12月の定点観察会の折、橋屋さんから標題のメモを頂いたので、転記する。
新種が記載されるまで
名前(学名)が無いきのこに名前がつけられるまでを簡単に書きたいと思います。学名の命名は下のような順になりますが、和名の命名には決まりがなく、偉い先生が言ったり、よく使われるものがしだいに定着するようです。
1、きのこを採集する
どんな場合でも最初はきのこを採集し、これを標本にすることから始まります。きのこの場合は発育のステージによって変化するものもあるので、同じ種類をできるだけ多数採るようにします。新種記載に使った標本は特にタイプ標本(正基準標本)と呼ばれます。
2、きのこを詳しく観察し、記録する
採ったきのこはできるだけ生の状態で観察をします。肉眼での視覚観察に加えて臭覚・触覚・味覚に関するものはなるたけ客観性があるように全てを記録します。スケッチや写真撮影も有効です。また数値化できるものも同じで、外形のサイズや顕微鏡観察のデータなどもしっかり記録します。このデータが全ての基本になるためでこの部分は丁寧にします。
3、似た種類と比較する
目的のきのこと近縁で似た種類について、これまで世界で報告された全てのデータと比較します。アマチュアにとって以前は文献を探すことが難しかったのですが、最近はネット検索ができるようになって便利になりました。文献だけで比較しきれない場合、他の種のタイプ標本を調べる必要が出てきますが、アマチュアではこの標本の貸し出しは簡単ではありません(多くは大学の先生などの紹介状が必要です)。
4、記載文と判別文をラテン語で書く
植物や菌類はこれらをラテン語で書く規約(万国植物命名規約)があります。また細かな部分は何語と決まっていませんが、英語で書くのが一般的です。アマチュアには、ラテン語や英語など語学の問題があり、学術用語の使い方などハードルは高いです。
5、タイプ標本を納める場所を決める
研究で使ったタイプ標本は、国際的に認められた(登録された)標本庫に納める義務があります。これは誰にもタイプ標本を見られる機会を与えるためで、富山県中央植物園の標本庫(TYM)もこの一つです。
6、記載文を国際的に通用する専門の雑誌に投稿する
富山県中央植物園の研究報告もこの条件に合致しますが、きのこの場合はMycoscience(日本菌学会の雑誌)やMycotaxon(菌類分類学専門の雑誌)などが一般的です。
7、審査を受け、論文が受理される
審査はその雑誌の編集委員長によって、その論文に適した(審査するだけの力を持った)人に送られ審査されます。審査者は、論文の論理性が正しいか、文献引用が正しいか、図や表は適切か、など全てにわたって細かに検討します。そして著者に対して原稿の訂正や書き直しなどを意見します。最終的には編集委員長が審査を了承しないと論文は受理されません。この審査は簡単には行かないのです。何度も編集委員長の定めた審査者と意見のやり取りをして訂正を行いますが、時には受理されるまで1年以上もかかることがあります。
8、雑誌が印刷される
この段階できのこの名前(学名)がついたことになります。しかし、種としての考えは人によって違うため、合法的につけられた学名でも、後の研究で適切でない場合はシノニム(異名)となります。また亜種など別のランク(階級)に移動される場合もありますが、初めて記載した人の名前は( )の中に残されます。この場合、タイプ標本は最初の命名者が使ったものが引用されます。
おまけ
論文の審査書はタイプ標本のチェックなどは行いません(論文中で多種のタイプとの比較が必要な場合は、著者に比較検討を指示する場合があります)。筆者が空想のきのこの論文をでっち上げることは可能ですが、その後その筆者は研究者としての名前を汚すことになるのでl、審査にはでっちあげがあるということを想定していないのです。投稿論文の著者が観察して得られたデータは紳士協定のように正しいものとして扱われます。
富山中央植物園 橋屋 誠
富山きのこクラブの皆様へ
植物園の橋屋です。
北海道で発行されているfaura(No.13,2006年9月号、80ページ)を購入しました。
この号はキノコが特集されています。
中身は、伊沢さんが撮られた北海道のきのこ(7ページ)や北海道のキノコ図鑑(30種、5ページ)、さらに写真家探訪として伊沢さんとの対談が5ページ載っています。
この雑誌は印刷もきれいだと思います。
まとめて買ったので、余分が3冊あります。
ご希望の方はメールでご連絡ください(先着順)。
価格は送料、手数料込みで1,200円です。
またインターネットでも購入できます。
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追伸
このfaura(No.22)には4ページだけですが、北海道在住の竹橋さんが書かれた「きのこワンダーランド 石狩砂丘」が載っております。日本では砂浜のきのこの文献は非常に少ないので貴重だと思います。
富山きのこクラブの皆様
この度、新たに宮武さん(友の会会員)、種山さん(長野在住)がご入会されました。
種山さんは牛肝菌研究所というHPを立ち上げられて、イグチにはまっておられます。立ち寄ってみてください。
宜しくお願い致します。では。
_/_/_/_/_/ 伊藤 春雄 _/_/_/_/_/