道々の枝折

好奇心の趣くままに、見たこと・聞いたこと・思ったこと・為たこと、そして考えたこと・・・

無念夢想

2022年09月13日 | 人文考察
昔の人は「もの言わぬは腹ふくるるわざなり」と言った。
ブログやフェイスブック・ツイッターの繁衍で「腹ふくるること」が減った人は多いだろう。溜まった思いを書いたり動画に編集し、手軽にアップできるのは洵に有難いと思う。
老生の拙文でも、読んでいただけるのは望外の倖せ、日々読者に感謝している。現代は「腹ふくるること」を解消する手段が格段に増えている。江戸時代に生まれなくて好かった。

コロナ禍で集会が減り、人と語り合うことが減った。全ての人の対話・会話が激減したのが、この4年間だった。
私は生来の饒舌が無口に変われるもななら、何より嬉しいと思った。
濫りに喋ることは、推敲なしに文書を書き散らすようなもので、間違いの因である。熟慮して話すことが大切だといつも自分を戒めている。

テレビのワイド番組に出演しているコメンテーターの中には、MCに振られて、自分が何を言っているか分からないようなコメントを電波に載せている人もいる。「人の振り見て我が振り直せ」の教訓が身に沁みる。

喋りは一過性でシャボン玉のようなもの、頭に浮かんだことを随意に発話すれば、どんなに誠実な人物でも、つい口が滑って余計なことを云ってしまうことはあるだろう。
キリスト教では「唇と舌を守るものは幸いなり」と教える。私はキリスト教徒ではないが、常々無口は寛容に次ぐ徳と捉え、重大な戒めと受け止めている。

同じ人物なら、講演を聴くより著作の方が信頼に値するのは間違いなさそうだ。
講演も、本人の原稿に基づいて語られるから、失望するような講演というものはまずない。それでも、書物になったものの信頼性は揺るがない。

喋ることに対して、書くことは考えることだから、思考の整理には最も適している。思慮・思索・考慮・考察は、全て書くこと無しには成立しない。人が思考を整理したり検証するときには、書くことが必要不可欠である。

ところで日本では、精神の統一は無念夢想の境地に入らねばならないと、旧くから考えられて来た。天邪鬼の私は、それには些かの疑問を呈したい。

無念夢想ということは文字通り解釈するなら、何も考えていないことである。すなわち、頭が何も機能していない状態である。何も考えていないということは、思考の停止状態である。その時の脳波は波動していないに違いない。

例によって没論理性・非科学・神秘主義に凝り固まった古代中国の諸々の悪弊は、漢字の移入と共にこの国に伝播した。その中で、無念夢想によって精神の集中を高めるという方法が、まことしやかに伝えられている。無念無双は、わが民族が生み出したものではなく、受け売りである。

とにかく古代中国人の観念構想力には脱帽する。彼らの手にかかると、黒いものでも白くなる。科学的実証精神を具えない観念論がどこまでも幅を利かし、海を超え時を超え教化を推し進める。
中華思想という、強烈な自負と自信が自己尊大性を生み、四囲の未開民族を蔑視し続けてきた。

夜郎自大という、彼らが創り出した言葉は、彼の国のその時代の人々の特性を、見事に一言で言い表した言葉ではないだろうか?

まこと中国人は、自分たちの優れた文明を築いた時から、人間世界に対する理解の根本を、誤ったのではないかとさえ思えてくる。
世界史的に眺めれば、モノの考え方の基本を誤り、ボタンを掛け違えたのではないか。
時代を経るほど、正しい人間観・世界観との乖離が広くなり、今日に至っているように思う。

雑念を払うことは、観念を統一するための準備段階である。観念を整理し統一するには、本来なら頭は目まぐるしく働いていなければならない。瞑目して臍下丹田に気を集中し、深呼吸していればその境地に達するものではない。

脳の働きを理解すれば、精神を統一する為には、脳は休みなく働いて思考の集中(収斂)に向かわなければならない。その最中なのか結果なのかはわからないが、悟りの瞬間、閃きがあるのではないか?

脳が働いていれば、雑念が湧いて来るのが当たり前である。雑草という草が無いのと同様、雑念という念いも本当は無いのだと思う。雑という概念と文字を生み、雑を卑しめ、富貴以外の何もかも雑に放り込むようになったのは、やはり古代の中国人の賢者たちではなかったか。

とにかく無念夢想をあまり有難がるのはどうかと思う。それでは何も解決出来ないし進歩もしない。観念だけでなく、経験も踏まえなくては、正しい判断は導けない。
人間は、思索をめぐらし対話や議論を重ね、それを文字にして整理する、地道な作業を措いては、真理に達する道へ進めないと思う。

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