道々の枝折

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アキレス腱

2021年03月12日 | 人文考察
またも露呈した省庁の対外交渉の不手際。ファイザー社ワクチンの調達に、厚労省の手ぬかりがあったらしい。らしいと言うのは、責任の所在を問われないよう、ウヤムヤにしようとしている様子が明らかに見て取れるからで、我々国民は事実かどうかを確かめようがない。

コロナワクチンの納入時期と数量は、接種を担当する各自治体に予め通知され、接種計画は綿密に策定されていなければならない筈のもの。それが、納入が見通せなくなったら、テロへの警戒とか何とか、事実を隠そうと腐心している姿がありあり見える。接種を受け持つ方は、対応に四苦八苦するだろう。

ファイザー社との契約及び納入計画の折衝に当たる厚労省担当部局の、詰めの甘さを指摘する声が大きい。注射器の不適合も、明らかにファイザー社との協議不足の結果だろう。注射器を完全に手配し、ワクチン調達を順調に進める隣国韓国から、憫笑を買う始末である。

英語に強 い?河野太郎規制改革大臣を急遽ワクチン担当とするなど、泥縄もよいところだ。河野大臣の説明によると、納入日程に関しては、契約の中身が「confirm(確約)」ではなく、「best effort(最大限の努力)」とされていたという。よもやそんな話は信じがたい。所管担当部局への取り繕いであろう。
滅多なことでは確約しない契約文化圏相手に、reconfirmを忘れたということはまさかあるまい。こんな初歩的なミスを官僚が仕出かすはずがない。

大きな声では言えないが、背景には、厚労省のワクチン調達担当者の言語的交渉力の不備と、薬品ロジスティックスに特有な常識の欠如、そしてワクチン接種対策における政府の総合的なシステム思考の欠落があったのではないか?昭和の敗戦を招いた要因は、改善されることなくそっくりそのまま今に引き継がれているのだろうか?

島国に住む日本人は、近世に異国人と直接接触することを厳禁されていた歴史をもつ。外国語を現地人同様に日常的に使いこなす人は少ない。学力優秀な官僚と雖も、英語がアキレス腱であることは、国民の大多数と変わらない。

試験で語学に高点を取り、読み書きに何ら不足はなくても、英語を母国語とする対手と微妙で複雑な内容の交渉を相対で協議折衝することは、実は大変に負担の重い仕事である。丁々発止とやり合えるほどの交渉力と語学力を同時に併せもつ役人は、各省庁にさほど多くはいないのではなかろうか?

かつて我々の中学生時代、英語の担当教師たちが最も虞れていたのは、学校を見学や視察に来た外国人たちに接応することだったと、成人してから後に聴いたことがある。生徒たちの前では、微塵もその素振りは見せなかったが、実情であったらしい。真偽は確かめられないが、当時の英語授業の内容を想起すると、あり得ないことではないと思う。

語学に強いはずの外務省の役人にしてからが、それぞれ特定の外国語を使いこなしてはいても、本音では苦手らしい。優秀な通訳官は居るがその職能は翻訳であって、キャリアが担うネゴシエーションの域には踏み込まない。いくら翻訳が正確でも、交渉を有利か不利かに分けるのは、実務官僚の交渉や説得の能力である。

我々国民から見れば、国家公務員上級試験に合格し、海外で語学研修や留学経験を積んだキャリアの語学力は、相当なものであることに疑いはない。ただしそれは、一般国民に比してのことである。利害が相反する国同士の複雑な交渉や取り引きとなると、いかに優秀な日本の実務官僚でも、英・独・仏トリリンガルが当たり前の欧米の官僚やビジネスマンと渡り合うのは、さぞかし骨が折れることだろう。

外務省の職員でも、自在に英語を遣いこなす人材は乏しく、大国相手の外交交渉でいつも後れをとるのはそれが理由と打ち明けるOBもいる。幕末の開港時、列強との間で不平等条約を締結した理由も、偏に語学と実務の両能力を兼ね備えたエキスパートが不在だった事情が大きい。今日でも、国民には知らされていないが、語学と実務の双方に長けたエキスパートとなると、存外多くはいないのかもしれない。

外務省関係者の内輪話によると、日本の外交官僚は、交渉のせめぎ合いで、何度も確認念押しをしなければならない局面となると、存外妥協的・肯定的な対応をしてしまう通弊があるという。それは、優秀なエリートならではの、外国人に莫迦にされたくない心理が働くからだという。

その結果、対外協議で国益が損なわれることは、多々あったという。多々あっては国民は困る。表沙汰にならないのは、合意文書が非公開であること、野党やマスコミが相手方からウラをとれないことが壁になつている。さすがの文春砲も、射程外では手も足も出ない。

対外折衝の内幕は、役所を挙げて取り繕うことが可能である。また、国務大臣をはじめとする政治家たちは官僚依存体質で、彼らの力量を盲信しているから実情実態を見抜けない。メディアに調査報道をする能力は無い。割りを食うのは、タックスペイヤーたる国民である。
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