第167回記事(2013年10月28日(月)発行)
(次回11月4日(月)発行予定)
(独り言:今、もの造り企業の環境はたいへん厳しいですね。3K職場ですし、海外から安価なものが入ってくるし。
また、但馬は”谷間”から来ているのではと言われるくらい平地が少ないところです。
そんな但馬地方のもの造り企業の応援の気持ちでこの記事を書いています。
井上三右衛門@晴耕雨読)
ブログを書き始めて4年目に入りました。今回は、3周年の記念記事になります。
企業さんの記事は半年に1回程度の周期で書いており、今回は、神鍋高原のある旧日高町の浅倉区にある「絆工房」さんを実際に訪問しての記事です。大幅に業績を伸ばされており、私にとってもたいへん参考になりました。興味をもって読んでいただけるとありがたいです。
<2012年度「但馬産業大賞」を受賞>
〇株式会社絆工房さん(2013年4月1日に有限会社マジックより社名変更)は「但馬産業大賞」を受賞されました(下の写真)。おめでとうございます。
但馬産業大賞は但馬地域において優れた技術やサービスで活躍し、地域の発展や経済の活性化に大きく貢献した事業者に贈られる賞です。評価項目として、①経営・地域貢献度、②技術・手法レベル、③技術・手法の独自性・優越性、④効率性があります。当ブログでも紹介している、中田工芸さんと白炭工房さんも既に受賞されています。
〇受賞理由は「昇華転写プリントシステム構築への取組」によるものです。具体的には①色調管理のデジタル化、②高いデザイン力、③一貫した品質管理等が評価されたものと思われます。その絆工房さんの本社に先日伺い、笠原代表にお話を聴いてきました。
<圧倒的な表現力を持つ昇華転写プリントの技術をさらに品質向上>
〇Tシャツへの印刷はシルクプリントが一般的ですが、印刷に使用する版の価格が高いため、印刷枚数が少ないと1枚あたりの価格が高いという欠点があります。また、多色印刷にすると色の数だけ版が必要となり、価格が高くなります。そのため、笠原代表が従来から注目されていた「オリジナルTシャツ」の印刷に適した昇華転写プリントに着目し、そのプリント技術の向上を進められてきました。昇華転写プリントは、昇華型のインクを使いインクジェットプリンタで転写紙に印刷したうえで、その転写紙を布と密着させ、熱プレス転写機の中で高温・圧力を加えることで、気化したインクが布の繊維の分子構造に入り込み、転写されるものです。そのため、版は必要ありません。単色で均一な色を得意とするシルクプリントに対して、昇華転写プリントは全面にフルカラーでグラデーションが可能であり、圧倒的な表現力があります。また、色が布に浸透し一体感があります。先日の男子体操の世界選手権で内村選手・白井選手が着ていた体操服を覚えておられますか。とってもきれいでしたね。昇華転写プリントでつくられたものと思います。
〇ただ、同じ程度の機能・性能のインクジェットプリンタで、同じ程度の昇華型インクで、同じ程度の機能・性能の熱プレス転写機を使用するならば、競合の昇華転写プリントメーカの製品と差別化することは出来ません。①インクの温度管理を行い、②転写紙への印刷後に自社独自設計の定着機を使用することで印刷の品質向上を図られています(定着機は下の写真参照)。また、熱プレス転写では、③より高い品質のプリント仕上がりを求めてイタリア製の機械を導入されたうえで、④独自の改造を施されてより転写の品質向上を図られています。
黒い曲面がオリジナルの定着機。曲面の上に印刷後の紙が降りてきて、熱で定着される。
<高いデザイン力で「Tシャツ職人グランプリ2012」を受賞>
〇オリジナルTシャツの良い点は、何と言っても自分達(自分)だけのオリジナルデザインです(たとえばユニ〇〇などの商品とは違って。)。そのデザインはお客様の希望されるデザインをそのままTシャツにするのでなく(これでは下請けと同じ)、お客様の希望をこと細かく聞くのではなく、お客様の使い方や使われるシーンを確認し、デザイナーがお客様の希望・想像を越えるものを提案する必要があります。そうすれば、デザイナーがデザインしたオリジナルTシャツをお客様にお見せした時、
「そうそう、これが私達(私)欲しかった!!!」
と感激していただけるはずです。
〇その為には、お客様の希望の聞き方(コミュニケーション方法)と高いデザイン力が必要であり、高いデザイン力を得るために、デザイン力の高い人の採用、デザイン力の向上施策の実施、デザインの情報の収集(本棚に多くのデザインの本がありました)など色々な工夫・努力が必要です。それらの努力の結果が、Tシャツ職人グランプリ2012のグランプリ・最優秀賞受賞に繋がったのではないでしょうか。
ちなみにデザイナーは笠原代表の娘さんだそうです。プロを目指す決意が「お客様の驚く様なデザインをさせていただきます。」というコメントから伝わってきます。
グランプリのテーマは「大阪王将」のスタッフTシャツで、グラデーションが施されて、さりげなく餃子が描かれています。(写真を載せられないのが残念です。)
ショールームのカラフルなTシャツ
〇ただ、グランプリ・最優秀賞はデザイン点だけでは決まりません。縫製技術点、トレンド点、消費者視点からも評価されており、グランプリ・最優秀賞は絆工房さん全体の総合力によるものでしょう。
<絆づくりこそ、至福の人生をあゆむこと>
〇企業は常に競争をしており、差別化できる強みを持つ必要があります。絆工房さんの強みは、昇華転写プリントとデザイン力であると書いてきました。また、そう思っていました。しかし、インタビュー時に笠原代表から突然一つ質問を受けました。「F1用の最高性能タイヤと1000馬力のエンジンのパーツがある。パーツだけでつながっていない。もう一方は、ちゃんと完成しているゴルフ場の電動カート。この2台が競争したとしたとすると、どちらが速いですか?」 正解は当然お分かりですよね、パーツが繋がっている電動カートです。この質問に最初はピンと来ませんでしたが、インタビュー後によくよく考えてみると、笠原代表・絆工房さんのスタンス・戦略を一番表した質問でした。そこに第3の強みがありました。
〇オリジナルTシャツはモノであり目で見ることができます。むしろ、オリジナルTシャツに関係する見えない部分に思いを馳せてみると、そこに見えてくるものがあります。
また、絆工房さんでは色々なことをされています。
お客様へのニュースレター「絆通心」発信、
お客様のプリント体験実施、
社員の毎日の朝礼での絆発表、
社員でそれぞれの良いところを掲示板に書いて貼る、
経営計画発表会の実施、
着るサプリ サプリフレの販売。
それぞれを個別に見ると繋がりがありません。しかし、全てを繋げてみると見えてくるものがあります。
「人と人が繋がっている」=「絆」という言葉を使うところを書き出してみると、
オリジナルTシャツを着るお客様のチームの絆
お客様と絆工房の絆
絆工房内のオリジナルTシャツをつくるチームの絆
により、それまでは点と点であったものが線となり、線と線が面となり、さらに面と面が立体となります。
絆づくりこそ、至福の人生を歩むこと
企業理念でもあり、会社パンフレットの表紙とニュースレター「絆通心」裏表紙に記載されている言葉です。
右上のマークは自分の手と相手の手を表しています
編集後記
今回が4回目の会社編の記事ですが、実際に会社さんを訪問して記事を書く初めての記事でした。そのため、少し不安になるところがありました。そんな私を笠原代表はあたたかく迎えて下さいました。
そして、帰り間際に一冊の本を頂きました。
「ありがとう」と言われる商い(小阪祐司著 商業界発行)。
3冊本があったので「ご参考にどうぞ。」という軽い気持ちと私は考えましたが、2度読んでみてそれは全くの感違いだと気がつきました。
「この本の中にこそ私の商いの本質があります。(よく理解してください。)」
というような気持ちでしょうか。
本の中には本当に楽しんで儲けることのできる方法を実践されている「ワクワク系の商人」の話がいっぱい載っています。面白いですよ。機会があれば一読をお薦めします。
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