日曜日、範宙遊泳の新作公演『うまれてないからまだしねない』を観るために、池袋に出かけて行った。私が芝居を観るなんて! 何年ぶり?! 最後に観たのがいつだったかも忘れてしまった。
つい勢いでチケットを予約したはいいが、今日活躍している若者たちのお芝居が、こんな私で分かるのか?と少々不安に思いつつ駅を降りると、スパイシーな香りが漂い、東京芸術劇場手前の広場に人が溢れていた。
よく見るとサリーやクルター・パジャマを来たインド人がわんさかおり、ドンジャラドンジャラ大きな太鼓の音もして、たいそう騒がしい。いきなりニューデリーの町中に来てしまったような感じだった。どうやらインドフェアみたいのをやっているらしかった。
あまりの人の多さとムンムンのインド的雰囲気に気圧されて、一瞬うちに帰りたくなったが、目的を達成せねばと思い、初めて東京芸術劇場に足を踏み入れたのだった。
開場時間になって、シアターイーストの場内に案内されたのだけど、お芝居を観慣れていない私は、どの辺りに座ればよいかも分からず、うろうろしてしまった。すると、少し年配の女性2人が「映画じゃなくて“生”だから前のほうがいいわよ!」と口々に言い合い、のしのしと私を追い越して行った。そうなのか……、“生”だからね。
真正面の席は人で埋まりつつあったので、とりあえずその右側の、何かあった時に逃げやすい(?)通路に面した席に座った。
開演までの30分くらい、私はその席で何度もグラグラ揺れていた。
というのも、私の真横通路の階段の幅と高さが急に変わるらしく、ほとんどの人がそこでつまずいてバタつくからであった。たいていみんな空いている席を目で探しながら階段を下りてくるので、足元を見ていないのだ。
つまずいてバタバタっと音を立てて、転ばぬように体を立て直すので、そのたびに私の椅子は、その振動でものすごく揺れた。こうして私は揺れながら開演を待った。
場内が暗くなり、最初に出て来た男の子がゆっくり舞台(といっても、高さも広さもそれほどなく、手を伸ばせば「すぐそこ」という近さ)を歩きながら、シチュエーション(「ここは某というアパートで」といった)を軽く説明するのだけど、この男の子、実はゴキブリだったのだ。
シュールなシーンもいっぱいで、ワクワクした。説明的でちょっと臭いなと思ったセリフもあったけれど、全体的に詩を観ているようで、とても面白かった。老人が膨らんで風船になって浮かぶという設定なんて、現代社会を象徴していて、怖いくらいステキだった。
文字や映像を組み合わせたお芝居を初めて観た。最初は「へえ~」と思ったけれど、効果的に使われていて、違和感もなく楽しめた気がする。老成した演出家が創ったものではなく、だからといって尖がっているわけではなくて、瑞々しく、さらりと深いところを突いてくるような、冷めた強いエネルギーを感じたお芝居だった。
米国のノンフィクション作家であるレベッカ・ソルニット氏が著した『災害ユートピア』は、
・災害時になぜ人々は無償の行為を行うのか、
・なぜ混乱の最中に人々は秩序立った動きができるのか、
・なぜ災害が起きるとエリートはパニックを起こすのか、
・市民ではなく軍隊や警察官が犯罪行為を犯すのはなぜか、
・地震のあとニカラグアで革命へと突き進んだのはなぜか、
という5つのなぜを明らかにするために、同時多発テロを含むいくつかの災害を詳しく検証した1冊である。
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ちょうどその『災害ユートピア』を読んでいる最中だったので、『うまれてないからまだしねない』で描かれた隕石衝突や大洪水による人々の心理描写などが、余計に興味深く響いた。
演劇というと、声を張って「演技してます」風なイメージだったのだけど(どんな芝居を観てきたんだ?)役者さんたちはいきむことなく、ごくごく自然な演技で、普通に電車の中でしゃべっている若者たちを眺めているような感じだったなあ。不自然な動きがなくて、発声などの基礎をきちんとしてきた人たちなんだろうなと思った。
風船とうさんの娘役の役者さんの声が深くてどっしりとして、よく通るいい声だった。いい味、出してたなあ。
個人的には、最後が少し拍子抜けというか、時間軸を越えて登場してくる夫婦の最後の言葉は必要ないような、スクリーンに映し出された文字だけでいいようにも思ったけれど、全体的にはすっごく面白いお芝居でした。観劇後用事があり、演出家の山本卓卓さんが登場するアフタートークは聞けなかったが、想像していたよりはるかに楽しめた。もう1回観てもいいなあと思うくらいに。
つい勢いでチケットを予約したはいいが、今日活躍している若者たちのお芝居が、こんな私で分かるのか?と少々不安に思いつつ駅を降りると、スパイシーな香りが漂い、東京芸術劇場手前の広場に人が溢れていた。
よく見るとサリーやクルター・パジャマを来たインド人がわんさかおり、ドンジャラドンジャラ大きな太鼓の音もして、たいそう騒がしい。いきなりニューデリーの町中に来てしまったような感じだった。どうやらインドフェアみたいのをやっているらしかった。
あまりの人の多さとムンムンのインド的雰囲気に気圧されて、一瞬うちに帰りたくなったが、目的を達成せねばと思い、初めて東京芸術劇場に足を踏み入れたのだった。
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開場時間になって、シアターイーストの場内に案内されたのだけど、お芝居を観慣れていない私は、どの辺りに座ればよいかも分からず、うろうろしてしまった。すると、少し年配の女性2人が「映画じゃなくて“生”だから前のほうがいいわよ!」と口々に言い合い、のしのしと私を追い越して行った。そうなのか……、“生”だからね。
真正面の席は人で埋まりつつあったので、とりあえずその右側の、何かあった時に逃げやすい(?)通路に面した席に座った。
開演までの30分くらい、私はその席で何度もグラグラ揺れていた。
というのも、私の真横通路の階段の幅と高さが急に変わるらしく、ほとんどの人がそこでつまずいてバタつくからであった。たいていみんな空いている席を目で探しながら階段を下りてくるので、足元を見ていないのだ。
つまずいてバタバタっと音を立てて、転ばぬように体を立て直すので、そのたびに私の椅子は、その振動でものすごく揺れた。こうして私は揺れながら開演を待った。
場内が暗くなり、最初に出て来た男の子がゆっくり舞台(といっても、高さも広さもそれほどなく、手を伸ばせば「すぐそこ」という近さ)を歩きながら、シチュエーション(「ここは某というアパートで」といった)を軽く説明するのだけど、この男の子、実はゴキブリだったのだ。
シュールなシーンもいっぱいで、ワクワクした。説明的でちょっと臭いなと思ったセリフもあったけれど、全体的に詩を観ているようで、とても面白かった。老人が膨らんで風船になって浮かぶという設定なんて、現代社会を象徴していて、怖いくらいステキだった。
文字や映像を組み合わせたお芝居を初めて観た。最初は「へえ~」と思ったけれど、効果的に使われていて、違和感もなく楽しめた気がする。老成した演出家が創ったものではなく、だからといって尖がっているわけではなくて、瑞々しく、さらりと深いところを突いてくるような、冷めた強いエネルギーを感じたお芝居だった。
米国のノンフィクション作家であるレベッカ・ソルニット氏が著した『災害ユートピア』は、
・災害時になぜ人々は無償の行為を行うのか、
・なぜ混乱の最中に人々は秩序立った動きができるのか、
・なぜ災害が起きるとエリートはパニックを起こすのか、
・市民ではなく軍隊や警察官が犯罪行為を犯すのはなぜか、
・地震のあとニカラグアで革命へと突き進んだのはなぜか、
という5つのなぜを明らかにするために、同時多発テロを含むいくつかの災害を詳しく検証した1冊である。
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『災害ユートピア』
なぜそのとき特別な共同体が立ち上るのか
レベッカ・ソルニット(著)・高月園子(翻訳)
亜紀書房(2010年)/2,500円+税
なぜそのとき特別な共同体が立ち上るのか
レベッカ・ソルニット(著)・高月園子(翻訳)
亜紀書房(2010年)/2,500円+税
ちょうどその『災害ユートピア』を読んでいる最中だったので、『うまれてないからまだしねない』で描かれた隕石衝突や大洪水による人々の心理描写などが、余計に興味深く響いた。
演劇というと、声を張って「演技してます」風なイメージだったのだけど(どんな芝居を観てきたんだ?)役者さんたちはいきむことなく、ごくごく自然な演技で、普通に電車の中でしゃべっている若者たちを眺めているような感じだったなあ。不自然な動きがなくて、発声などの基礎をきちんとしてきた人たちなんだろうなと思った。
風船とうさんの娘役の役者さんの声が深くてどっしりとして、よく通るいい声だった。いい味、出してたなあ。
個人的には、最後が少し拍子抜けというか、時間軸を越えて登場してくる夫婦の最後の言葉は必要ないような、スクリーンに映し出された文字だけでいいようにも思ったけれど、全体的にはすっごく面白いお芝居でした。観劇後用事があり、演出家の山本卓卓さんが登場するアフタートークは聞けなかったが、想像していたよりはるかに楽しめた。もう1回観てもいいなあと思うくらいに。
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