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サウロスクスの機能形態学

 

Copyright 2023 Fawcett et al.

サウロスクスといえば、後期三畳紀アルゼンチンのイスキグアラスト層の動物相において、最強の肉食動物であり、ヘレラサウルスも逃げ出すほどの頂点捕食者のはずである。初期の小型の恐竜にとっては到底かなわない相手であり、後の時代の大型獣脚類に匹敵するパワーをもち、獣脚類のように丈の高い頭骨にはナイフのような鋭い歯がずらりと並び、咬む力も・・・と書きたいところである。
ところが最新の研究によると、サウロスクスの頭骨は全体としてはそれなりに頑丈であるが、一部弱い部分があり、咬む力は意外に弱くアロサウルスの半分程度であるという。これはかなりがっかりである。何かの間違いであってほしい。

Fawcett et al. (2023) はラウイスクス類で初めて、保存の良いサウロスクスの頭骨をretrodeformationという手法で完全に復元した。そして顎の筋肉の起始・付着面を同定し、顎を閉じる筋肉の断面積と力を算出した。有限要素解析で物を咬んだときの応力分布を視覚化し、すでにモデル化されているアロサウルスとサウロスクスの頭骨を比較した。さらに強い力を加えてそれぞれの頭骨を変形させるシミュレーションも行っている。

サウロスクスとアロサウルスの頭骨を比較すると、物体を咬んだ時の応力分布は頭骨の後半部では同じようなパターンを示した。しかし頭骨の前半部、特に口蓋の前方部分はアロサウルスの方がサウロスクスよりも強いという。サウロスクスの鋤骨は薄く、口蓋部分からの力を強く受けやすい。サウロスクスの頭骨では鋤骨、翼状骨、方形骨などが力学的に弱い部分であるという。

サウロスクスの咬む力は、歯列の前方で1015 N、後方で1885 Nと推定された。アロサウルスでは歯列の後方で3500 Nと推定されているので(Rayfield et al., 2001)、これはアロサウルスの半分程度ということになる。アロサウルス自体が全長7.5 mの動物としては弱いといわれていたので、サウロスクスの咬む力はかなり弱いという。もちろんティラノサウルスよりははるかに小さい。(この論文では片側の筋肉の力を表記している。)
 現生ワニの中でサウロスクスと最も近いのは、インドガビアルの前方924 N、後方1895 Nである。インドガビアルも現生ワニ類の中では弱い種類であり、大体全長が2 mより大きいワニでは、これよりも強いという。現生ワニ類は咬む力が最も強い動物群であるが、系統が近いからといって同じように強いとは限らないという。

魚食のインドガビアルと同じではいかにも弱いように思える。一つの希望は、ラウイスクス類の中でサウロスクスは咬む力が弱い種類かもしれないということである。部分的なサウロスクスの下顎の前端は、背腹に広がっていないという。バトラコトムスやポストスクスの下顎の前端はもっと広がっている。つまり他のラウイスクス類はサウロスクスよりも咬む力が強いという可能性に期待したい。ラウイスクス類ではないかもしれないがポーランドのスモックは、骨片を含む糞化石から骨ごと砕いて食べたと考えられている。それとの関連はどうなのだろうか。

頭骨を変形させるシミュレーションについて、興味深いことをいっている。サウロスクスの頭骨は、側面から見て大体長方形に近い形である(上顎骨の下縁は下に凸)。この形だと前方で物を咬んだときに、吻を上に曲げるような変形を受けやすい。アロサウルスの頭骨は半円形というか、上縁が丸く下縁がまっすぐ(わずかに凹んでいる)形をしている。このような形の方が、前方で物を咬んだときに吻が変形しにくい。アロサウルスでは後方で咬んだときの頭骨後半部の変形が大きいという。アロサウルスでは咬む力の割に頭蓋が頑丈にできていると昔からいわれているので、それほど新しいことではないが、あらためてアロサウルスの頭骨はなかなかよくできていると思える。そうするとジムマドセニと比べてフラギリスの方が、より変形に強いという意味で頑丈なのだろう。カルカロドントサウルス類も吻の前端は斜めで後頭部が下がっているが、大型化することで全体に頑丈になるのでフラギリスほど頬骨のところが下がらなくてもよいということかもしれない。

参考文献
Fawcett, M. J., Lautenschlager, S., Bestwick, J., & Butler, R. J. (2023). Functional morphology of the Triassic apex predator Saurosuchus galilei (Pseudosuchia: Loricata) and convergence with a post-Triassic theropod dinosaur. The Anatomical Record, 1–17.
https://doi.org/10.1002/ar.25299

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