昨日の続きです。
2 スペインの市場で(山本雅一)
曲のタイトルを見てすぐに英語タイトルも見ます。At a Market in Spainだと思ったら、なんと、In a Spanish Marketでした。このタイトルをみてすぐに思うのは、ケテルビー作曲の『
ペルシャの市場にて』です。こちらは『・・・にて』ということですので、ペルシャの市場で見たり聞いたりした思い出を描写したのだろうということが推測できますが、こちらは『スペインの市場で』です。微妙に表現が違います。スペインの市場で何があったのか気になります。演奏する我々がイメージしたり想像すればよいのかもしれません。いずれにしてもペルシャの市場とスペインの市場では、行ったことはもちろんありませんが、あるものが随分違うのではないでしょうか?この曲を演奏するもう一つの楽しみかもしれません。
何でもそうですが、前提として知っている知識や曲があることは容易に想像できますので、素人の私でも頭の中には、先ほどの『ペルシャ』以外にも、いくつか曲が思い浮かびます。中学生ではなかなか知らない曲もあろうかと思いますので、ぜひ一度聞いてみてほしいと思います。
バレエ音楽『
三角帽子』(ファリャ)『序奏』『粉屋の女房の踊り』『終幕の踊り』は吹奏楽でもよく演奏される曲です。最初と、中盤のホルンソロからイングリッシュホルンからの音楽、後半を聴いてくださいね。はい、そうです、芸能人格付けチェックの曲です。
狂詩曲
スペイン(シャブリエ)小学校の音楽鑑賞教材だった記憶があります。NHKの名曲アルバムでもよく聞きますね。
スペイン狂詩曲(ラヴェル) 吹奏楽コンクールでも有名すぎる曲です。後半5分でいいので聞いてください。
歌劇『カルメン』より
ハバネラ こちらも有名すぎるシーンです。高校の時に鑑賞で見ました。
さて、曲のほうに入ります。小編成用ということでダブルリードやコントラバスはオプションです。スコアを見ると1のマーチとはうって変わって音数は多くないというか、休符が目立ち、短い音がたくさんあります。リズミカルな曲ということがわかります。グロッケンのアルペジオ、木管群のトリルと16分音符が鳥の声よろしく、朝の景色でしょうか?ホルンサックスの威勢の良い掛け声のような歌が始まり、マーケットが開きます。曲の実質のスタートはAの4小節前です。その前に9小節目の3/8を指揮するのは難しいですね。この曲は大人に負担がかかります(笑)
Aの第一テーマですが、楽譜の拍子は3/4ですが、どうしてもハチロクで振りたくなってしまいました。参考DVD指揮者編を見たことがないのでわかりませんが、演奏者の個性はここでも発揮されるでしょう。中学、高校の団体では先生方の音楽表現が楽しめるかもしれません。速いテンポでハチロクで演奏すると、マスネの
ル・シッドのイメージです。バレエ音楽ですね。
曲想に意識が行ってしまうのは当然ですが、演奏上の注意もいくつかありました。低音群のリズムはギクシャクしないように、短い音を正確に演奏するには十分な練習が必要でした。オプションとはいえ、コントラバスの役割が重要です。マリンバなどを差してくれてあったらいいのですが、小編成ということで致し方ありません。また、ホルンの持続音(Aの1小節前から!)とトロンボーンの和声が曲の雰囲気を作ります。伸ばすだけの音型ですが、単に伸ばしのではなく、楽譜に書かれていない強弱やスピード感をしっかりと演奏者たちの間で共有して演奏したいところです。
Bはそのままハチロクになります。慣れないと数えられない生徒や、指揮も一定のテンポで拍子を変えることが難しいと思いました。メトロノームでカチカチ鳴らして三拍子を鳴らしての二拍子、二拍子を鳴らしての二拍三連の手の運動の練習も必要です。先生も頑張ります。
単に手を動かすだけでなく、寄せ波、引き波、前進、後退のように音楽のベクトルも共有したいところです。僕は33小節から三拍子で振ることを考えています。この個所をハチロクで考えるとリズムを読むのがタイの関係ですごく難しいのですが、ようは付点の三拍子ですし、34小節目も二拍目でタタタンよりも2の裏でタタタンッ!!と緊張した鋭いリズムが生まれると思います。ここも指揮者、団体の個性が出る場所だと思います。このほうが、Cの前からの三拍子に移るのも楽だと思います。僕にとっては、ハチロクを二拍子で振って4分の3に振り変えるには難しく、ホルンが2拍目に出やすい指揮ができませんでした(泣)
Cは再現部です。カスタネットの登場!張り切って、日本一のカスタネットマン(ガール)を目指してください!テーブルタイプでないほうがイイと思います。ホルントランペットの合いの手も新しい動きです。四分音符の連打で音楽が高揚し、休符に打楽器が入りジャン!
実際の演奏上の問題は音量が大きい楽器の後でクラリネットとフルートがフォルテで盛り上げるので、ダイナミクスの演奏計画は十分検討しないと、書いてある通りに聞こえない箇所でもあると思います。特に小編成ということで、クラリネット、フルートに人数がいないわけですから、ここは合奏力の見せ所です。
Dに入ります。ホルンのフェルマータはどの程度が良いのでしょうか?みんなでいくつかやってみて、録音等でちょうどよい加減を探してみるとよいでしょう。そしてDは音楽の雰囲気をつかむのが中学生には難しい場所ですね。D-Fis-Cの和音の響きを大切に。2小節目でrit.ですが、動きはグロッケンのみ。もはや表情ですね。そして元のテンポは当然Dのテンポのことでしょう。フルート2nd、Fです。注意しましょう。こういうのなんていうんでしたっけ??
また、指揮も三拍子、二拍子、三拍子と指揮者は覚えにくい場所です。響きは増4度、悪魔の何チャラ?そしてまたもやグロッケンのみのrit.からのmolt rit.でハバネロ?ハバネラです。スコアの解説では「未知の土地を探索するようミステリアスに」とのことです。いったいスペインの市場で何があったのでしょう?ドコに入り込んだのでしょうか?
E、Fはスペイン舞曲のハバネラです。当然カルメンが前提でしょう。「私の名前は、カルメンです!」とは随分違います(笑)
転調し、フラットが4つ、ヘ短調=変イ長調でしょうか。もの憂い感じの場面、トリルにも演出が必要でしょう。曲想は違いますが、吹奏楽オタクの私にはリード作曲の
第二組曲タンゴの匂いがします。Gの3小節前のクラリネット、ソロではないのでしょうが、小編成では自動的にソロになりますね。聞こえる工夫が必要です。
Gも演奏が不安定になりやすい箇所です。mpであっても弱々しくならないように、言葉はハッキリ、和音もパチッと決めましょう。しかしここを成功すれば、ここは50人でも12人でも差が出ないし、むしろ小編成が有利に働く場所です。他の団体に差をつけたい団体にはオススメと思います。
Tempo Iで打楽器のソロになります。この構成は同じくリード作曲のエルカミーノレアル(リンク貼りません)と同じです。一夜明けて再びマーケットでは・・・という感じでしょうか。タンバリンのロール(振る、親指、中指、スティックでSDのように)は様々な奏法を工夫してみましょう。楽器選びも大切です。
マーケットの同じ場所に戻ってきたのですから、HはBと同じでいいのですが、これをソフトでコピペをしたのか、手書きしたのかは、もはや誰にもわかりません(笑)110からのリズムやテンポ設定を許される範囲で工夫して、Hがマンネリ化しないように。。。←バシッ!
Iの前は3/4でも良いとスコアの解説の書かれています。なるほど、Iからの三拍子はこのほうが指揮がやりやすいし、演奏者も安心します。また、cresc.もありますし、ヘミオラで大きな3/2でスケールの大きい音楽を作るなど、ここでも指揮者、演奏者の個性が出ると思います。
主旋律はクラリネット、サックス、ユーフォニウムです。明らかに弦楽器のイメージです。ビブラートの掛けられる楽器は積極的に、クラリネットは心のビブラートを。対旋律のフルートもただ伸ばすのではなく、表情豊かに演奏しましょう。トランペット、ホルンを中心に、曲の冒頭の掛け声が入ります。音楽がクライマックスで盛り上がります。指ロールではタンバリンの音量負けすると思います。工夫しましょう。ティンパニ一人が蚊帳の外・・・残念!
Jでお祭りは最高潮でしょうか。しかしこの時間が長く続かないのが、この曲の満腹感を満たしてくれない理由の一つかもしれません。その分、音楽の構成や場面の表情、和声にこだわることで大編成に負けない演奏ができることでしょう。おっと、メノモッソの前のrit.これは難しい。本当にこの曲は指揮者の役割が重要です。結局音のないところでrit.ですから8分音符で表現することになります。テヌートの長さで調節していくわけですが、合奏力がここでも試されそうです。音はオーギュメント。メノモッソはまさに『祭りのあと』
Kから終止部に突入、最後まで一気にアニマートです。やはり金管の4分音符打ち込みのあと木管の打ち込みになるので、ここも小編成では人数配分が木管:金管=3:1にできないという、不利な点をどう克服するかがポイント。せっかくここまで音楽を突き詰めてもこのバランスで一気に壊れてしまう可能性があります。1stクラだけでも上に上がるとか、せめてここからEsクラは刺さっていればと思うのは、経験値からそう思います。規定違反です。
Lは冒頭と同じモチーフで華やかに書かれています。スタートとエンディングに一貫性を感じた上で、華やかに演奏しましょう。最後のスフォルツァンドは、各音の長さのバランスをしっかり取りましょう。1stクラのAが飛び出るとマヌケになってしまいます。グロッケンとシロフォンの配置も工夫しないと、移動が間に合わないかもしれません。マレットを変える暇はあるでしょうか?現場的発想ですいません。
この曲は、上に何度も書いた通り、小編成の特性を生かした演奏ができそうです。人数が少なくても、一人1パートで、個々がしっかり演奏でき、自発的かつお互いにアイデアを共有し、演奏者と指揮者が一体となった合奏ができれば、素敵な演奏になるのではないかと思います。小編成というと中高生の印象ですが、ぜひ30人程度の大人のバンドに演奏してほしい曲であります。