戦前の洋風建築というと、東京駅や日本銀行、横浜や神戸の瀟洒な洋館など、大きな都市の立派な建物を思い浮かべますが、地方の小さな町では、大規模な洋風建築はまずお目にかかれません。当時、洋風建築を建てるのには、それこそ莫大な費用が必要でしたので、田舎町で洋風建築と言えば、まず役場や学校、公民館、郵便局などの公共の建物で、それも木造下見板かモルタル造りの小規模で質素な建物でした。それでも当時としては、最新の洋風様式を取り入れた町のランドマーク的な建物だったのです。
そんな数少ない町の貴重な戦前の洋風建築も、戦後の高度成長期以降、ほとんど建て替えられてしまいました。役場や学校は、新築にともない取り壊されたものがほとんどですが、郵便局は新築されても取り壊しをまぬがれ、現存しているものが結構あります。戦前の町の小さな郵便局は、個人所有のものが多いので、戦後局舎を新築する際は、別の場所に建設して、旧局舎はそのまま個人の住宅の一部や倉庫として使われたようです。
歴史の古い地方の町を訪れたら、現在の郵便局の近くにひっそりと建っている古い洋風建築を探してみてください。その役目を終え、静かに余生を送る戦前の郵便局が見つかるかもしれません。
◆旧彦根河原郵便局(滋賀県彦根市)
◆旧萩原郵便局(愛知県一宮市)昭和1年
◆旧稲葉郵便局(愛知県稲沢市)
◆旧岩村郵便局(岐阜県恵那市岩村町)昭和3年
◆旧津島門前郵便局(愛知県津島市)※取り壊し
◆旧各務原駅前郵便局(岐阜県各務原市)昭和14年
◆旧川島郵便局(岐阜県各務原市)昭和11年
◆旧加治田郵便局(岐阜県加茂郡加治田町)※取り壊し
◆旧土岐郵便局(岐阜県土岐市)昭和11年
残念ながら取り壊されたようです。玄関の鬼瓦に〒マークが入っています。
◆旧昭和橋郵便局(岐阜県多治見市)昭和9年頃
スクラッチタイル貼りのモダンな建物。
◆旧兼山郵便局(岐阜県可児市兼山町)明治36年
現存しているのが奇跡のような貴重な明治の郵便局。今後の保存活用が望まれます
◆旧明智郵便局(岐阜県恵那市明智町)明治8年
大正村の逓信資料館として幸せな余生を送っています。
◆旧佐織勝幡郵便局(愛知県愛西市勝幡町)
正面の〒マークがアーチに沿ってカーブさせてあります。
壁面の装飾などモダンな洋風建築の面影を良くとどめています。
~町の小さな郵便局の特徴~
○建物は木造(予算上鉄筋コンクリートはまれ)
○建物の真ん中に入り口、左右に窓を配したシンメトリーな構造が多い
○局舎の横や裏に住居部分が付属
○当時栄えた旧街道沿いに立地
現在は空き家や倉庫になっている建物がほとんどですが、
街角の近代化遺産として、ぜひ保存活用の道を残して欲しいものです。