https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180920-00000010-sasahi-hlth略
寝ているときに息が止まる。しかも数秒ではない。ひどいケースだと2分近く止まり、体に大きな負担をかける──。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)という言葉を聞いたことがあるだろう。「ぐっすり眠れないだけでしょう」などと、考えているみなさん。甘く見ないほうがいい。
略
「計測できた約4時間半の間に、10秒以上呼吸が止まる『無呼吸』が42回ありました。長いときには98秒も止まっていました」
「低呼吸」も62回あり、いびきは343回に上る。医師の説明によると、脳が酸欠を避けようとして呼吸器や循環器に緊急指令を度々出すので、心臓などに負担がかかるという。略
<「いびきは中高年の男性がかくもの」というイメージが強いため、女性でいびきをかくのは珍しく恥ずかしいことと思われているかもしれませんが、実は、いびきは年齢も性別も問わず起こりうるものなのです>略
冒頭の会社員男性のエピソードでもわかるように、SASは心臓病など命に関わる合併症につながる。健常者と比べて脳卒中は4倍、狭心症・心筋梗塞(こうそく)は2~3倍、リスクが高まる。あなどっていると突然死しかねないのだ。
「SASは低酸素状態を繰り返すので心臓に負担がかかり、不整脈や狭心症を起こします。寝ている間も交感神経がずっと緊張状態にあり、血圧が高くなったり、インスリンという血糖を下げるホルモンが効きにくくなったりします。やがて糖尿病や、動脈硬化から心筋梗塞、脳梗塞になります」(村田院長)
男性も女性も、チェックリストを確認してみよう。いびき以外に二つ以上当てはまれば、SASの可能性があるので病院で相談したほうがいい。
SASになりやすい人は、口を開けて「あー」と発音したときに、口蓋垂(こうがいすい=のどちんこ)が見えにくいという特徴もある。自分ののどを見ておきたい。
SASのメカニズムも説明しておこう。
SASには閉塞(へいそく)性と中枢性があり、9割が閉塞性だ。寝たときに筋肉が緩み、重力によってのどの奥が落ちることで気道が狭くなり、低呼吸や無呼吸を起こす。ほかにもへんとうの腫れや肥満が原因で気道をふさぐこともある。少数の中枢性は、脳から呼吸筋に指令がうまく届かなくなることで起きる。
閉塞性の患者は、驚くほど大きないびきをかくことがある。
「気道が狭くなると、空気が通るときに振動します。この振動がいびき。無呼吸の人は気道がふさがってしまうので、いったんいびきも止まるのですが、苦しくなって呼吸が再開すると『ガー』と大きないびきをかきます」(同)
SASの診断基準は、無呼吸・低呼吸数が1時間に5回以上、または一晩に30回以上。重症だと1時間に30回以上も無呼吸になる人もいる。まさに窒息状態だ。
「苦しいから呼吸を再開しなさい、と脳が指令を出すことで、のどが開きます。そのたびに交感神経が働き、深い眠りに入る前に脳が起こされてしまうので、睡眠が分断されます」(同)
睡眠の質が悪くなり、日中の仕事のパフォーマンスも低下する。運転中でも強い眠気で意識を失うことがあるので、健常者より交通事故の発生率が7倍に高まるとされる。他人を巻き込む事故の原因にもなり得るのだ。
これまで「SAS=肥満中年おやじ」に多いと思われていたが、実は痩せている人にも多い。
「欧米人は太りすぎて気道がふさがることが多い。アジア人の場合はあごが小さくて奥行きが狭い骨格のため、気道がもともと狭くなっているのです」(同)
親やきょうだいがいびきをかく人は、骨格が似ているので自分もリスクがある。顔がしゅっとしてあごが小さい若者にも起こりうる。若いうちは口の周りの筋肉が張っているので、呼吸が止まることは少ないが、油断は禁物だ。
女性こそ注意しなければいけないのはすでに説明したが、特に閉経後は警戒しよう。女性ホルモンの刺激によって睡眠中の呼吸は促されているが、閉経すると女性ホルモンが減少し、肥満にもなりやすくなって無呼吸に陥りやすい。
恐ろしいSASだが、治療法はある。代表的なのが「経鼻的持続陽圧呼吸療法」(CPAP<シーパップ>)。治療用マスクを装着して寝ることで、鼻から空気を送り込み、気道がふさがらないようにするものだ。
CPAPは健康保険が適用される場合は、月1回、定期的に病院に通う。空気を送る装置のレンタル料金も含め、費用は月に4500円程度の自己負担となる。
CPAPは国内で30万人以上が受けているとされ、一般的になりつつある。装置も小型、高性能化し、呼吸の状況を自動的に記録できるようになっている。
ただ、慣れずに数カ月でやめてしまうケースも少なくない。前出の大場院長は、鼻を治療することで、CPAPが効果的になる人もいるという。
「鼻呼吸ができず、口呼吸が習慣になっている人は、鼻中隔(びちゅうかく)という骨が曲がっている可能性があります。耳鼻咽喉科で診てもらいましょう」
CPAPのほかにもマウスピースをつける方法や、へんとう摘出手術などが適応となることもある。酒やたばこなど、生活習慣の見直しも重要だ。
口の周りや舌の筋肉を鍛え、気道をふさぎにくくする方法もある。大場院長が勧めるのが、「いびき体操」だ。
「米国の医学誌に投稿され、この体操を行うことでいびきやSASを軽減する効果があると認められています」(大場院長)
舌を前に出す、舌を回転させる、口をすぼめるなど、8ステップからなっている。1回3セットからで、1日3回ほどやる。やりすぎて痛めないように、無理せず、できるだけゆっくりやる。やり方は、下記を参考に。(本誌・岩下明日香)
【チェックリスト】
いびき以外に2つ当てはまればSASかも!
□ 日中、強い眠気がある
□ 夜間頻尿が何度もある
□ 朝起きると頭痛がある
□ 起床時に口が乾燥している
□ あごが小さく、面長の顔
□ 体重が増えた
□ 高血圧、糖尿病などの生活習慣病がある
御茶ノ水呼吸ケアクリニックの村田朗院長監修
【いびき体操】
(1)口を自然に開け、ゆっくり2回ほど舌の先をぐっと突き出す
(2)舌の先を口の中に押し付け、大きく円を描くように舌を回し、逆回しで戻す
(3)上あごに舌を押しつけるように、2回ほど舌を持ち上げる
(4)舌の裏側を返すように意識して、2回ほど舌をそり返す
(5)舌をぐっと下げ、口蓋垂(のどちんこ)を上げる。鏡を見ながら、あくびをするときの要領で動かすと上がるのがわかる
(6)頬にへこみができるくらい強く、口をぎゅっと2回すぼめる
(7)口に指を入れ、指をくわえるように、口をぎゅっとすぼめる。左右2回ずつ
(8)口を少し開け、左右2回ずつ口の端に力を入れてつり上げるようにする
◆注意事項
・できるだけゆっくり行い、無理をしない
・1回3セットから、1日3回を朝昼晩
・半年から1年くらいは続ける
・口は大きく開けなくてもいい
・やりすぎて舌やあごを痛めないように
・神経に異常のある人や、口腔内・あごに異常がある人は、医師の指導のもとで行う
・あくまでもいびき・睡眠時無呼吸症候群の治療を補助するものです
※慶友銀座クリニックの大場俊彦院長の『いびき女子、卒業!』(主婦の友社)をもとに作成。