VOL2 わ・た・し流

おとぼけな私ですが 好きな本のことや 日常のなにげない事等 また 日々感じたことも書いていきます。

桃花徒然 その95

2023-03-01 00:23:48 | 永遠の桃花

枕上書 番外編より

 

目を覚ました鳳九は  そこが碧海蒼霊ではなく、

太晨宮の八葉殿である事に気が付いた。

ゆっくりと身体を起こしてベッドに座る。

ナイトテーブルの上に置かれた 陶器の子狐が

目に入った。

この子狐は  ビョウラクとの戦いのあとに

昏睡状態だった鳳九が  目覚めた時、これを見たら

歓ぶに違いない  と考えた帝君が

鳳九の為に作ったものだった。

 

鳳九は少し頭が混乱したが、すぐに

ああ、自分は戻って来たのだ、と思った。

ここは26万年後の太晨宮だ・・・

祖てい神は 機縁が来れば ゴンゴンと共に

戻って来れると言っていた。

 

こめかみを揉んで 詳しく思い出そうとしてみる。

直前まで・・・自分は寿華野の水沼澤学宮にいた・・

帝君と一緒に・・・

すると  あの箱・・鳬麗之玉で作られた・・

あれが「機縁」だった?

鳳九はベッドの淵に腰掛けて じっくり思い出してみる。

おそらく  そうに違いない・・・

 

A上神が  三代目神王の座についた翌月の事、帝君は

水沼澤に行こうとしていた。A上神が 水沼澤を私物化

することを思いつく前に、「あるもの」を取り出そう

と 考えての事だった。

 

帝君は  普段 政を真面目に論ずる事はしない質だが、

鳳九が尋ねると 必ず丁寧に答えた。

彼女が理解できていないと感じると、理解出来るまで

詳しく丁寧に説明するのだった。

しかし、帝君は本来 相手が物事の理解に疎い人物だと

判断すると その相手とは  話す事さえ面倒に思う

タイプなのだ。

従者は  帝君に仕えて十万年ほど経つが  誰かに対して

こんなに忍耐強い態度を取る帝君を 初めてみたので、

鳳九にそう言った。

・・・真面目な従者は 鳳九を喜ばそうと思って・・

帝君にとって 貴女は特別です  と言いたくて・・

そう言っただけだったけれど、彼はそうとは気づかず

鳳九を「聡明」でない部類であると 暗に言った事に

なってしまった・・・

帝后は もしかしたら  確かにぼんやりした人物だった

のかもしれない・・・従者のいう事に特にそういった

反応はしなかった。

けれど、その言葉は 丁度 通りかかった帝君に聞かれて

しまった。

帝君は  従者に「跟折顔上神学習説話之道」(折顔上神と

共に 会話の道を勉強しよう)を取り出して与え、

それを 罰として、三十回書き写すよう命じた。

ところで、その本は・・・

折顔上神が碧海蒼霊を初めて訪れた時の事。 

自分の人生を疑ってしまうほどの「帝君の毒舌」の

洗礼を受けたのち、帝君に贈呈した本だった。

その本がまさか、このような使われ方をしようとは

当の折顔上神には想像もつかなかっただろう・・・

 

帝君が鳳九に説明した 水沼澤に行く理由、持ち出し

たい物とは、少かん神の「陣法図」であった。

帝君の考えでは、自分の「乾元陣」を唯一破る事が

出来る陣法が 少かんが密かに書いていた「芥子須弥陣」

なのだ。

この陣法図の存在を知る者は この世で三人しかいない。

一人は帝君、そして少かん、残る一人は その図面を

保管している墨淵。

実は、先の戦いでB上神達に渡した陣法図を破れる

ヒントも全く用を為さないものではなかった。

三十六か所あるポイントを順番に修正していけば

陣を抑える事ができる物だった。

それでも、少かんの陣法図には及ばない。

芥子須弥陣は  須弥の中に芥子有り。芥子の中に

須弥を含む。大の中に小有り、小の中に大有り。

少数で多勢を抑え込む事が出来る「柔良く剛を制す」

絶対的勢力をほこる乾元陣を 少数で抑え込める

唯一の法陣だった。

鳳九は年は若くとも、青丘の女帝である。決して

いつも ぼんやりしているわけではない。

帝君の説明をきちんと理解する事ができた。

鳳九が習った授業では、この三千年後に再び大戦が

起きるが、史籍に書かれているのは

再びの大戦を見かねた帝君が返り咲いて 五族を

統括したとあるのみ。

実際には すでに帝君は 先を読んで 手を打っていた

のだ。