電車移動中に読む本を切らし、JRと百貨店の通路にある小さな本屋を物色していたら、ふと米原万里さんの文庫本に目がとまった。まだ読んでいなかったので、その『終生ヒトのオスは飼わず』を購入。
私は、米原さんの冷徹な物の見方や批判精神、鋭く切り込む書評、動物をいとおしむ一徹な姿勢、またエッセイでも小説でも、ウイットに富んだ秀逸な落とし込み方ができる筆の力を、自分の目指すところとしてとても愛してきたので、4年前、訃報に接したときには一瞬声をなくし、心底がっかりしたのだった。
56歳、まだまだこれからだったのに。
何冊か続けて米原さんの作品を読み、「ああ、この人の新しい作品はもう読めないのか」と思ったら、胸が苦しくなるほど切なくなった。
そんな思いを引きずっていた頃、またまた哀しい知らせが届いた。11月17日、ノンフィクション作家の黒岩比佐子さんが亡くなったのだ。
私が黒岩さんのことを知ったのは古書関係のメルマガで、ちょうど黒岩さんが「編集者国木田独歩の時代」を上梓した頃だった。私は国木田独歩が好きだったので、すぐその名前を目が捉えたのですね。
作家としてではなく、編集者としての独歩に焦点を当てた黒岩さんに感嘆し、どんな作家なのだろうと関心を持ったのだった。
黒岩さんがサントリー学芸賞に輝いた評伝「『食道楽』の人 村井弦斎」は、明治時代の食品偽装の話などが拾われており、とても興味深かったし、亡くなる直前に刊行された「パンとペン 社会主義者・堺利彦と『売文社』の闘い」は、まだ読んでいないけれど、これまでしてきたような、ていねいな取材(資料収集)と緻密な検証によって、きっと素晴らしいものになっていると思います。
52歳だなんて、人生という舞台から退場するには早すぎる。まだまだこれからだったのに。訃報を聞いて意気消沈してしまった。