※一部脚色しておりますのでフィクションとしてお読みください。
改まって全員が集められた会議の中身は驚くべきものだった。
売り上げの大方を占める取引が解消される方向となり、当該取引に関係する部署が他社に売られるという。
会社は残りの取引を続けながら存続するが、当該取引にかかわる仕事をしている社員はすでに決まっている受け入れ先への移籍を基本線として話が進んでいる。
詳細その他については未定の部分も多く、受け入れ先からの説明と個別面談の機会は後日用意されているとのこと。
そもそもの話として、規模はどうあれ取引先からの信用が盤石なものであったならば「切り売り」の決断をさせられるには至らない。
入社して長いとは言えない私はどういった状況がそうさせたのか、断片的に耳には入るものの正直言って分からない。
長らく、とある会社と何やら係争中という話だけは知っていても中身までは知らない。
ただ、取引先にとっては大切な商品の管理上看過できない事態が起きていて、残念ながら今後全幅の信頼は置きづらいという意思表示があったものと思われる。
話だけ聞けば、非は我が社よりも係争先の方にかなりのものがあるらしいが、とにかく中身はよほど詳細に聞かないと分からないし今さら聞く気もないから何とも言えない。
ただ、そういうアクドイ(?)先に何かのキッカケで引っ掛かってしまい、最終的に会社規模の縮小に至った結果責任は我が社の経営サイドには当然ながらある。
経営にとっては小さくなっても会社がなくならずとにかく続けばいいという話かもしれないが、一般の社員は今回の事態により引き裂かれてしまう。
売られる部門の社員は手続きが整いしだい我が社のロゴが入った作業服を脱ぎ、新会社の真新しい作業服で日々を送ることになる一方、存続する部門は当然ながら今まで通りである。
毎日朝礼で輪になっている社員がふたつの会社に分かれていくこと、また毎朝指示を出している上席者も手続き完了の折にはアカの他人になってしまうことには「やりきれない」という思いしかない。
私自身はわずか一年と数か月という短い期間とはいえ身に余る仕事をいただき食べさせてもらってきた会社に感謝の気持ちは当然ある。
私にとっては前職でお世話になった「恩人」を追いかける形で応募し幸運にもご縁をいただくことができ、当初は陰惨なイジメにも遭いながら何とか乗り越えて今日までやってこれた。
同時に、事の経緯が見えてくるにつれて怒りのような感情も湧いてくる。
生活の糧をいただいてきたことに感謝こそできても、実態が「信頼にまでは値しない」会社であったとなると何とも表現のしようがない感情に襲われる。
良く言えば細かくない、悪く言えばルールらしいルールがない、何かにつけアイマイな部分をはらんだまま日々が流れていたことは私にとっては結構なストレス要因となっていた。
私は今の勤務地から言って「移籍組」になることが濃厚なので、アバウトそのものと言っていいガバナンスが多少は良い方向に行くことは期待している。
もっと言えば、しっかりとしたルールにのっとって運営される環境を切望していた部分もあるから、個人としては今回の事態はむしろ歓迎すべきことなのだろう。
受け入れ先からの説明はまだだが、調べる限りでは「格が違う」くらいの印象はありガバナンスに関してはほぼ心配はないのではないか。
今回のように会社が割れてしまう事態というのは長らく社会人をやってきた中でも初めてのことだ。
ただ、若い頃は僭越ながら企業(財務)分析も担当していた関係で、企業というものを俯瞰的客観的に見る目も多少は残っている。
企業に何らかの変化が起こる時に共通した「兆し」が今回も見られたことを記して記事を閉じることにする。