいは過去の記憶に向けて

                       ね、
                        あなたはいつまでもあなたなの?

                         少女が不思議そうに僕を見つめた          
                          
                          どうして?
                           僕は僕のままだよ。
                            ころころ変わるほどカメレオンにはなれないしね。

                             あなたはだから時代遅れなのね。
                              あなたには友達はいたの?

                               僕は苦笑いしながら答えた

                                いたよ。
                                 大切な友達が。

                                 彼等彼女等は何処に行ってしまったの?

                                  少女の茶色の瞳が哀しげに問う

                                  みんな消えてしまったよ。
                                 変わっていったんだ。
                                みんな大人になってしまったのさ。

                               僕は世界に取り残されたのだ
                              みんなあたらしい扉を躊躇なく選び
                             少年少女の世界に別れを告げたのだ
                            それはどうしようもない事柄なのだ
                           そうして僕だけが
                          永遠の夜の子供として青い月に導かれたのだ

                        寂しくないの?

                       寂しさに慣れたことなんて一度もないよ。
 
                      ただ歌があったんだ。

                     歌?

                    そう。
                   歌が救いだったんだ。

                  僕は古臭い19世紀ギターを引っ張り出し
                 調弦をして
                埴生の宿を歌った
   
               そのメロディー聴いたことがある。

              そう云って少女は口笛を吹いた

             僕は
            てぃんさぐの花を歌い
           えんどうの花を口ずさんだ

          あなたの故郷の歌なの?

        少女が尋ねた

       そうかもしれない。きっともう忘れてしまったと想っていたのにね。

      僕は青い空と青い海を想った

     そうして世界がしあわせであるように願ってワインを飲んだ

    もっと歌って。

   酔っぱらった僕等は
  ありったけの歌を歌い続けた
 
 青い月夜の歌会




君に届きますように



  そう願った




















                       
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