笹塚動物病院に着くと少し待たされましたが、その間も院長先生とおぼしき人が「もう少し待っててね」とブナをなでてくれ、看護師さんや待合室にいた年配の飼い主さんも「大人しいねえ。どうしたの?今日は」と口々に声をかけてくれます。
ブナの診察の番になると先生と看護師さんがよく話を聞いてくれ、まず体重を計りました。4月21日に通院したときから2kg減って34kgに。それを先生たちは「よくやりましたね」とちゃんと認めてくれた。
ブナの体重が減ってよかった。r/d の威力、恐るべし。3週間で2kgも体重を減らしたブナに比べ、私ときたら……。私にもr/dが必要だ。
やはり触診や見た目だけでは分かりかねる様子。「前回は四肢しかレントゲンを撮らなかったので、今回は背骨と股関節のレントゲンを撮ろうと思うのですが」と言うのでお願いしました。
ブナがレントゲンを撮っている間、車に待たせているクリを外に出して気分転換をさせ、せっかく来たので口臭がひどいクリの口腔も診察してもらうことにしました。
さて、ブナのレントゲンを見ながら、副院長先生やその日の担当医、看護師さんが何やら話し合っています。呼ばれて診察室へ。
レントゲンを見ながら説明を受けたところ、胸椎(腰椎)にできた骨棘が神経に触って痛むのだと思うとのこと。確かに骨棘が出っ張っている様子が白く薄く写っていました。
おまけに股関節も骨頭がギザギザになっていて、クッションとなる椎間板もすり減っている。
加齢によるものだと言われたけど、ふと「トチもこんなだったのかなあ」と思いました。骨棘ができたら、もう元には戻らないでしょうね。
「これじゃあ痛かったと思うわ。可哀想に、ブナちゃん」と副院長先生。「落ち着くまで痛み止めを飲ませてあげましょうね」。
消炎鎮痛剤と一緒に胃粘膜保護剤も処方してくれ、「帰りの車の中が心配なら、今、飲ませてあげてもいいですよ」と担当の先生。その日も若い美人の感じいい先生でした。
どうなることかと思っていたので、いや~、本当にほっとしました。泣きそうでした。「鎮静剤を打ってぼーっとさせましょうか」などと言われたあとだっただけに、「地獄で仏」という気持ちでした。本当に対応が温かいんだもの。
痛みを訴えるブナを車から降ろして和光の動物病院へ入ると、いつもは研修のために休診が多い金曜日にもかかわらず、運よく先生が在院。
ブナの状態を話すと、「ええ?」といぶかしがりながらも、触診してくれました。別にびっこをひくわけではないので、見た目は普通に見えるブナ。
心音も特に異常なし、背骨を触っても四肢のどこを触っても痛がらない。「ううん、特にこれと言って問題はなさそうですね。どうすることも今はできないなあ」と言われて弱り切る私。
続けて先生が「仕事にならないと言うのであれば、鎮静を打って、しばらくぼーっとさせましょうか。まあ、あまり長くは持たないけれど」と言う。何の原因かも探ることなく、痛み止めを打つでもなく、うるさいからといって鎮静を注射するなど、すごくイヤだと思いました。
「どうしますか?」とせっつくように聞くので、「取りあえず、帰ります。帰って様子を見て、どうしてもやはりおかしいときは6時までに来ます」と言いました。
というのも、そのときまだ4時を回ったばかりで、診療時間は6時までだから、もう一度来院したいと告げたわけです。
そうしたら先生が「今日は母のお見舞いに行くので、5時過ぎにはここを出てしまいますから」と言うではありませんか。
先生のお母さんが脳腫瘍か何かで入院していて、よくお見舞いに行くのだけど、お見舞いに行きたい日は6時ギリギリに通院する患者に苛ついて診療するのですよ。
点滴を思い切り早く落としたり、「もっと早く来てもらわなくては困る」と言ったり。
でも、急病は時間を選ばないでしょ。6時ギリギリに駆け込むこともあるもの。
鎮静剤を注射してぼーっとさせるという発言もイヤだったし、検査もしようとしないのは、先生がお見舞いに行きたくて急いでいるからだというのが分かったので、診察料2100円を支払って病院を出ました。
そして、その足で頑張って笹塚動物病院に向かったのでした。「ブナ、ちょっと我慢してよ」と言いながら、ときどき私の方に飛んで来そうになるブナを制止しつつ、笹塚まで車を走らせました。
なぜ立て続けに本を読了したかというと、連休明けから連日取材が立て込み、ゆうさんとの待ち合わせ場所への電車移動が多かったからです。電車内でいくらでも本が読めたというわけ。
ですが、極めつけは14日。
ブナがまた呼吸が荒く、震えだし、いてもたってもいられんという感じで、仕事中の私に飛びついてくる。片手でさすりながらパソコンを打っていたけれど、どうにもままならなくなりました。
さすっていたり、寄り添っていたりすると少しは落ち着くので、そばにいるしかなくて。そうでもしなければ眠ることもなく、ひたすら訴えてくるのです。
笹塚動物病院の夕方の診察時間に合わせて家を出るまで、仕方なくブナに寄り添って本を読んでいるしかなかったため1冊読了。
で、クリも連れて家を出たのですが、ブナが苦しいのか、運転している私の膝になだれ込んできたのです。
ひえ~!ブナ、危ないよ~! 左手でブナを制止しながらの運転。突発的にしなだれかかられては、危険極まりない。しばらくすると、また同じことをする。
どうしよう。これじゃあ24キロ離れた笹塚病院までたどり着けないよ。
悩んだ末、取りあえず和光の病院で痛み止めだけでももらおう。それでブナが少し落ち着いたら、笹塚まで走ろう。そう思って、和光の病院に進路を変えて、何とか駆け込んだのでした。
読売新聞の書評を読んで、取り寄せた本があります。湯本香樹実さんの『岸辺の旅』。「彼岸から此岸へと夫がたどった道のりをさかのぼって、夫婦が旅する物語」。
書評には「“人が生きた痕跡は、肉体が消えてもそう簡単に消えるものではない”という作者の思いが、確かな存在感を与えている」と書かれていました。
おもしろかった。生の不確かさと死の確からしさが立ち上る作品でした。
で、立て続けにこの湯本さんの著作を読んだのですが、仲良しだったことりの死を受け入れられずに家に閉じこもり、きれいな箱に納めたことりの亡骸を持ち歩くくまの話を描いた『くまとやまねこ』という絵本には泣けた。
銅版画かなあ、黒いザラ紙に白いクレヨンかパステルで描いたのでしょうか、酒井駒子さんの絵がものすごくよい!
モノトーンの世界にくまの哀しみがきっちり描かれている。けれど、最後にくまは輝きを見出します。心に迫る物語でした。
少年たちが一人暮らしのおじいさんの死を見守る『夏の庭』も、亡くなった父にあてて手紙を書き続け、それを配達してくれるというおばあさんとの交流を描いた『ポプラの秋』も、「死」をテーマにしていながら、主人公たちが希望を見出していく最後に、物語全体の深みが感じられ、読後感のしみじみさが増すのでした。
とくに『ポプラの秋』は好きだな~。
この人をひと目見たとき、「逃してなるものか!」と思いました。
ベビーリーフを有機栽培している農園を訪ねたときのことでした。この人はその農園の統括部長なのだけど、農業経験は少ないとのこと。
が、しかし、被写体としてものすごく押し出してくるものがあり、対応に出てきてくれたあと、「これからほかの畑に行かなくてはならない」というのを、「ちょっと待って。写真を取らせてほしい」と何とか引き止め、農園の代表者に承諾を得て、撮影させてもらったのでした。
またいつものドサ回りトリオで取材に行っていたのですが、編集のゆうさんもカメラマンのそうみさんも、ピンと来たものがあったらしく、そうみさんがかように素晴らしい写真を撮ってくれたのです。
なんだろう、オーラがあったというか、何かすごく存在感のある人だった。ほかにもその農園で働いている若者はいたのですが、この人には全然違うものを感じました。
おかげでいいカバー写真が撮れたのだけど、こういう「絵になる人」に出会うことは少ないので、貴重な体験でした。