【14章】
以上がこの年の出来事である。翌年の執政副司令官の選挙が迫っていた。戦争の心配がなくなり、元老院は選挙が気がかりだった。国家の最高の役職に平民が参入しただけでなく、ほぼ独占していた。このような事態を改善するため、貴族の中で最も傑出した人物を立候補させることにした。そのような候補者を落選さることは、ローマ市民として恥ずべきことだろう。元老たちはこれらの候補者を当選させるため、まるで自分が立候補したかのように奔走し、あらゆる手段を講じた。人々に訴えただけでなく、神々にも助けを求めた。「前回の選挙は宗教的に問題だった」と元老たちは主張した。「昨年の冬は異常に寒く、耐えられないほどだったが、これは神々の警告だった。その後警告に続いて、神々の裁きが下った。疫病が郊外の地方と市内を襲った。これは神々の怒りの表われだ。運命の書物には、神々が引き起こす厄災を避けるには、神々を喜ばせなければならない、と書いてある。選挙の前は、吉兆が現われていた。最高官に平民が選ばれたので、神々は侮辱されたと感じたのだ。身分の違いがあいまいになったので、神々は怒ったのだ」。
元老たちの努力は報われた。貴族の候補者は地位が高く、威厳があったので、市民は敬服した。また市民は投票の際、宗教的な問題も考慮した。当選したのは全員貴族だった。彼らの大部分は著名な人物だった。名前は以下の通りである。L・ヴァレリウス・ポティトゥス(5回目の就任)、M・ヴァレリウス・マクシムス、M・フリウス・カミルス(2回目の就任)、M・フリウス・メドゥリヌス(3回目の就任)、Q・セルヴィリウス・フィデナテス(2回目の就任)、Q・セルピキウス・カメリヌス(2回目の就任)。この年ヴェイイは何の動きもなしなかった。ローマ軍は敵に略奪をした。二人の司令官は大量の戦利品を獲得した。ポティトゥスはファレリで、カミルスはカペナで略奪した。二つの町は徹底的に略奪され、廃墟のようになった。
【15章】
この時期多くの予兆が報告されたが、すべて個人の証言に基づくものであり、対処法を予言者に相談することもなかった。当時ヴェイイの敵対的な態度が問題となっていたが、神々の予兆があったという話を信じる者はなく、ほとんどの人がこれを無視した。しかし多くの人を不安にする事件が起きた。アルバ湖の水面が異常な高さまで上昇した。雨が降ったわけでもなく、このような現象の原因は見当たらなかった。いかなる予兆なのか、デルルフィの信託を聞くために使節団が派遣された。実はもっと近くで異常現象の意味を知ることができた。ヴェイイの老人が運命に突き動かされたように予言した。ローマとエトルリアの前哨部隊に野次られながら、彼は次のように述べた。「アルバ湖の水がすっかり排出されるまで、ローマはヴェイイを攻略できないだろう」。
最初、人々は老人の説明を無茶な話と受け止めたが、次第にそうかもしれないと思い始めた。戦争が長引く中、両陣営の兵士たちは老人の予言が気になり始めた。彼らは頻繁にこれを話題にした。ローマの前衛部隊の兵士が近くのヴェイイ市民に尋ねた。「預言をした老人は誰だ。アルバ湖について不吉な予言をした老人は、どんな奴だ」。
市民は答えた。「老人は予言者で、アルバ湖の異変について宗教的な恐怖を感じたのだ」。
そこでローマ兵は言った。「その予言者を呼んでほしい。厄払いの方法を相談したい。彼は暇だろうか」。
兵士と予言者が対話することになり、二人は武器を持たず、それぞれの部隊から歩み出た。両軍の兵士が見守る中で、屈強な若者が弱弱しい老人をつかむと、ローマ軍の方に抱えて行った。これを見て、ヴェイイ兵は騒ぎだした。屈強なローマ兵は予言者をローマ軍の司令官のもとに連れて行った。それから預言者はローマの元老院に連行された。アルバ湖について何を言いたいのか、という質問に対し、予言者は次のように答えた。
「神々は間違いなくヴェイイの市民にひどく怒っている。私の祖国ヴェイイは滅ぶ運命にあり、その準備がなされている。私は神聖な霊感を受け、人々に知らせることにした。霊感を受けて予言したことを今は思いだせないが、取り消すつもりもない。予言を公表するのは天の意思であり、もし私が沈黙するなら、秘密にすべきことを話すのと同様の犯罪となる。アルバ湖について私が述べたことは予言の書に書かれていることであり、エトルリア人が伝えてきた宗教的知識が教えることも一致する。アルバ湖が氾濫し、ローマ人がある方法で湖の水を排出すると、必ずローマはヴェイイに勝利する」。
最後に予言者は排水する方法について語った。しかし元老院は予言者を信頼しなかった。重大な問題だったので、元老院はピシア(デルフィのアポロ神殿の巫女)の予言を持ち帰る使者の帰りを待った。
【16章】
デルフィへ行った使者がまだ戻らず、アルバ湖の異変が何の前兆であるか判明していない時、新しい執政副司令官が就任した。彼らの名前は L・ユリウス・ユルス、L・フリウス・メドゥリヌス(4回目の就任)、L・セルギウス・フィデナス、
A・ポストゥミウス・レギレンシス、P・コルネリウス・マルギネンシス、A・マンリウスである。この年新しい敵が出現した。ローマが複数の敵と戦っているのを見て、タルクイヌス家の人々はチャンスとばかりに、陰謀を企てた。実際ローマは困難な戦争を複数抱えていた。ローマ軍はアンクススールのヴォルスキ軍を包囲していた。ラビクム(ローマに近く、東へ20km)では、アエクイ族がローマ人植民者を攻撃したので、ローマ軍が出動した。
(日本訳注:アエクイやヴォルスキがしばしばラビクムを攻撃したが、実はラビクムはラテン人の町であるが、ローマへの従属を拒否し、他部族の力を借りたようである)。
これに加えて、ヴェイイ、ファレリー、カペナでも戦争が続
いていた。一方国内では元老院と平民が争い、混乱していた。この状況をチャンスと見て、タルクイヌス家の人々が数百人の軽装備の兵士をローマ領に派遣した。略奪をしても、ローマは新たな戦争をする余裕がなく、放置するだろう、と考えたのである。仮にローマが怒ったとしても、弱小の部隊しか派遣できないだろう、と予測したのである。ローマの人々は被害についえ心配するより、タルクイヌス家の不埒な行為に怒り、すぐさま彼らを懲罰することにした。 A・ポストゥミウスと L・ユリウスが志願兵を募集した。正規の徴兵は護民官の妨害ためできなかった。二人は懲罰部隊に志願するよう熱烈に訴えた。彼らはカエレの領土を横断して前進した。( Caereは古代にはCaisraと呼ばれていた。Caisraはヴェイイの西、ティレニア会沿岸の都市)
タルクイヌスの部隊は突然襲われた。彼らは略奪品を大量に抱えて、引き上げる途中だった。ローマの部隊は多くの略奪兵を殺害した。ローマの農民から奪われた物をすべて取返して、彼らはローマに帰った。これらの略奪品は持ち主が名乗り出るまで、二日間展示された。三日目になっても持ち主が現れない品物の大部分はタルクイヌス兵の持ち物と判断され、戦利品として売却された。売上金は志願兵たちに分配された。他の戦争、中でもヴェイイとの戦争は決着せず、ローマの人々は独力では勝てないとあきらめ、運命や神々に期待した。ちょうどこの時、デルフィへ行った使者が帰ってきた。デルフィの巫女の予言はヴェイイの予言者が語ったことと同じで、以下のようなものだった。
「ローマ人よ! アルバ湖の水があふれないよう、注意せよ。海に向かって水路を造りなさい。洪水の危険をなくし、いくつかの小さな流れが耕地を潤すようにしなされが完了したら、敵の城壁を攻撃しなさい。現在、運命は諸君に勝利を与えた。諸君が何年も包囲を続けた都市は諸君のものになるだろう。戦争が終わったら、私の神殿にたくさんの贈り物をしなさい。昔の宗教的な儀式を復活させ、かつてのように盛大に勝利を祝いなさい」。
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