【コレクション 17】
(1)小さいころから、よく本屋に行きました。
古書店でも普通の書店でも入って背表紙を見て、おもしろそうな本、持っていたくなる本はないかと、それを期待して入ってひとわたり品定めをして、ごくたまには買うというくらいの子供でした。
その時もいまも、本を読むのはメンドウ。読みたいのでなく、見ていたいというだけ。そこは変わっていないようです。
群馬県藤岡市立藤岡小学校(のちに第1小学校)の、多分2年生の時、バスの発車までに時間があったので、5丁目にあった古本屋(貸本屋も兼ねていたかもしれません)に興味をもって入ったことがあります。
店は、昔の上半分ガラスの重い引き戸式の入り口で、中をしばらく覗いてから、ゴロゴロと音を立てながら開けて入りました。中はまだ江戸時代の帳場の雰囲気で、そこにいまの私と同じくらいのジイサンが座って店番をしていました。
入って、読めもしないのに、ジイサンの前の本をひとわたり見て、ジイサンと目が合うのを避けて、右にしつらえられた棚の方へ目をやりました。そこも小学2年生に読める本などあろうはずはありませんでしたが、だまって棚の上の方の本を見ていると、後ろから言いました。
「一番上の本、読める? 読めればあげるよ。」
それで、挑戦しましたが、1冊目から読めませんでした。
気まずくなり、すぐに出てきてしまいましたが、だいぶ後になって、あのとき読めなかった字は「埋」だ、と確信しました。
(2)きょうは、昨日出てきたハーバード・ノーマンの「全集』です。
ノーマンは、カナダ大使館員でしたが、ソ連をスパイと疑われて悩み、1956年に47歳という若さで自殺してしまいます。大窪愿二さんは、約20年かけて遺稿を翻訳整理されて刊行にこぎつけました。それが次のパンフレットです。
このパンフレットは、B5判大、表紙とも6ページです。
1枚の用紙を3等分して、まず左から織り込み、次に右から折り込むと上のようになります。
内容は、次のようになっています。
1ページ表紙
2~4ぺージが見開きでは、2~3ページの下3分の1に次の「全4巻の内容」が紹介されています。
第1巻 日本における近代国家の成立
第2巻 日本政治の封建的背景
第3巻 安藤昌益
第4巻 日本の兵士と農民・歴史随想
次に、上3分の2を使って、次の5氏の「推薦のことば」が紹介されています。
桑原武夫 クリオの目で知人
中野好夫 忘れ得ぬ豊かな思い出
丸山真男 逝きし者も近し
遠山茂樹 本来の歴史学とは何か
ジョン・ダウワー ノーマンよ 蘇えれ
そして、4ページ目の上4分の3に組方見本、下4分の1に次の略年譜があります。
つづいて、5ページ目の上4分の3に「刊行のことば」、下4分の1に次の「編者のことば」があります。
この、前段には編者の思いが語られていて、後段からは、その達成感を読み取ることができます。これは、山に登った時に感じるものと同じです。ぜひ、ゆっくりと読んでみてください。
なお、岩波書店は「刊行のことば」で、ノーマンについて次のように評価しています。
「歴史の女神であるクリオは、片手に書物を片手に楽器を持ち、その顔は清く住んでもの思わしげなさまを示しているという。歴史学が文明を進歩させるための学問であるとの確信に立ち、歴史の価値について譲ることのない信条を持ち続けたE・ハーバード・ノーマンは、その生涯の生き方において、「クリオの化身」と呼ぶにふさわしい人であった。」
最後の6ページ目には、「本全集の特色」・装丁見本・発売予定が記されています。
発売は1977年4月27日からと記されています。
(3)私は、『資本論』のゼミにいたので、ノーマンをいつから、どのくらい読んだか、記憶がはっきりしませんが、『ノーマン全集』が刊行された1977年4月に立教大学の修士課程に入学して、日本経済思想史の逆井孝仁先生の授業に出席できるようになりましたから、すでに岩波新書などでノーマンを読んでいたとは思いますが、『全集』刊行が話題になって、とくに安藤昌益、その前に三浦梅園にも関心をもっていましたから、それまでよりもやや余計に読むようになったものと思われます。
しかし、御料地・御料林・皇室財政問題に向かうようになってからは、だいぶ遠ざかってしまいましたので、この頃の人がどのくらい研究しているのかは不明ですが、きのう・きょうと、棚から取り出して読み返しました。やはり優れた人でした。
では。
西の空
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