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肉食の系譜
ネオヴェナトル1


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ネオヴェナトルは、白亜紀前期バレム期にイギリスのワイト島に生息したアロサウロイドである。1996年にHutt et al.によって最初に記載されたが、部分的にしか記載されていなかったので、その後Brusatte et al. により研究され、2008年に詳細な記載論文(モノグラフ)が出版された。ネオヴェナトルの化石は、完模式標本と2つの参照標本を合わせると全身の約70%が知られているが、前肢と頭骨の後方2/3は知られていない。最初の記載ではヨーロッパ初のアロサウルス科とされたが、その後の研究でカルカロドントサウルス科の最も基盤的なものと考えられた。さらにその後、カルカロドントサウルス類の中でも特徴的なグループとして、ネオヴェナトル科という分類群が提唱されている。
ワイト島の博物館には全身復元骨格が展示されているが、頭部の眼窩周辺など欠けている部分はアロサウルスに基づいて復元されている。そのため、吻の形は少し異なるが、全体としてはほとんどアロサウルスに見える。どこがカルカロドントサウルス類と似ているのだろうか。
化石の一部を記載したNaish et al. (2001)は、すべての胴椎に含気孔があること、座骨のischial bootが膨らんでいることがカルカロドントサウルス科と似ていることに気づいた。さらにBrusatte et al. (2008) により、脊椎骨にcamellate内部構造があること、いくつかの頸椎で前方に複数の含気孔があること、座骨の腸骨との関節面が深く凹んだソケット状であること、恥骨のpubic bootの前後の長さが恥骨の長さの60%以上、大腿骨頭が基部内側に傾いていることなどから、アロサウルスよりもカルカロドントサウルス科に近縁と考えられた。
このことからBrusatte et al. (2008) は、カルカロドントサウルス科の進化においては頭骨の特徴よりも、脊椎骨と付属骨格(特に腰帯)の変化が先行したことを示唆するとしている。
Brusatte et al. (2008)によると、ネオヴェナトルは、以下のような固有の形質をもつアロサウロイドとされている。左右の前上顎骨間の結合面に、互いにはまり込む(peg and socket)余分の関節構造がある、上顎骨のmaxillary fenestraが大きく上顎骨の歯列の長さの約1/6に達する、軸椎の間椎心の前方の関節面が横に広がっている、軸椎の神経棘の側面に1つの小さな孔がある、後方の頸椎で頸肋骨が脊椎骨と癒合している、第8と第9頸椎のparapophyseal facetsでcamellate内部構造が露出している、前方の胴椎の腹側面に鋭い稜が発達している、前方の胴椎に低いマウンド状の隆起であるhypapophysisがある、後方の胴椎の前関節突起と後関節突起から側面に伸びる曲がったフランジがある、肩甲烏口骨の関節窩は前後の長さよりも内側外側の幅の方が大きい、腸骨の内側面のpreacetabular notchに隣接した棚状部shelfがある、大腿骨頭が前内側に向き、また基部側に傾いている、大腿骨の小転子の外側面に太い稜がある、第2中足骨の外側面に第3中足骨と関節するための凹みがある、などである。
その後Benson et al. (2010)により、上記のネオヴェナトルに固有と考えられた形質のうちいくつかの特徴は、白亜紀後期のアルゼンチンのアエロステオンなどにもみられることがわかった。ネオヴェナトルとアエロステオンでは、1) 前方の胴椎の腹側正中に鋭い稜が発達しており、その稜の前端に低いマウンド状のhypapophysisがある、2) 後方の胴椎の後関節突起から側面に伸びるフランジがある、3) 腸骨のpreacetabular notchに隣接した棚状部shelfがある、4) 腸骨に含気性が発達している、などの特徴が共通している。これらの多くはネオヴェナトル科の特徴として挙げられている。
頭骨は、前方の吻の部分(前上顎骨、上顎骨、鼻骨、口蓋骨、歯骨の前方部)しか見つかっていないが、それらの保存はよいという。外鼻孔は大きい。Hutt et al. (1996) は外鼻孔が大きいこともネオヴェナトルの固有の特徴と考えたが、前上顎骨や上顎骨の長さと比較すると、外鼻孔の大きさは他のアロサウロイドと大差ないという。
ネオヴェナトルの前上顎骨では、アロサウルス、ドゥブレウイロサウルス、シンラプトルと同様に、前上顎骨体premaxillary bodyの前後の長さが背腹の高さよりも大きい。一方アクロカントサウルスとギガノトサウルスでは高さの方が大きい。前上顎骨の前縁は、アクロカントサウルスやギガノトサウルスと同様に後背方に傾いている。これはアロサウルス、モノロフォサウルス、シンラプトルでは垂直に近い。左右の前上顎骨の結合部symphysisには、特徴的なpeg and socket構造がみられる。左の前上顎骨の結合面では背側に前縁に沿った稜があり、腹側に溝がある。右の前上顎骨では背側に溝、腹側に稜があり、互いにはまり込むようになっている。このような余分の関節構造は他のどの獣脚類にもみられないという。ネオヴェナトルの前上顎骨には5本の歯があるが、これはアロサウルスとネオヴェナトルだけで知られている。
上顎骨には他の多くの基盤的テタヌラ類と同様に、上顎骨体maxillary bodyから前方に突出した、はっきりした前方突起anterior ramusがある。ネオヴェナトルでは、アフロヴェナトル、ドゥブレウイロサウルス、モノロフォサウルス、トルボサウルス、スピノサウルス類と同様に、前方突起の前後の長さが背腹の高さよりも大きい。それに対してアクロカントサウルスやカルカロドントサウルスでは、長さよりも丈が高い。アロサウルスでは標本により変異がある(長いものもあれば丈が高いものもある)。
前上顎骨との関節面は、側面から見てアロサウルスと同様に垂直に近い。これはアクロカントサウルス、カルカロドントサウルス、ギガノトサウルス、エオカルカリア、マプサウルス、シンラプトルでは後背方に傾いている。
上顎骨の側面には、ギガノトサウルス、マプサウルス、カルカロドントサウルスやアベリサウルス類と同様にごつごつした粗面がある(rugose)。また上顎骨の側面、特に外鼻孔の下の前方突起と歯列のすぐ上の部分には、多数の孔がある。上顎骨体から後背方に約45°の角度で上方突起ascending ramusが伸びている。上方突起は中程でやや屈曲しているが、アフロヴェナトルやドゥブレウイロサウルスのように顕著な屈曲ではない。
前上顎骨、上顎骨、歯骨のいずれにも萌出した歯は保存されていないが、模式標本と一緒に大小の獣脚類の歯が発見されている。これらは成体の萌出した歯、成長中の歯、前方の小さい歯と考えられる。これらの歯は一般的な獣脚類の歯と同じようにナイフ状で、後方に反っており、鋸歯があるが、進化したカルカロドントサウルス類の歯とは似ていない。またこれらの歯にはエナメルのしわが見られるが、カルカロドントサウルス類に特徴的なエナメルのしわとは異なっている。
camellate内部構造:内部の空間が蜂の巣状に区切られた構造。含気性の発達を表す。
フランジ:突縁。帽子のつばのように薄く伸びた縁の部分。
参考文献
Brusatte, S. L., Benson, R. B. J., Hutt, S. (2008) The osteology of Neovenator salerii (Dinosauria: Theropoda) from the Wealden Group (Barremian) of the Isle of Wight. Monograph of Palaeontographical Society No. 631, vol.162, 1–75.
Benson, R. B. J., Carrano, M. T. & Brusatte, S. L. (2010) A new clade of archaic large-bodied predatory dinosaurs (Theropoda: Allosauroidea) that survived to the latest Mesozoic. Naturwissenschaften 97, 71-78.
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