1970年代の特徴を一つ挙げるとすれば、その空虚さに尽きる。何もかもが手応えが無く、何かにつけ将来性が乏しかった。先行する世代からの継承は無きに等しく、後続する世代へ託すものも皆無であった。私たち70年代前半から半ばにかけての世代は、ひたすら内に籠もる他なかった。そんな中で、ジャズ喫茶ではロックとの【クロスオーバー】やヒッピー・ムーブメントに続く【ニューエイジ】の実存するものとしての【自然の普遍化】が徐々に主流を占めつつあった。チック・コリアの「リターン・トゥ・フォーエバー」や「ウェザーリポート」、キース・ジャレット、ハービー・ハンコックなどである。それらに加えて静かだが人知れず、黒々とした熱気を発していたのが【フリージャズ】であった。・・1976年の秋も深まった頃、東京の中央線の行き止まりにあるジャズ・スポット【八王子アローン】で、米国のフリージャズ・ドラマー【ミルフォード・グレーブス】のパフォーマンスは頓挫した。聴衆は自然発生的に会場側と団交し、時間無制限の討論への移行を勝ち取った。これが《勝利》と言えるかどうか、はなはだ疑問である。ミルフォード・グレイブスという《場》は実現することは無かったし、私たちは1970年代という時の流れに呑み込まれてしまったのだから。私たちは、1976年のこの時どこに追い込まれ、どこに向かって脱出しようとしていたのだろうか?・・・《続く》
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