場所:横尾忠則現代美術館
会期:2019年9月14日~12月22日
訪問日:12月19日
惹句:ゲストキュレータ 横尾忠則
神戸に出張があって、美術館を調べた。「えっ 横尾忠則現代美術館? こんなのがある!、おっ <自我自損展> なんやこの名は・・・面白い。」ということで、出かけてみることにした。なお美術館自体は2012年に開館したとのことである。
私にとって横尾忠則は、画家というよりも、朝日ジャーナルがつぶれたときのヌードの表紙の作者として印象が強いし、高倉健、三島由紀夫、浅丘ルリ子などのグラフィックやイラストレータとしてのイメージが強い。
この人が画家宣言をして暫くしたころ、なんかで絵を見てたいしたことがないと思った。 デザイナーとして大家扱いされだしたのに、よくも変わるものだなとおもった。でも今回初めてアメリカでピカソ展を見て、ガラッと気持ちが変わったことを知った。
自我自損というのは、「エゴに固執すると損をする」という造語だそうですが、横尾の絶えざる自己否定、そしてより積極的に「自我からの解放」をも意味しているようだ。このデザイナーから画家への転換もそれにつながる。
転換してから技術的に苦労したようだが、表現したいという意思、名画への高い感応力とそれを真似てでも理解しようとする強さ、デザイナーとして実力があり寵児であったことによる有名人人脈などから、画家として実力と人気を高め、日本のポップアーチストとしてアメリカで火が付いたようである。それによって、日本のデザイナーとしての山の頂上近辺から、画家というもっと大きな国際的な塊に移り、まんまと上のほうへジャンプアップしたようだ。
キュレータとしての「コンセプトはない」のがコンセプト、作品選定は選定日の気分で決めたと勝手なことを言っている。そしてただ自分で作品を選んだら後は美術館のキュレータを指名して任せたといっているだけのようである。でも豊富な自分の持っている作品から彼として典型的なものが選ばれており、かなり楽しめた。
まず自我自損展のポスターと、そのもととなった絵。彼は言葉というメッセージの強さをうまく使っている。自分の絵の上に平然と大きな文字をたたき込み、それでわくわくさせるポスターにするなんてすごい。左上の縛り首の輪、彼は死、性、戦争、故郷を絵に組み込んでいるが、死がもっとも重要なテーマで何度も出てくる。
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<T+Y 自画像>
文字の書き込みに関しては、自分の大事な友人 三島由紀夫の絵を1994年に描いたものに、改めて大きな文字のメッセージ、これは三島が語っていた言葉 を書き込むといった改変を実施している。自分でその絵を見ているうちに、その言葉が浮き上がったのだろうか。
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<I'm Running Out of Time>
性と死に関しては、絵に対して実もふたもない言葉を次のように浮かび上がらせている絵がある。絵を見る人をからかっているようで楽しい。
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鎮魂の河 カンガー (文字;Come とDIE) 愛の錬金術 (文字:LOVEとMONEY)
彼はこだわったテーマに関して連作を行っている。もっとも有名なのがY字路のテーマ。彼の故郷の西脇市の道からくる。下記の1枚目が普通の写生に近いもの。2枚目は海水中にアレンジしたもの。確かにY字路は立体感があるし、道の選択という哲学的なイメージを提示する意味でも面白いテーマ。
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<暗夜光路>
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<下田幻想>
そして下記がやはり一時期のテーマだったお風呂屋さんのテーマ。土偶もしくはレジエを彷彿させるキュビズムの人とお遊びのナンバー遊び。
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<ノンフィニート2>
ともかく、彼は変幻自在。下記のようなシャガールのようなロマンチックな絵を書く。
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<Angel with Space Ships>
そう思ったら、デビルマン。
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<DEVILMAN>
そして、福笑いのようなチャンバラ。三船敏郎だ。なぜ ハリウッド女優と一緒?
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<椿五十郎>
とっても面白かったのが、彼は滝にこだわったそうでものすごくたくさんの滝の絵ハガキを集めた。一つの部屋にその写真をぎっしり並べ足元に反射板を置いた。この部屋に入ると浮遊感がある。
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他にもたくさん紹介したいものがあるが最後に横尾Mandara。ど真ん中に縛り首の輪を置き、回りにウォーホルの肖像などいろいろな肖像をいろいろな描き方で並べている。SALEとたくさん描かれているが、芸術まで及んでいる大量消費社会への批判の意味。
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<横尾Mandara>
じっくり見ていると、おもちゃ箱をひっくり返したようでなかなか面白かった。絵の中にいろんなことが書き込まれている。高校の頃、写真部の顧問の先生が「写真はやっぱり細部への書き込みで絵画に勝てない。」と言ったことを思い出した。
横尾さんはグラフィックを主とするデザイナーだったから、同様にグラフィックの世界のよりも絵画のほうが主張できる世界が大きいと思って、絵画に移ったのかもしれない。
(森村泰昌のように、写真の作り込みに関して新しい世界を広げた人もいるが・・)
おまけ。4階は展示室ではないが、通路そのものが作品になっている。
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