田辺さん(仮称)夫妻は、結婚して3年目。
ご夫婦ともに再婚でした。
60歳を超えての再婚でしたので、まさに、「これから」の生活を描いておられました。
ご主人さんが治ることができないがんに罹られ、治療もこれ以上はできないという状態で入院されてこられました。
脳にも転移があって、会話も徐々に難しくなっていきました。
奥さんとしては、とてもじゃないけど、受け入れられる状態ではなかったと思います。
奥さんは毎日、面会に来られていました。
もうすぐ、お別れが来てしてしまう…、そんな状況で、入院されてから、ほんの少しですが落ち着くことができておられました。
ポンがお部屋を訪れると、奥さんは私に尋ねました。
「ちょっとー。今、手を握って声かけてたんやけど、私の手に臭いが…。臭いが移ったんです。これって、加齢臭ですかね????」
これを聴いたポンは、しまったーーーっ

手浴ができていなかったんだ、とすぐさま感じました。
しかし、よくよく奥さんのお話を聴くと、これまでに自分が感じている手を清潔にすることができない患者さんの手の臭いについて、とても感心してしまう内容を語られました。
「この人にはねー、できるだけしゃんとしていてもらいたかったんですー。だから、加齢臭には気ーぃつけやーって、しつこくゆうてて。とくに、耳の後ろはちゃんと洗いやーって言い聞かせてたんです。結構、身なりには気を遣ってくれてたみたいですけど。」
なるほど。奥さんは実年齢よりは若くみえる。
奥さんも見た目には気を遣われてきたんだ。
そんでもって、奥さんの好みではあるけれど、ご本人さんもできるだけ奥さんのご要望に応えるようにしてこられたんだ…。
お二人の写真を飾っておられたので、それをみて、思いました。
それにしても、
加齢臭。。。。。。。。。

すぐさま、ポンは奥さんに謝りました。
「奥さん、すみません。その手の臭いは単に手を洗えなくなって、こちらの方がきちんときれいにできていないから臭っているのだと思います。加齢臭ではありません…。」
なんともかんとも。


そうそう。
日々のケアでは、患者さんの手の悪臭?に遭遇することは珍しいことではございません。
ただ、その悪臭は、単に手をきれいにできていなかったから、という認識で私はいましたから、この場面ではっと目が覚めた感じでした。
そうやー。
お別れが近くなってきたご家族に、手を握ってあげてください、声をかけてくださいっていつも声をかけているのにー。
ベッド上で過ごす時間が長くなり、自分のことを自分でできなくなった患者さんに対して、清潔という観点から考えると、体を拭いたり、お下を洗ったり、髪を洗ったりということはよくやりますが、それと同じく、手をきれいにすることもとても、とても、とても大切なんだということにあらためて気が付きました。
それ以来。ベッド上で自分のことが自分でできなくなったり、意識が低下してている患者さんの手を臭ってみるということをいつもしております。
清潔にできていない手というのは、へそゴマほどじゃーござんせんが、やっぱり臭いです。
臭いから、患者さんの手を握れない、臭いけど我慢して患者さんの手を握っているなーんてことがあってはならんと思います。
お別れが近くなってくると、患者さんの手は、ご家族にとってとても大切な「触れ合いスポット」になるのですから。
