抜糸前のカヤの傷跡
カヤの手術から10日目、ぼちぼち抜糸してもよいのではないかと思い、病院に連れて行った。何しろ左側のお乳をすべて切り取って縫い合わせたので傷が長い。鼠径部の縫い跡がつれている感じがするのかカヤが気にして舐めるので、それを避けるためにおむつを多用していたけれど、何とかちゃんと塞がったようで、そこも含めすべて抜糸することができた。
摘出した乳腺腫瘍の病理検査の結果も出ており、幸いにも良性の腫瘍で、鼠径部リンパ節にも腫瘍組織は見られないということだったので、まずはひと安心。右側の乳腺にはまだ小さな腫瘍が点在しているけれど、それは追々様子を見ながら対処することになった。
右目に施したゲンタマイシン注入も効果があったようで、牛眼だった右目の腫れも退き、目が小さくなった。きっと痛みはなくなっただろう。ただ、左目の眼圧が上がってしまい、こちらはしばらく点眼薬でコントロールすることになったのだけど、もし眼圧が下がり切らないようなら、右目と同じ処置を考えなくてはならないと思う。
とにかくカヤが痛みのない平穏な暮らしを送るという、それだけを願っている。
診察室から出ると、待合室にいたコリーを連れた女性がカヤを見て声をかけてきた。以前コッカーを飼っていたという。彼女がカヤに手を差し出したのだけど、カヤが反応しないので私が「両目とも見えないんですよ」というと「うちの子も緑内障になって、失明してしまったのよ」と言う。
その人の飼っていたコッカーは2歳の時に左耳に腫瘍ができて聴力を失い、その腫瘍が右耳にも転移してしまったため、両耳の聴力を失ったそうだ。その後、両目とも緑内障になり、とても痛がったという。5歳の時に両目とも失明し、骨の癌だかで歩けなくなってしまったのだけど、彼女は「それでも11歳まで生きてくれたの」と言いながら、はらはらと涙をこぼした。私が「お世話の仕方が良かったんですね」と言うと、彼女が「この子を見ていると思い出してしまう。懐かしい」と涙も拭かずに言ったので、私もブナやクリのことを思い出し、もらい泣きしそうになってしまった。
新しく犬を迎えても、闘病した犬を看取った痛みは消えることがない。犬たちの世話ができた時間は幸せな時間であったことは確かだけど、闘病を支えた時間は苦しく切ない時間だったことも事実で、ときどきその時の差し迫った思いが蘇ってくる。そう簡単に癒えるものじゃないのですね。
帰り道、聴力も視力も失い、歩くこともできなくなった彼女の愛犬と彼女の日々を思い遣っていたら、壁にぶつかったブナや必死に身を起こそうとしたクリの姿がリアルに思い出され、涙があふれてしかたがなかった。