思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

『レコンキスタ』 イベリア半島の800年

2025-01-07 11:48:12 | 日記
『レコンキスタ』
黒田祐我

中央公論新社。
副題が“「スペイン」を生んだ中世800年の戦争と平和”です。
800年もレコンキスタやってたんかーい。

と思ったら「レコンキスタ」というイデオロギーは
後から現れ、便利に活用されたものだった。
なるほどね。

現代ではスペイン・ポルトガルがあるイベリア半島を
キリスト教徒とイスラム教徒が取り合って戦っていた時代が
いわゆる「レコンキスタ」の時代。

5世紀まで遡って、ゲルマン民族大移動して、
イベリア半島にゲルマン系西ゴート族が国をつくるところからスタート。
すでにカトリック系ね。

そこに711年、ウマイヤ朝(アラブ人王朝、首都はダマスクス)が
アフリカ方面から上陸。
征服されたイベリア半島は「アンダルス」となります。

でもまあ、イスラム王朝の支配って寛容だから。
キリスト教徒は引き続き住み続けるし(彼らを「モサラベ」と言う)、
信仰も変わらないし、ジズヤ(異教徒が払う税金)で国庫も潤うし。

一方、山岳地帯の向こう側、ど田舎の辺境地帯で
アストゥリアス王国が地味〜にキリスト教国として誕生。
アンダルスを攻める(略奪したりする)理由づけとして、
レコンキスタ・イデオロギーを創り出したのがこの国の
アルフォンソ3世。
後継のレオン王国とキリスト教圏全体に引き継がれる思想である。
キリスト教国ほんとそれな。言い訳正義マン。

1031年、後ウマイヤ朝が滅亡すると、
アンダルスは分裂して第一次ターイファ時代へ。
ターイファは「地方政権」。統一するトップがいない。
日本で言う戦国時代ですね。

その後はムラービト朝やムワッヒド朝が介入するけれど
気づいたら13世紀、カスティーリャ王国が
イベリア半島のほとんどを支配する時代に。
あと、気づいたらポルトガル王国が静かに誕生してた。
本音を言うと気づかなかった笑

イベリア半島の地中海側(方向音痴的に言うと右上)には
アラゴン連合王国。
なんか聞いたことある。
北方にはちっちゃいけどナバーラ王国。
こっちも聞いたことある!

ちなみにアラゴン連合王国は、
フリードリヒ2世没後のごたごたに乗じて
シチリアをゲットした国でもある。
お前か!

1348年にはイベリアにペスト上陸。
キリスト教徒もイスラム教徒も等しく感染します。
カスティーリャは内乱、アラゴンは飛地の支配力低下、
イスラム朝最後の砦であるナスル朝はなぜか最盛期を迎える。
歴史って予測通りに進まないものである。

あと1356年にカスティーリャ王国が
後継者問題で内戦やってるんですが、
それぞれの陣営にイギリスとフランスがついていて、
100年戦争の場外戦だったそうです。よそでやれ。ここがよそか。

1492年にナスル朝グラナダ陥落にて、レコンキスタ終了!
すぐにイスラム教徒がいなくなるわけではないけれど。
この後のスペインはアメリカ大陸に進出し
「日の沈まぬ帝国」として、
対プロテスタントのカトリック盟主国として、
ぶいぶい言わせる時代。
異教徒も、改宗したキリスト教徒も、追放令と異端審問とで
厳しく取り締まる。
不寛容!

そんなこんなでキリスト教国はオスマンの宗教的寛容政策と
比較されがちだけれど、一概には言えないけど、
的なことを黒田先生は言っている。
まあ、私個人は、不寛容!と思います。

ところでいつからカスティーリャは「スペイン」になったんだ?
そこだけよくわからなかったな。
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『ペドロ・パラモ』 マジックリアリズム!☆5つ!

2025-01-06 16:46:33 | 日記
『ペドロ・パラモ』
フアン・ルルフォ
訳:杉山晃/増田義郎

「ラテンアメリカ文学ブームの先駆けとなった古典的名作」
1955年初版。スペイン語。

作者のフアン・ルルフォはメキシコの作家で、
作品はこの『ペドロ・パラモ』と短編集『燃える平原』の
2冊しかないという超絶寡作な人。
ですがメキシコを代表する作家と呼ばれ、
ガルシア=マルケスも現代メキシコ人も
『ペドロ・パラモ』が大好きなのだそうです。

この小説、マジックリアリズムの名作でもあり、
話者や視点や時間がぽんぽこ飛びまくる短い断片が
小気味よく繋がって読者を翻弄します。

一応、主人公は「おれ」ことフアン・プレシアド。
一度も会ったことのない父ペドロ・パラモに会うために
コマラという名の町を訪ねるところから始まります。

が、いきなり誰かわからない少年の回想に飛ぶ。
そして父はもう死んでいるらしい。
なんならコマラという町もゴーストタウンだし、
一晩泊めてくれたおばさんも死んでいるし
フアンも死んでるよねこれ状態である。

死者たちの回想の物語なのである。

でもあんまり怖くない。
メキシコ(もしくは南米)は死者が地上と行き来しやすいのかな。
生死の境が曖昧というか、連続しているというか。

そして南米文学特有の、熱帯夜の寝苦しくて暑苦しくて
浅い眠りの向こうに見える悪夢みたいな感じ。
死者の世界に迷い込んでしまったような
心許ない風景や会話。
結構好きなのである。

この死者との距離の近さ、静かな怖さみたいなのは
スペイン語圏の特徴なのか、
やはり南米という場所の持つパワーなのか。

『黄色い雨』
『レクイエム』
などを思い出した。

☆5つ!
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『乙女の密告』 いけず京乙女の乙女物語

2024-12-24 13:05:47 | 日記
『乙女の密告』赤染晶子

私は常々思っていたのです。
森見登美彦が好きだけれど、
くされ京大生の四畳半も臭そうな青春も良いのだけれど、
乙女の物語はないのか。
まあ、ないよな。

と思ったらこんなところにあったよ。
乙女のための乙女たちの物語が!
高尚な文章でどうかしてる乙女の生態を描く、
いけずな乙女物語が!

というわけで『乙女の密告』ですよ。
京都の外国語大学に通う乙女たちの物語です。
麗子様や百合子様が高嶺の花っぽく登場しますが、
実態は「留年組」である。
お姉様たちをよびすてにはできないよね。

ゼミの乙女たちは黒ゆり組とすみれ組に別れている。
宝塚っぽいが、分け方は変人バッハマン教授による
「いちご大福とウィスキーどちらが好きですか」
への回答次第で適当に、である。
なんじゃそりゃ。

そんな変人バッハマン教授はアンゲリカ人形を
常に抱いている。話しかけている。
変人だ!

そして乙女たちはアンネ・フランクの「アンネの日記」を
ドイツ語で読むスピーチコンテストに向けて
血を吐いている(がんばっている)。

いいね!
乙女だね!

いやもう最高。
すごく好き。

赤染晶子さんは『じゃむパンの日』も最高に良いのですが、
若くして鬼籍に入られたそうです。
もっと他の作品も読みたかった作家さんだけに、
残念。
『乙女の密告』は2010年芥川賞受賞作。
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『味でさぐる世界の文化 ヨーロッパ・中近東』 健啖先生の地政学的な食エッセイ

2024-12-23 10:28:26 | 日記
『味でさぐる世界の文化 ヨーロッパ・中近東』
西岡秀雄

著者は人文地理学の先生。
慶應の名誉教授も務めた人ですが、
日本トイレ協会名誉会長でもある。
肩書きの幅広さよ。

人文地理の先生が世界各国を回った際に感じた
ご当地食文化を綴った一冊。
なので、歴史や地理を踏まえてレポートされている感じ。
楽しい。

ちなみに初版は1990年である。
ロシアはソ連で、ドイツは東西に分裂しています。
時代…。

先生の滞在頻度によって情報量も変わるようですが、
特にフランスが厚いですね。
フランスは緯度が高い割に、偏西風のおかげで温暖。
(勉強になるなあ)
おとなりのドイツ(黒パン、ビール)に比べても
自然の恩恵に恵まれている(白パン、葡萄酒)土地柄。
ただし水は悪いので、食事のお供はワイン。
コニャック地方は地質が悪くて上等なブドウがつくれないので、
下級ブドウ酒を蒸留してブランデーにしたのが
高級ブランデー・ヘネシーの始まり。

18世紀は数十年おきに猛烈な寒波に襲われて飢饉に。
1789年はパリが零下31.8度を記録し、セーヌ川が凍結。
寒すぎ!
そりゃフランス革命も起きるよな、と思ってしまう。
そんな飢饉であっても美味しい料理を追求するから
ザリガニやエスカルゴの料理があるのでは、と。
まあ、一理ある気はしますが、どうでしょう笑

って感じで各国の食文化が先生のエッセイ風に紹介されます。
小ネタも多い。

イギリス人は保守的でしきたりを守りたがる。
朝食はベーコンと卵と決めたら、親子3代ずっとそれを守る、とか。
優秀な種牛は輸出して、自国民は安い牛肉を食べるとか。
イギリスのことあまりお好きじゃないのかな笑

ポルトガルにはタラの料理法が365種類あるらしい、とか。
毎日タラ食ってるってことかな。

デンマークビールの始まりは、
コペンハーゲンの酒屋がドイツ・ミュンヘンの醸造工場から
盗み出した一握りの酵母から、とか。
絹を盗んだ坊さんエピソードみたいだ。

にしても、先生、いろんな国に行ってらっしゃるなあ。
各国で地元の食文化を取材しているのは偉いなあと思うし、
相当に健啖なんだろうな。
うらやましい。
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『物語 ヴェトナムの歴史』 安南!大越!知ってる!!

2024-12-20 15:14:52 | 日記
『物語 ヴェトナムの歴史』
小倉貞男

中公新書の<物語歴史>シリーズのヴェトナム篇。
正直、ヴェトナムの歴史?自分には関係ないかな〜?
などと思っていました。
が、「安南」「大越」と書かれると、
途端に「中国史でよく見るやつ〜!!」となる。
勉強不足ですみませんでした。

そんなヴェトナム。
なんとな〜く、ず〜っと、中華帝国の一部だったり
朝貢関係にあったり、というイメージではある。
(あながち間違ってはいない)
が、面従腹背というか、意外としたたかに生き、
独自の文化を紡いでいる。
いいですね!

ヴェトナム人の始祖伝説をたぐっていくと、
中国でおなじみ「神農」と言われるらしいです。
その子孫が仙人やら龍やらと結婚して
100人子供が産まれて(百越)
(って、どういうことかよくわからん。百人兄弟なの?
「百越」という紀元前の国(群れ)の名前なの?)
第一子の「雄王(フンヴォン)」がつくった「文郎(ヴァンラン)国」が
ヴェトナム最初の国家だそうです。

そんな文郎国を西甌(たいおう)が滅ぼし甌貉(おうらく)国をつくり、
秦の始皇帝から派遣された趙佗(ちょうた)が甌貉を陥落させて
南越国を創建。
秦の後の漢は「南越ってうちの国の一部だよね!」と考える。
なるほど、もうわからん。

漢字のふりがながヴェトナム読みなので、
固有名詞がまったく覚えられない笑
貉(むじな)の音読みってなんだっけ〜!?と。
(音読みは「カク」だが、ヴェトナム語だと「ラク」と読むっぽい。
領主は貉侯(ラクハウ)、将軍は貉将(ラクトゥン)。
うむ、覚えられん)

えっと、なんだっけ。
ヴェトナム(ハノイ近郊)は、
西暦43年あたりから漢の直接支配下になって。
唐の時代には安南都護府ができた、と。それはわかる。
8世紀には中国留学中の阿倍仲麻呂も赴任しているそうです。
へえ。

939年、とうとうゴ・クエンが中国軍を破って独立(ゴ王朝)。
おお。おめでとう。
1009年にリ・コウ・アンから始まるリ王朝は初の長期政権。
一応、宋に朝貢したりして上手くやっている。
リ朝時代に孔子廟を建てたり、ヴェトナム最古の大学ができたり。
1225年にはチャン(陳)王朝スタート。
モンゴル(元)が3回も攻めてきてぼこぼこにされるが、
なんとか撃退する。すごいぞ!
チャン氏は元々は漁民で、艦隊が強かったようです。
元は日本でも船が沈んじゃったからなあ。
騎馬民族と水は相性が悪いんだな。

15世紀のレ朝時代、中国は明の時代。
相変わらず面従腹背。
南進して領土を拡げ、「ヴェトナムが最も発展した時代」だそうです。
16世紀はヴェトナム南北200年戦争。長い!
ケンカしてる場合じゃ無いぞ、世界は大航海時代で
帝国ムーブかましにあいつらがやってくるぞ!
というわけで1847年、フランス軍がダナン砲撃。
フランスの植民地支配時代が1世紀つづき、
1945年にホ・チ・ミンがヴェトナム民主共和国の独立宣言。
知ってる名前きた!

まあ、すぐには独立も統一もできず。
南部にヴェトナム共和国(サイゴン政府)ができ、南北ヴェトナム戦争、
1975年のサイゴン陥落によりようやく
現在も続く「ヴェトナム社会主義共和国」へと統一されます。

長かった…。
いあや、前半、漢字が読めなくてへこたれそうでしたが、
おもしろかったな。
そして大変勉強になりました。
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