「恥の多い人生を送ってきました」の冒頭にあるように自らの生涯を語るストーリー。
あまりにも有名な小説を蜷川実花が監督。蜷川は世界に誇るカメラマン。全編にながれる映像はやはり美しく妖しげで耽美的である。例えば二人の子供たちと楽しそうにはしゃぐ彼岸花の赤、どこまでもうすももいろのつづく梅林の道をゆくとき、、降り積もった真っ白な雪の上に赤い血を吐いて倒れる彼の体の上ににゆっくりと雪の華が落ちるとき、密会のときの背景の妖しい紫陽花の靑、ゆれる白い藤の花、どれをとってもそれぞれの心の揺れる心情を反映するカメラマンの腕が光る。
「人間は恋と革命のために生まれてきたのだ」と口にするが、(寂聴さんも口にする言葉)家庭を持ちながら2人の女を愛し、心中未遂をし、女の死を悼むどころか「ああ~死ぬかと思った」と平然とうそぶく。最後は山崎富栄と玉川上水に身を投げる二人。糟糠の妻は3人の子を育てながらもっといい小説を書けるのだからと激励し、彼の子を欲しがる弟子には自分の一字をつけて治子と命名、その娘は後に太田治子と名のり、母親の日記をもとに小説を発表している。入水後の翌月「人間失格」が発表された。水の中に沈んでいきながらパッと一瞬目をあけて完となるのだが、そこには本当は死にたくはなかったというメッセージが込められているように感じた。彼は革命よりも破壊を選んだのか・・・欲望のままに生き溺れるように沈んでゆく太宰の生涯の映画化。全編に流れる3人の女性の強さが押し出されている。
私、太田治子とお会いしたことありますが、私の思いと違って父親に対して好感とか、親しみでなく、かなり強く反感をもっていてびくっりしたことがありました。お母さんの太田静子さん、ずいぶん苦労されたのだと思いました。