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肉食の系譜
マシアカサウルス

大恐竜展では「ノアサウルス科の一種」が展示されていた。これがなかなか可愛らしくて個人的には気に入ったが、そもそもどういう特徴からノアサウルス科とわかるのであろうか。
ノアサウルス類は白亜紀のゴンドワナ地域に生息した小型の獣脚類で、アベリサウルス類と近縁な関係にある。アベリサウルス科とノアサウルス科を含むより大きなグループをアベリサウルス上科Abelisauroideaと称する。従って、アベリサウルス類の祖先がどんな動物だったか考える上で興味深い。例えば、「ノアサウルス科の一種」の復元キャストでは前肢がかなり短かったが、ノアサウルス類の前肢はどの程度見つかっているのだろうか。またこの復元キャストでは、推定で作ったと思われる頭部の下顎が、ちょっとマシアカ風に反っていたのも気になる。下顎が反っているのはマシアカサウルスに固有の特徴だと思うが、他のノアサウルス類の下顎は発見されているのだろうか。
マシアカサウルスは白亜紀後期にマダガスカルに生息した小型の獣脚類で、上顎骨、歯骨、板状骨、角骨(つまり頭骨は上顎と下顎の骨だけ)、頸椎、胴椎、仙椎、尾椎、上腕骨、指骨(撓骨、尺骨などはない)、恥骨、大腿骨、脛骨、脛骨と癒合した近位足根骨(距骨と踵骨)、中足骨、趾骨(末節骨も含む)が見つかっている。
マシアカサウルスは下顎の先端と歯が下方に曲がっていることで有名である。固有の形質としては、前端の4本の歯骨歯が前方に倒れており(procumbent)、最も前端の歯はほとんど水平方向を向いていて、その歯槽は歯骨の腹側縁よりも下がった位置にある。また歯骨歯は高度に異歯性(heterodont)で、前方の歯はスプーン型に近い形で長く、先端が尖ってカギ型に曲がっている。より後方の歯は、普通の獣脚類と同様に扁平で後方にカーブし、前縁と後縁に鋸歯がある。
下顎があまりにもユニークなせいか、それ以外の特徴が書かれた文章をみたことがない。どこがノアサウルス科なのだろうか。ノアサウルス類の化石は断片的で、その特徴とされる形質は文献によって少しずつ異なるが、一つのポイントは「頸椎の神経弓」らしい。
マシアカサウルスの頸椎では、神経棘突起が小さく、椎体の前半部の上にある。また後関節突起とエピポフィシスが強く後方に伸びている(神経棘突起から後関節突起までの距離が、神経棘突起から前関節突起までの距離の2倍くらいある)。エピポフィシス自体は小さく後関節突起から後方に張り出してはいないという。マシアカサウルスの記載論文(Carrano et al., 2002)によると、アベリサウルス上科の中で、マシアカサウルス、ノアサウルス、ラエヴィスクスがノアサウルス科としてまとめられる。これら3属はいずれも神経棘突起が小さく前方にあり、後関節突起が強く後方に伸びている。
マシアカサウルスとノアサウルスの2属は、その他に上顎骨と中足骨の形質を共有している。上顎骨の前眼窩窩の腹側縁がはっきりと(土手のように)盛り上がっていること、上顎骨の口蓋突起が単純であること、第2中足骨の軸が左右に薄くなっていることである。
マシアカサウルスの上顎骨には7個の歯槽が保存されているが、せいぜいあと2、3個しかないらしいという。ノアサウルスも10~11個と考えられているので、上顎骨の歯の数が少ない点も共通している。前眼窩窩の腹側縁が盛り上がっていることはコエロフィシス類にもみられるが、コエロフィシス類の上顎骨では歯の数が多く、前上顎骨と上顎骨の間にくびれsubnarial gap (notch)がある。
またマシアカサウルスの上顎骨では萌出した歯は保存されていないが、歯槽の角度をみると、前方の歯はやはり前に傾いていたことがわかるという。最も前方の歯槽は大体、前上顎骨との結合面と平行で、水平から40°というからかなり斜めになっている。歯槽の角度は後方にいくにつれて次第に垂直に近づき、5番目の歯槽で完全に垂直になるという。そして最も前方の歯槽は断面が円形で、後方の歯槽は扁平(楕円形)になる。つまり、マシアカサウルスの歯は、下顎だけではなく上顎の上顎骨でもprocumbentでheterodontである。前方の2、3本はある程度傾いてみえると思われる。なお前上顎骨は発見されていないので、その歯は推定で前方に傾いている(出っ歯)ように復元されている。2005年の科博での復元キャストでは前上顎骨の歯は傾いているが、上顎骨の歯は斜めになっていないようにみえる。歯槽と歯冠ではまた角度が違ってくるとしても、もう少し傾いているように造ってもいいのではないだろうか。
下顎の歯骨では、最前端の歯がほとんど水平(10°)で、2番目、3番目は20°、35°で、かつ側方に10°開いている。また、歯骨の後端の形態から外側下顎窓が非常に大きいことがわかるが、これはアベリサウルス類と似ている。
上顎、下顎とも、後方の歯は普通の獣脚類と同じようなナイフ型をしている。Carrano et al. (2002) は、前方の歯が非常に特殊化しているだけでなく、そのわりに後方の歯が普通であることも不思議であると述べている。前方の歯で小型の動物を捕らえ、後方の歯で切断したのかもしれないという。
白亜紀後期にアルゼンチンに生息したノアサウルス・レアリは、1980年に記載された時にはコエルロサウルス類と思われていた。模式標本は断片的で、上顎骨、方形骨、鱗状骨、頸椎の神経弓、胴椎の椎体、頸肋骨、第2中足骨、趾骨、末節骨が発見されている。下顎や前肢の骨は見つかっていない。
参考文献
Bonaparte, J. F. and J. E. Powell. 1980. A continental assemblage of tetrapods from the Upper Cretaceous beds of El Brete, northwestern Argentina (Sauropoda-Coelurosauria-Carnosauria-Aves). Me'moires de la Socie'te' Ge'ologique de France, Nouvelle Se'rie 139:19-28.
Carrano, M. T., S. D. Sampson, and C. A. Forster. 2002. The osteology of Masiakasaurus knopfleri, a small abelisauroid (Dinosauria: Theropoda) from the Late Cretaceous of Madagascar. Journal of Vertebrate Paleontology 22: 510-534.
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