思惟石

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『さようなら、オレンジ』心のヒダが細かい話し

2021-04-05 13:22:14 | 日記
岩城けい『さようなら、オレンジ』読みました。

舞台はオーストラリア。
アフリカから家族とともに逃れてきた難民の
「サリマ」を三人称で描くパートと、
学術関連の夫について移住してきた日本人女性の
「私」が英語圏の恩師に宛てた手紙のパートが
交互に紡がれます。

日本人女性「ハリネズミ」と「サリマ」は、それぞれ、
大学関係者(英文学か?)と英会話もおぼつかない難民。

接点がまるでなさそうなのに、
なんとなく、ちょっとずつ、近づいていく。

特にサリマの心理は、とても細やかに描かれていて、
日本で暮らしていると想像すらできない環境に生きる
人の、心のヒダの、ディテールがすごいと思う。

とはいえ、
本質的に真実なのかというと、それは希望論というか、
正直、想像の部分は大きいよなあ、と心の一方で思ったのも事実

もちろん、「或る人物」の物語なのだから、
マジョリティの心理じゃなくていいのだけど。
最終的に、サリマの物語を綴ったのはハリネズミで、
想像の部分もあってむべなるかな、という構成。

これは、うまいような、ずるいような。うーん。

とはいえサリマの考え方の変化や、
周囲との関係性の変化は、読んでいて素直に心を打たれました。
良いと思いました!

第29回太宰治賞受賞作。
コメント
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