クーラーをいれろよどうせ戦争だ 北大路翼
「クーラーをいれろよ」と周囲に叫ぶ場面を想像してみる。間違いなく夏である。そしてかなり暑い、熱いと言ってもよい。身心ともにとても耐えられないほどだ。しかし、その理由は違った。【どうせ戦争だ】というのである。戦争が迫っているということは、どうにもならない諦めが伴う。生殺与奪とはそういうことである。「どうせ」の一言がとてつもなく重い。作者はことし39歳。一昨年に出した『天使の涎』が、句集としては異例のベストセラーとなった。俳句の世界では新鋭として、まさに油の乗り切った年齢である。同時に、老境の詩とされて来た旧来の俳句に抜け落ちていた危うい自我をめぐる情況を、わずか17音の中にセンセーショナルに詠み込むという離れ業をやってのけた。・・・《続く》
北大路翼 筆【歌舞伎町俳句一家屍派】