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肉食の系譜
カレトドラコ

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カレトドラコ・コッタルディCaletodraco cottardiは、後期白亜紀セノマニアン前期にフランスのノルマンディー地方セーヌ・マリティーム県Seine-Maritimeのサン=ジュワン=ブルヌヴァルSaint-Jouin-Bruneval付近に生息したアベリサウルス類で、2024年に記載された。属名はこの地域に居住したケルト人の種族Caletiにちなみ、種小名は発見者の Nicolas Cottard氏への献名である。
アベリサウルス類といえば主にゴンドワナ地域の恐竜であるが、ヨーロッパにも分布していた。ヨーロッパのアベリサウルス類は、例えばフランスのアルコヴェナトルのようにインド・マダガスカルのマジュンガサウルス亜科に属すると考えられていた(アルコヴェナトルの記事)。しかし今回発見されたカレトドラコは、尾椎の横突起の形から南米の進化型のグループであるフリレウサウリアに属すると考えられた。このことからヨーロッパのアベリサウルス類の歴史は、従来考えられていたよりも複雑である可能性が示唆された。
化石はサン=ジュワン=ブルヌヴァルの海成層で発見されており、ここはセノマニアンの時期には海だったので、恐竜が住んでいた場所とは少し離れている。当時最も近い陸地はアルモリカ山塊Armorican Massifで、化石の発見地点から100 kmも離れている。この恐竜の遺骸は陸から海に流されて、海底に堆積したものである。実際にサメの歯やカキと一緒に見つかっている。
カレトドラコのホロタイプ標本は、腰の部分のいくつかの骨(仙骨、部分的な腸骨、第一尾椎)からなる断片的なものであり、前半部と後半部は別の年に発見された。前半部の近くからはアベリサウルス類と思われる歯が見つかっている。この歯についてはホロタイプと同じ個体の歯が外れて腰の近くにきた可能性と、死体を漁りに来た捕食者・屍肉食者のものである可能性がある。サメの歯もあるので、後者の場合は陸上で獣脚類にかじられた後、海に流されて海中でサメにも食べられたという複雑な化石化過程を経たことになる。
カレトドラコの特徴は、フリレウサウリアに特有の先端が広がって三日月形になった尾椎の横突起の形状である。他のフリレウサウリアと異なり、横突起の先端の前方突起は短く、後方部分は大きく丸く扇状に広がっている。
腸骨の全長は700 mmと推定され、これはスコルピオヴェナトルと同じくらいであることから、カレトドラコの全長は6 mと推定される。
カレトドラコの仙骨は6個の完全に癒合した仙椎からなる。これは派生的なアベリサウルス類の形質である。フリレウサウリアのカルノタウルスやアウカサウルスの仙椎は6個であるが、マジュンガサウルスの仙椎は5個である。癒合の程度もマジュンガサウルスでは各仙椎の間に縫合線が残っている。
カレトドラコでは腸骨の背側縁がまっすぐである。この形質は派生的なアベリサウルス類、とくにフリレウサウリアのカルノタウルス、アウカサウルス、コレケンにみられる。基盤的なマジュンガサウルスやスコルピオヴェナトルでは、腸骨の背側縁は凸型にカーブしている。面白いことに、まっすぐな背側縁はアルビアンのフランス産のゲヌサウルスにもみられる。
カレトドラコでは第1尾椎の横突起は45°の角度で背側を向いている。これはマジュンガサウルスやアルコヴェナトルのようなマジュンガサウルス亜科のより水平な横突起とは異なり、カルノタウルス、アウカサウルス、ヴィアヴェナトルのようなフリレウサウリアと似ている。
第1尾椎の横突起の形態からも、カレトドラコはフリレウサウリアと考えられる。カレトドラコとフリレウサウリアでは、横突起の遠位端が丸く広がって、三日月形あるいは鎌状となり、はっきりした前方突起anterior projectionをもつ。マジュンガサウルスでは、横突起の遠位端は広がっていない。基盤的なブラキロストラ(エクリクシナトサウルス、イロケレシア、スコルピオヴェナトル)では、遠位端は広がっているが縁はまっすぐか凹型である。カレトドラコの横突起の形は明らかにフリレウサウリアと似ているが、これまでに知られているどの種類とも異なっている。例えばカルノタウルスでは遠位端の後方があまり膨らんでいない。ヴィアヴェナトルでは前方突起がより長く発達している。ということで、カレトドラコは横突起の形から新しい種類と考えられる。
セノマニアンのフランスからのフリレウサウリアであるカレトドラコの発見は、興味深い問題を含んでいる。ヨーロッパのアベリサウルス類としては、これまでマジュンガサウルス亜科(アルコヴェナトル)だけが明確に同定されていた。アルコヴェナトル以外のアベリサウルス類、例えばゲヌサウルスは研究によって様々な系統的位置に置かれてきた。ゲヌサウルスは研究者によってノアサウルス類とされたり、マジュンガサウルス亜科とされたり、マジュンガサウルス亜科より基盤的なアベリサウルス類あるいは最も基盤的なアベリサウルス類とされたりしたが、フリレウサウリアとする研究もある。実際にゲヌサウルスと、カンパニアンのプロヴァンスのla Boucharde産の脛骨は、実はブラキロストラあるいはフリレウサウリアの可能性もある。ゲヌサウルスの腸骨のまっすぐな背側縁以外に、これらの脛骨は脛骨突起cnemial crestの遠位端が下を向いているdownturnedという形質をもつ。これはCanale et al. がブラキロストラの特徴とし、Filippi et al.がフリレウサウリアの特徴とした形質である。
カレトドラコの発見により生物地理学的な問題が持ち上がってくる。これまでのヨーロッパのアベリサウルス類はマジュンガサウルス亜科だったので、インド・マダガスカルからアフリカ大陸を介して分布を広げたと考えられてきた。しかしフリレウサウリアはこれまで南アメリカからしか知られていないので、ヨーロッパに広がるためにはやはりアフリカを介さなければならないが、アフリカからは発見されていないわけである。特筆すべきことに、マーストリヒティアン末のモロッコのSidi Chennane産の脛骨は、下向きの脛骨突起を示す。これが実際にフリレウサウリアであるとすれば、ヨーロッパでの分布について理解しやすくなる。
またカレトドラコの生息年代が古いことも、新たな問題を提起している。南アメリカでは、サントニアンのアルゼンチンのヴィアヴェナトルとルカルカンが、最も古いフリレウサウリアである。セノマニアンのカレトドラコはそれよりも1000万年も古く、さらにもしゲヌサウルスがフリレウサウリアであれば、フリレウサウリアの歴史は前期白亜紀アルビアンまでさかのぼることになる。少数の不完全な化石だけを根拠に、このような古生物地理学的仮説を論じることは控えなければならないが、ヨーロッパのアベリサウルス類の歴史がこれまで想定されていたよりも複雑であることは間違いないとしている。
参考文献
Buffetaut, E.; Tong, H.; Girard, J.; Hoyez, B.; Párraga, J. Caletodraco cottardi: A New Furileusaurian Abelisaurid (Dinosauria: Theropoda) from the Cenomanian Chalk of Normandy (North-Western France). Foss. Stud. 2024, 2, 177–195. https://doi.org/ 10.3390/fossils2030009
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