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マーショサウルスの顎 (ピアトニツキサウルス科)




Copyright Lei et al. 2023

植物食恐竜の骨にみられる獣脚類の咬み跡は、捕食者の摂食行動について重要な情報をもたらすが、これまでの研究はほとんどがティラノサウルス類の咬み跡に関するものであった。Lei et al. (2023) は、北米のジュラ紀後期のモリソン層の竜脚類化石に注目し、文献情報と実際の標本で多数の竜脚類の骨(68)の咬み跡について解析した。
 その結果、これらの咬み跡から獣脚類の種類を特定するのは非常に困難であり、観察した中には確実に特定できたものはなかったという。しかしその過程で、モリソン層の獣脚類の歯と顎の特徴について詳細に比較しているので、大変興味深い。

モリソン層の獣脚類で、屍肉食を含めて竜脚類の骨を咬むような大型獣脚類としては、サウロファガナクス(または大型のアロサウルス、10m以上)、トルボサウルス(9m)、アロサウルス(7m)、ケラトサウルス(6m)、マーショサウルス(4.5m)、タニコラグレウス(4m)などがある。これらをアロサウルス科(サウロファガナクス、アロサウルス)、メガロサウルス上科(トルボサウルス、マーショサウルス)、ケラトサウルス科(ケラトサウルス)に分けて考察している。

吻の前端の前上顎骨の形状を比較すると、アロサウルスでは左右の幅が広く前後に短い(幅/長さの比率が1.30―1.34)。一方メガロサウルス上科のトルボサウルス(0.760)とマーショサウルス(0.795)では幅が狭く前後に長い。ケラトサウルスは中間的である(0.89)。アロサウルスには5対の前上顎骨歯があり、最も前方の左右の歯の間隔は離れている。ケラトサウルスとトルボサウルスでは3対、マーショサウルスでは4対の前上顎骨歯があり、トルボサウルスとマーショサウルスでは最も前方の左右の歯の間隔が狭い。よって、吻の先端で骨を咬んで頭をまっすぐ後方に引いた場合に残る左右対称のキズの場合、合計9本以上の溝があって内側の2本の間隔が広い場合のみ、アロサウルスと推定できるという。一方6本の溝があって内側の2本の間隔が特に狭い場合は、トルボサウルスかマーショサウルスの可能性が高い。しかし実際には頭を後方に引くとは限らず、斜めの方向に引いたり、前上顎骨歯の一部が萌出していなかったり欠損していたりするため、咬み跡から獣脚類の種類を特定するのは困難である。

これらの獣脚類の間では歯冠の向きや配列パターンも異なる。アロサウルスの前上顎骨歯は前上顎骨のカーブに沿って配列しており、さらに前縁が強く内側(舌側)を向いている。一方マーショサウルスとトルボサウルスでは、前縁が(カーブに関わらず)前方を向いている。つまり梯形陣あるいは編隊飛行のような配列である。歯冠の後縁は、アロサウルスでは外側(唇側)を向いているが、マーショサウルスとトルボサウルスではほぼ後方を向いている。ケラトサウルスは中間的で、前縁はまっすぐ前方を向いているが後縁は外側を向いている。その結果、アロサウルスでは骨を咬んでまっすぐ後方に引いた場合でも、それぞれの歯の外側に鋸歯による条線がつくという。マーショサウルスやトルボサウルスの場合、顎を斜めに引けば条線がつく。

鋸歯の大きさ(よって鋸歯密度)にも多様性がある。大型獣脚類の歯について大規模に研究したHendrix らのデータによると、鋸歯密度を5 mmあたりの鋸歯の数(d/5 mm )で表した場合、ケラトサウルスとアロサウルスの歯冠は前縁も後縁も似たような鋸歯密度(約11)を示す。一方トルボサウルスの最大の歯冠では確かに鋸歯が大きく、鋸歯密度は約5-6となった。これは獣脚類の中でも最大の鋸歯をもつティラノサウルスやズケンティラヌスに近いものである。マーショサウルスの歯冠では鋸歯が細かく、前縁で17-18、後縁で14-15と違いがある。サウロファガナクスや最大のアロサウルスでは普通のアロサウルスよりは鋸歯が大きいと思われるが、トルボサウルスよりは小さいと考えられる。よって鋸歯による条線の間隔が0.8mm以上もある場合はトルボサウルスによる咬み跡と考えられる。0.6-0.8mmであればトルボサウルス、アロサウルス、ケラトサウルスの可能性がある。

よくあるティラノサウルスの特徴を解説した文章では、アロサウルスなど一般的な肉食恐竜の歯は薄いナイフ状であるのに対して、大型ティラノサウルス類では歯が厚く、特にティラノサウルスではバナナ形に近いと書かれる。しかし一般的な肉食恐竜の中にも当然ながら変異がある。モリソン層の獣脚類の中では、実はアロサウルスの歯が最も厚く頑丈であるという。アロサウルスの歯は小さいが、前後の長さと左右の幅の比率をとると前方の歯も側方の歯も最も厚い。そのため骨から肉片をそぎとるため歯が骨に当たるようなストレスに対して、モリソン層の他のどの獣脚類よりも耐えられるという。一世を風靡した者にはそれなりの理由があり、アロサウルスはそれなりの完成形ということだろう。



参考文献
Lei R, Tschopp E, Hendrickx C, Wedel MJ, Norell M, Hone DWE. 2023. Bite and tooth marks on sauropod dinosaurs from the Morrison Formation. PeerJ 11:e16327 https://doi.org/10.7717/peerj.16327
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