枕上書 番外編より
帝君が 芥子須弥陣の陣法図を手に入れようと
しているのは、既に必ず魔族が反乱を起こすと
先読みしているからにほかならない。
鳳九は 史籍に書かれていた事に思いを巡らせる。
他に 何が書いてあった・・・?
あぁ、そうだ A上神が三代目神王になった後
魔族 妖族 鬼族とも乾元大陣に恐れをなし
一様に服従したので、五族混戦以降
四海八荒にあって、最も長い平和な時期となった。
四族生霊たちは 三千年の休息を得た。
しかし、三千年後 紺の魔君が 乾元の陣を破る
事に成功し 神族の軍は常勝不敗ではなくなった。
紺の魔君は ついでに「章尾之盟」を破り、魔族
七君の同盟を結んで 神族に宣戦布告した。
こうして 再び戦いの幕があき ハ荒は大きく
乱れた・・・
鳳九は この史実を従者に語った。
「帝君は 天下を取りたい人ではないけれど、
魔族が盟約を破ったために ハ荒の平和が大きく
乱れてしまった上、A上神には この局面を収める
力がなかったのよ。慈悲深い帝君はこの状況を
見かねて 再び碧海蒼霊から出て、神族の軍、
七十二戦将と百万の軍勢 を率いて 順番に
魔族をかたずけてしまった、と書いてあったわ」
「だけど 帝君は最初からこうなると予測していて
すでに戦いを率いるつもりだったのではない
かしら?だからもう その準備を始めているのでは?
そうでしょう?」
従者は 帝君が最も信頼する筆頭従者だけあって
碧海蒼霊の内政 外政を一手に引き受けていたので
すべてを知っていた。
帝君の心積もりを 鳳九が気付くのは 勿論
帝君が包み隠さず説明をして来ているから
なのだろうが、鳳九がこれほどよく気付き
気遣う事がとても嬉しかった。
従者は更に 自分の知っている事を鳳九に語った。
「魔族は元々陣法に長けています。帝君がB上神勢力に
わざと渡した破陣雛形図面を見ていれば
いかに愚鈍な者でも、 三千年も研究すれば破陣の
方法を正確に導きだす事ができるでしょう」
「あ、いえ 破陣雛形図がなかったとしても
魔族は 乾元の陣を破る事はできたはずです。
ただ 何年かかるかが分からないというだけで」
「神族の最大の敵は 本当はずっと 魔族でした。
一旦 魔族が 乾元の陣を破れば 戦争になるのは
必然の事。帝君は最初からこの事は
当然予測していたでしょう」
鳳九は感慨深そうに頷いた。
従者「この四海八荒にあって 主となれる方は
帝君しかおりません。しかし、A上神と長老たち
にはそれが分からない。帝君を出し抜けば
神王の座に居座る事ができると思っていた。
彼らが分からないのなら、これを機に
分からせれば良い。というのが いつもの帝君の
やり方でしょう」
鳳九はしばしの沈黙の後
「帝君は囲碁が好きだとは知っているけど、
天地ハ荒を碁盤に見立てるとは・・・
帝君はこんなにも奉仕精神を持っている人
だったかしら?」