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昔の写真の中に、懐かしいものが写っている写真を見つけた。20年ほど前の夏に撮影した写真である。写っているのは、その頃乗っていたマツダの白いオープンカーと、当時小学生だった娘の写真である。娘の下には、我が家の愛犬で、旅行にもよく連れて行ったシエットランド・シープ・ドッグのビートンの姿も見える。撮影場所は、信州長野県白馬大町駅近くの、ペンション通りの中の土産物店の向かい側の道端。
車は、当時のマツダの売れ筋車種、ファミリアのオープンタイプであるファミリア・カブリオレと呼称していた車。1600c.c.DOHC16ヴァルブツインカムエンジンを搭載した前輪駆動の車で、オープンにしたために車体補強のために入れた補強材分重くなったであろう車体を、なんのストレスを感じることもなく110馬力で引っ張ってくれる。5速マニュアルで、この前の車がシビック・セダンのオートマチックだったので、いささか取り回しには、最初苦労したが、すぐに慣れてしまった。
当時、マツダは、ユーノスロードスターが発売されたばかりだったが、二人乗りのツーシーターであり、家族向きではなかった。同じ4座の車としては、トヨタのセリカ・コンヴァーティブルがあったが、とても高価だった。どっちにしても、40前のしがないサラリーマンには、おいそれと新車が簡単に買えるわけがなく、中古車を買うしかなかった。
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マツダは、このファミリア・カブリオレを、次のオープンカーの、サンプル・スタデイとして作ったのではないだろうか。幌は、よくある帆布製ではなく、堅牢な合成皮革を使用し、Bピラーの部分には、車体剛性を増すためにゴルフ・カブリオレのように太めのロールバーを立てている。オープン時の盗難予防のためか、グローブボックスは、鍵付きだし、フューエル・オープナーや、トランク・オープナーのレバーは、あえてこの車にはついてない。全部鍵で開ける。オープン時に、折りたたんだ幌を保護するために、幌と同じ材質のトノカバーが付いていた。
オープンにするには、フロントウィンドウの上についている2箇所のフックをはずし、やや硬めの重みのある幌を畳まなければならない。最初は、かなり面倒であるが、慣れれば、2分ほどでできるようになる。今のオープンカーのように、信号待ちの間に手軽に電動でやってしまうというわけにはいかないが、これはこれで、なんだか儀式めいていて、私には楽しかった。
フルオープンにして、高速道路や自動車専用道路を走るときは、メタルの眼鏡はしない方が良い。特に冬や早春には、いくらサイドスクリーンを立てているからといって、ヒーターを最強にしているからといって、顔や頭が受ける風の冷たさは、半端ではない。おまけに、メタルの眼鏡のつるの部分が、耳をちぎらんばかりに冷たくなるのだ。
フルオープンにして、中国自動車道を、100キロほどで走っていたとき、後部座席の、紙製のティッシュボックスと、布製の薄いシートマットを、車外に飛ばしてしまったことがある。幸い、事故には至らなかったが、そういう飛びやすい軽い物を、置かないようにその後は改めた。
夏は、帽子が必需品。夏の日差しは、たとえ高速で風の中を走っていても危険である。もしオープンのままで渋滞に巻き込まれたら、悲惨である。日射病、熱中症の恐怖が、あなたを脅かす。
オープンのままで、巨大なトラックに近づいてはいけない。もちろん、事故の危険もあるが、近づけば、排気ガスを、直接吹きかけられる。オープンカーが近づくと、トラック運転手の中には、からかい半分でわざとアクセルを吹かして、こちらに大量の排気ガスを吹きかける輩もいるのだ。
オープンにして本当に楽しめる季節は、日本では、晩春と初秋、そして、晴れた夏の夜だけ、本当に限られた時期だけである。だが、もしかすると、また乗ってしまうかもしれない。
このファミリア・カブリオレを買おうとしていたとき、マツダのディーラーから、連絡があって実物を見に行った。同行した若い営業マンは、初めて実物を見たと言っていた。それくらい珍しい車だったのだろう。また、後年トヨタのランクルの下取り用として乗っていった時も、トヨタの営業所の人たちに珍しがられた。本当に希少車だったのだ。