ブログで以前から取り上げたいと思っていたテーマがあります。
それは「京都の町屋」です。
年々減少し続け、このままでは京都ならではの景観が完全に失われてしまいます。
東山魁夷が50年ほど前に描いた京都の景色です。
京町屋が軒を並べる風情ある町並みを形成しています。
今では失われた景色です。
年暮る 1968(昭和43)73.0x100.0
年暮る京の街に、しんしんと雪は降る。
[京都市中京区、京都ホテルオークラ屋上より望む京都の町]

現在残されている町屋も失われる前に記録しておきたいと思い、少しずつ町屋めぐりをしてきました。
このブログで少しずつ紹介していきます。
京町屋とは
京都の町屋とは「1950年以前に伝統的木造軸組構法で建てられた木造家屋」(京都市)です。
1950年というのは建築基準法改正が行われた年です。
京町屋は職住一体の住居で、江戸時代の中頃には今の形になったといわれています。
ですが、1864年の禁門の変(蛤御門の変)の火災でかなりの建物が消失してしまいました。
現在の中京区、下京区のほとんどが焼け、2万7000世帯、土蔵や寺社が罹災し、東本願寺、本能寺、六角堂も焼失しました。
ですから、現在の京都の町屋と言われるものの多くは、禁門の変後に建てられたものです。
京町屋の数
2010年8月京都市が市内全域を対象に京町家の実態調査を行った結果、4万7,735軒が残存、うち10.5%が空き家でした。
江戸時代の京町家は全体の2%、明治時代のものも14%ありました。
2017年の調査では4万146軒が残存、失われた京町家が5,602軒、調査できなかったのが1,987軒です。
うち空き家は5,834軒あり、全体の14.5%にもなります。
一年間の平均の減少率は1.7%で、ほぼ同じようなペースで京町家が失われています。
減少の理由は、上京区、中京区、下京区などの市内中心部での人口減少、老朽化や住人の高齢化があります。
京町家に住む所有者の多くは高齢者で、高齢者(65歳以上)だけの世帯は35%を超えています。
子供たちは別の場所に移り住み、相続が発生した際に引き継げない状況が生まれています。
「できる限り残したい」との思いを持つ一方で、相続税の負担や維持改修費用などの問題が大きいのです。
新たな需要も増えている。
京町屋が減少している一方で、「京町家に住んだり、店を開いたりしたい」という需要や、京町家への滞在を希望する外国人を含む観光客の需要は増えています。
さらに町屋を所有したいという外国人からも問い合わせも増えており、いわゆる富裕層も注目しています。
最近では台湾、シンガポール、アメリカからの引き合いが多いそうです。
京町屋の保全と継承
京都市は京町家の保存・活用を図り、空き家の利用希望者を募集するなど様々な施策を打ち出しています。
平成12年に「京町家再生プラン」を策定、町屋の改修時の相談や賃貸する時のアドバイスも行っています。
2017年11月には「京都市京町家の保全及び継承に関する条例」(京町家条例)を制定しました。
この条例で京都ならではの景観や文化を象徴する京町家の保全と継承を目的に、町家の所有者や管理者、事業者などは市長が定める京町家保全・継承推進計画に則して活動しなければならないとする責務を定義しました。
京町家の維持管理や修繕、改修の支援、京町家の活用促進、広報・啓発活動などを市の基本施策として提示しました。
一方で、該当する京町家を解体する場合、所有者または解体工事業者が市長に届出を行う義務を明記し、虚偽または無届出で解体をした場合には罰金5万円以下の過料に処することも決めました。
最近の傾向として、簡易宿泊所を行う京町屋が増えています。
町家の立地する敷地
間口が狭く奥行きが深いため「うなぎの寝床」と呼ばれています。勿論間口の広いのもあります。
京町屋の分類
一口に京町屋と言ってもさまざまな形態があり、現在7つに分類されます。
厨子二階
2階の天井が低く虫籠窓がある。近世後期に完成し、明治後期まで一般的に建築された様式で中二階ともいう。
総二階
2階の天井が1階並みにあり木枠にガラス窓が一般的。明治後期から昭和初期に流行った様式で本二階ともいう。
平屋
1階建てで表に店舗をもたない。中世の町家はほとんどが平屋。今日では「平家」と表記することも多い。
三階建
3階建ての町家。
仕舞屋
住居専用の町家。店を「仕舞った」つまり商いをやめた店からきている。
大塀造
直接建物が道に面しておらず、表通りに塀をめぐらして玄関先に庭、その奥に家屋を配した屋敷をいう。塀付き、高塀造ともいう。
看板建築
町家の表側を近代的に改装したもの。昭和中期の高度経済成長期に改修が施されたものが多い。
外観は京町家とは大きく異なるものの、戻すことは比較的容易。
2010年の調査では、総二階が全体の過半数を占め、看板建築も2割弱ありました。一方で、三階建はほとんどない結果でした。
京町屋の特徴的な構造
屋根
一階庇の最前列は一文字瓦葺いています。
横の一直線と格子の縦の線の調合が町屋の外観美の一つです。
格子
格子は戦国時代からで、内からは外がよく見え、外からはよく見えないようになっています。
家の商いや家主の好みでデザインが異なります。
上部が切り取られた「糸屋格子」、太い連子の「麩屋格子」、「炭屋格子」、重い酒樽や米俵を扱う「酒屋格子」、
「米屋格子」、繊細な「仕舞屋格子」などがあります。格子を紅殻で塗ったものが紅殻格子。
虫籠窓
明治期までの町家の2階部分に使われた標準的な窓。
表に面した二階が低くなっている「厨子二階つしにかい」に多く見られる意匠。
防火と道行く人を見下ろさない配慮と言われています。
犬矢来
道路に面した外壁に置かれるアーチ状の垣根。竹や木などでできたものが多いが、現在は金属製も多く用いられる。
直線的な町屋の表情を和らげてくれます。
駒寄
家と道との境界に巡らされた格子の垣。元は牛馬をつなぐためのものでした。
意匠もさまざま、栗や欅などの硬い木が使われることもあります。
ばったり床几
折りたたみ式のベンチ。ばったん床几ともいう。
元々は商いの品を並べるもので、後に腰掛け用に床几として近隣との語らいの場でした。
ばったりとは棚を上げ下げするときの音からきています。
鍾馗さん
疫病除けの瓦人形で入り口の小屋根の上に置かれます。京町屋の屋根の象徴です。
庭
町家の多くは裏庭がある。玄関(店庭)から裏庭までの土間の部分を「通り庭」と言い、玄関を含まない部分は「走り庭」と呼ばれる。
大規模な町家は途中に「坪庭」と呼ばれる小規模な中庭がある。
これらの庭は、いずれも採光、風の通り道としての機能を兼ね備えている。
走り庭
水屋、嫁隠し、井戸、流し、おくどさん(竃)、布袋さん(愛宕神社の「火迺要慎」のお札と竃の神の「布袋さん」が祀られる。
高い天井は火袋と呼ばれ、天窓からは光が入って明るい。
箱階段
町家の狭さをカバーするために、階段の下部が収納スペースになっているもの。
蔵
防火を施した丈夫な蔵が奥にある。家の中にあるので「内蔵」と呼ばれることもある。
京町屋の見学できるところ。
現在見学できる町屋は非常に少なく、しかも大きな商家ばかりです。
無名舎(吉田家住宅)

杉本家住宅

秦家住宅

富田屋くらしの美術館

京町屋は職住一体が基本で一般の町屋が公開されることはほとんどないのが実情です。
以前、四条通西洞院郭巨山町に『四条京町屋』があり、誰にでも公開されていました。
京都の伝統的な暮らしと、それらを支えてきた工芸品の良さが体感できる施設でした。
明治43年鋼材卸商の隠居所として建てられた「表屋造り」の建物で、「鰻の寝床」と称される間口が狭く、縦に長いのが特徴でした。
靴を脱がずに奥と表を行き来できる「通り庭」や井戸・水屋・おくどさんなどを見学できました。
それが2010年頃に閉館したのが惜しまれます。
また、昨年紫織庵(旧川崎家住宅)も閉館されました。

川崎家住宅は大正末期の室町の豪商、井上利助が建てたもので、洋間も備えた表塀付きの町家で、近代日本を代表する建築家の武田五一が設計に関わったとされています。戦後、市内で呉服製造卸を営む川崎家が購入、近年は和装などを紹介する施設「紫織庵」として活用していました。
昨年その「紫織庵」が閉館し、東京都内の業者が土地と建物を購入、本年1月29日市に解体する意向を伝えていました。
地元の明倫学区自治連合会や祇園祭の八幡山保存会など地元関係者が、文化財の建物がなくなり、跡地が宿泊施設などになることを懸念し、現地保存を求める要望書を市に提出していました。
京都市は直ちに2月1日、所有者に異例の警告文を送付しました。
「川崎家住宅を取得した時点で建物が京都市指定有形文化財であることは周知の事実であり、あなたはその保存・継承の義務を負うことについて認識されているはず。条例の定めに従わず、その価値を滅失することがあれば、法的にも道義的にも看過することができない深刻な事態となり、世界から注目されることが予想されます。万が一にも条例に反する行為がなされないよう、ここに強く警告する」としています。
京都市と地元関係者の危機感がここに表れています。
祇園祭で川崎家住宅に行ってきましたが、まだ現状のままでした。
町屋の建造物にはさまざまな指定を受けたものがあります。
国・登録有形文化財
緩やかな規制により建造物を活用しながら保存を図るため,平成8年度施行の文化財制度で,登録された建物が登録有形文化財です。
登録文化財には,築後50年を経過している建造物で,国土の歴史的景観に寄与しているもの、造形の規範となっているもの、再現することが容易でないものといった基準を満たす建造物が対象となります。
京都市では,近代の建造物を中心に積極的に登録を進め,市内243件(平成31年1月末現在告示分)が登録されています。
景観重要建造物
平成16年に制定された景観法に基づき,地域の自然,歴史,文化等からみて,建造物の外観が景観上の特徴を有し,地域の景観形成に重要なものについて,京都市長が当該建造物の所有者の意見を聞いて指定を行う制度です。
指定を受けた建造物には,所有者等の適正な管理義務のほか,増築や改築,外観等の変更には市長の許可が必要となりますが,相続税に係る適正評価や,建造物の外観の修理・修景に係る補助制度が活用できます。
歴史的意匠建造物
歴史的な意匠を有し、地域の景観のシンボル的な役割を果たしている建築物等を京都市が指定するものです。
歴史的風致形成建造物
平成20年11月に施行された、歴史まちづくり法に記載された重点区域内の歴史的な建造物で,地域の歴史的風致を形成し,歴史的風致の維持及び向上のために保存を図る必要があると認められるもので,京都市長が建造物の所有者及び教育委員会の意見を聞いて指定した建造物。
指定を受けた建造物には,所有者等の適切な管理義務のほか,増築や改築,移転又は除却の届出が必要となりますが,建造物の外観の修理・修景に係る補助制度が活用できます。
これ以外に川崎家住宅のように京都市指定有形文化財もあります。
京都市指定有形文化財の建造物は、意匠的に優秀なもの、技術的に優秀なもの、歴史的価値の高いもの、学術的価値の高いもの、流派的又は地域的特色が顕著なものが指定基準です。
次回より上京区の町屋を投稿します。