私は、緩和ケア科の外来の面談を、緩和ケア医とともに担当しています。
緩和ケア科の外来に患者さんが訪れることはまれで、主に、ご家族との面談になります。
患者さんが面談に来院されない理由は、体調が外来受診を許さないから、ということと、患者さんが緩和ケア科の外来受診を知らないという理由が十中八九です。
残念ながら、日本の今の現状では、緩和ケア病棟への入院を、一般の病院の緊急入院のように、「必要であれば24時間体制で入院可能」というわけには参りません。
緩和ケア病棟の患者さんの収容には、キャパシティーが少なすぎるのです。
そんなこともあり、外来受診をされてから、入院するまでには、1~2ヶ月ほど「入院待ち」しないといけないのが現状です。
私の属する緩和ケア病棟は、地方に位置するので、入院待ちはまだましなほうで、老舗?の施設では、緩和ケア科の外来を受診するために何ヶ月も待たなくてはならない状態だと、ご家族から耳にしております。
私も、そして、緩和ケア医も、心を痛めるのは、すぐにでも入院していただきたい、またはすぐにでも入院したほうがいい状態であるにもかかわらず、「入院待ち」をしないといけない場合です。
その場合は、他の施設からの紹介状を読んだだけで、余命が限られていると推測できるからです。
外来を受診されるご家族の表情はとても堅く、藁にもすがる思いで来院されている様子が手に取るようにわかります。
藁にもすがる思いは理解できるのですが、「何とかしてあげたい」という個人的な思いだけではどうしようもないのです。
緩和ケア病棟のベッドは、社会的な資源です。誰にも平等でなければなりません。平等というのは、つまり、緩和ケア科の外来を受診された順番に入院していただくとうことです。
当院では、緩和ケア病棟への入院は、絶対に「平等」な条件のもとに判定をしております。
時に、患者さんのコネクションで、議員さんなど、権力のある方から「○○さんを早く入院させてほしい」と圧力がかかるときもありますが、平等に反するのであれば、それには決してお応えいたしません。
もう少し、早く受診していただければ…。
入院待ちをするには、患者さんの余命が短すぎる…、そんな場合でも、入院の予約はさせていただきます。
そして、入院の予約をされた方すべてに、緩和ケア病棟の見学と、詳細の聴き取りをいたします。
緩和ケア病棟の見学と詳細の聴き取りは、私が担当しています。
それにしても、私、そして患者さんのご家族の双方が「おそらく、入院するには、患者さんの余命が短すぎる」と認識している時には、見学や聴き取りの時間は重苦しいものになります。
私が、患者さんの状態を伺い、ご家族を労うか否や、ご家族は涙されます。
いえ、緩和ケア病棟の環境を知っただけで、涙されるご家族がほとんどです。
ああ、この環境で、大切な人に過ごしてもらいたかった…。
ご家族は、そういう思いで涙を流されます。
患者さんに入院していただける可能性はとても少ないと思われるご家族だからこそ、当院の緩和ケア科外来を受診していただき、当院の緩和ケア病棟を見学していただき、お話を伺わせていただく時間は大切にしよう…。
私は常に、そう思っております。
私がそんなご家族に接するのは限られた時間だからこそ、自分の言葉や態度のすべてをもって、誠意を尽くさなくてはと思っております。
緩和ケア科の外来を担当していて、もどかしい思いをすることは多々あります。
そんな思いを少しずつ、お伝えできればと思います。
もどかしい思いに対して、医療者として考えていることをお伝えできればと思います。