獣脚類を中心とした恐竜イラストサイト
肉食の系譜
アベリサウルス類のアロメトリー:featuring ピクノネモサウルス (2)
[アロメトリー解析]
アロメトリー係数coefficient of allometry, k が、k=1ならば等成長isometryで、全長が大きくなるのに比例してその部分が大きくなる。 k>1ならば正の相対成長(優成長)、 k<1ならば負の相対成長(劣成長)である。体重を支えるための肢の太さなどは、k=1.5付近の優成長をするが、これを生体力学的等成長biomechanical isometryという。
すべての種類を含めた二次解析の結果でも、脊椎骨と全長との相関は一次解析と同様で、ほとんどの測定値で非常に強く相関していた(R2 > 0.95)。すべての脊椎骨の椎体の長さは、全長に対して等成長であった(0.93
後肢の骨の測定値は、全長と非常に強く相関していた(R2 > 0.98)。大腿骨の長さは優成長で(k = 1.17)、脛骨の長さ(k = 1.00)と第III中足骨の長さ(k = 0.96)は等成長であった。
二次解析の結果で、いくつかの頭骨の測定値は非常に低い相関しか示さなかった(R2 < 0.60)。最もよく相関しているのはSKH (R2 = 0.92) と LSL (R2 = 0.87) であった。頭蓋の長さSKL (R2 = 0.60) が相関が低いのは、アベリサウルスとカルノタウルスのためである。アベリサウルスの頭蓋は恐らく長く作られており問題がある(だったら初めから用いなければいいのに)。カルノタウルスの頭蓋は非常に短い。そのためばらつきが大きくなり、相関が弱くなっているわけである。アベリサウルスを除いて解析すると、全長との相関はよくなり(R2 =0.86)、kは低下した。さらにカルノタウルスも除くと、相関もよくなり(R2 =0.89)kは増加した。つまりカルノタウルスの頭骨はアベリサウルス類の中でも特に短いことを支持している。
頭蓋の高さSKHはほぼ等成長に近かった (k = 1.12) が、頭骨の長さと幅に関する測定値は劣成長で、頭蓋天井の長さSKRL はさらに強く劣成長となった(k = 0.28)。これは頭蓋の腹側に比べて頭蓋天井が相対的に短くなり、頭蓋が上に曲がる傾向を表すかもしれない。大型のカルノタウルスとスコルピオヴェナトルでは吻が上方に傾く傾向がある。これらのパターンから、アベリサウルス類の頭骨のアロメトリーについて以下のようにまとめられる。全長が増加するにつれて、頭骨は短く幅が狭くなり、上方に曲がるが、高さは全長に対して一定に保たれる。ただしいくつかの測定値については決定係数が小さいので、注意が必要であるという。
[感想]
ブラジルとアルゼンチンは南米の大国としてサッカーではライバルであるが、アベリサウルス類の化石については圧倒的にアルゼンチンが恵まれている。Grillo and Delcourt (2017)はブラジルの研究者なので、なんとしてもピクノネモサウルスなどの断片的な標本に日の目を見させたいという思いがあって、それがこの大きい研究の出発点になったのではないか。論文中のリストを見ると、未命名のアベリサウロイドの標本がかなり多数、蓄積しているのに驚く。多くは断片的な化石であるが、1つ1つは断片的でも、全部を集めて総合的に解析すれば、アベリサウロイド全体の体形の進化傾向が研究できる。そういうモチベーションではなかろうか。最近はこういったグローバルな解析が増えているような気がする。
そこで著者らは世界中のアベリサウロイドのデータを収集している。脛骨についてはアウカサウルス、スコルピオヴェナトルなどの骨を実際に計測している。またピクノネモサウルスの尾椎についても当然実測している。しかしそれ以外のほとんどの測定値は、過去の文献から収集している。そのため、データが欠けているところも多い。
この研究では、強い相関を示すことから脊椎骨のデータを重視しているが、フル記載されていないアウカサウルスとスコルピオヴェナトルの測定値がごっそり抜けている。これらは四肢の測定値はあるのだが、Table3, Table4, Supplementary infoをみると頸椎、胴椎、仙椎の長さ、高さ、幅のデータは欠落している。あるのは前方の尾椎のみである。またエオアベリサウルスのデータもないようだ。著者らも本文中で言及しているように、6種の標本を用いて回帰直線を求めるはずが、実際には頸椎、胴椎、仙椎についてはカルノタウルス、マジュンガサウルス、マシアカサウルスの3点(あるいは2点)で線を引いている。これらがちょうど大型、中型、小型といい感じに分布しているので結果的には強い相関が得られたが、もしアウカサウルス、スコルピオヴェナトル、エオアベリサウルスの測定値も加えればずっと精度の高いデータになったと思うと、この点は非常に残念である。まあアルゼンチン側にも事情があるだろうし、保存のよい全身骨格だからこそ研究には膨大な時間がかかるということだろう。アベリサウロイド全体を総合した研究がアルゼンチンではなくブラジルから出るところは面白いが、アルゼンチンの研究者としては悔しいのではなかろうか。そんなことはないのかしら。
また、この解析はあくまでアベリサウロイド全体が大型化するときにどのような体形変化をするかを平均的にモデル化し、予測に用いているものである。当然、他のアベリサウルス類とはかけ離れた特徴をもった種類もいただろう。断片的な種類の中に、予測から外れて頭骨が長いとか、首が短い種類がいたかもしれない。それがわかれば、今度はその測定値を含めて回帰直線が変わるという性格のものだろう。さらに細かくいえばノアサウルス類とアベリサウルス類では体形が異なる場合、もっと精密な研究が必要になる。同じ大きさのノアサウルス類とアベリサウルス類では体形が異なるかもしれない。たぶん差があるだろう。ノアサウルス類の化石がもっと蓄積することが期待される。
また最も完全な6種のアベリサウロイドの新しい全身骨格図が載っている点で、アマチュア恐竜ファンにとっても貴重な論文である。カルノタウルスについては従来のボナパルテやグレゴリー・ポールの骨格図を採用せず、新しく改訂している。わりと普通の体形になっているようにみえる。気になるのはやはりアウカサウルスである。スコルピオヴェナトルは全身の写真があるからわかるが、グレゴリー・ポールはどうやってアウカサウルスの骨格図を描いたのだろうか。特に顔の部分はCoria et al. (2002) の簡略な骨格図を見て描いただけのようにもみえるが、ポールは標本を見せてもらったのだろうか。Grillo and Delcourt (2017)は、関係する骨の長さ等について確認したといっているので、それぞれの骨の比率などについてはグレゴリー・ポールの骨格図がお墨付きをもらった形である。しかし公表されていない部分については測定値がないわけで、確認されていないはずである。このアウカサウルスの骨格図はまあこんな感じと思うが、そうすると全身復元骨格の首はやはり長すぎるように思われる。全身が出ているのだから長さくらい測って作るだろう、と好意的に解釈してはいけなかったのか。まあマプサウルスがアレで、メガラプトルがあれで、スタウリコサウルスが・・・と考えるとアルゼンチンの復元骨格はすべて信用できないとも考えられる。しかし、実物があるならその通りに作るのが一番楽だと思うが、どうなのか。頸椎はあるがほとんど砕けていて、長さが測定できないので長めに作ったのか?ともかくモノグラフが出てほしいものである。頭骨はつぶれていたこと、脳函の腹側は欠けていることは知っているが、アウカサウルスがどんな顔なのか、いまだに気になる。測定値では上顎骨の高さが他のアベリサウルス類と比べてかなり小さくなっているがこれは真実なのか、など。
この研究は、世界各地の断片的な標本のデータをすべて活用し、一つにまとめ上げてアベリサウルス類のアロメトリーについて総合的に解析したことに非常に大きな意義があると思われる。
バグのお知らせ:アロメトリー解析のところで、「(0.93」の後、文章が切れていますが、ブラウザに貼り付けるときに何かバグがあって、何度やってもうまくいきません。投稿画面では以下の文章が入っています。
すべての脊椎骨の椎体の長さは、全長に対して等成長であった(0.93
コメント ( 1 ) | Trackback ( 0 )