ライブ・オン・ターフ。

再会。

人事異動で。

新入社員の頃、初めての部署で唯一の同い年の同期。
昔よく二人で先頭に立って、年下連中を引き連れて遊びに行ったものだ。
ただ今回名古屋に帰ってきた彼の立場は、自分から見れば上司の上司のそれまた上司くらいの役職。
直属ではないので特別やりにくいことはないが、それでも心情的には少々複雑だ。
社内でバッタリ会って「よう！」と声をかけると、一瞬驚いた様子で「おお！」と返ってきた。
彼も自分も愛知が地元。
かつてこちらで３年くらい一緒にいただろうか、彼の結婚式にも出てスピーチをしたりもした。
そのとき彼の母に初めて会ったのだが、もうその頃ずいぶん身体は悪かったらしい。
「こっちから離れられない」みたいなことをよく言っていた。
今思えば、自分が仕事に遊びに若さをただ謳歌していた頃、彼にとっては大変な時期だったに違いない。
やがて彼の母が亡くなったことを知った。
それからしばらくして、自分の方が先に関東へ異動、本社に近づいた。
携帯などまだ無かった時代。
連絡も少しずつ減り、お互い忙しい毎日に会うこともなくなった。




彼もあれから東京へ進出した。
最後に会ったのは１０年程前で、東京だった。
まさに、人間万事塞翁が馬。
今やこの自分が、難病を患った母のために先に名古屋に帰らざるを得なくなった。
早いもので、もう４年半になる。
会社も苦しくなって、地方にいること以上に立場は微妙だ。
逆に彼にとっては今回、故郷に錦を飾るような凱旋。
人生は本当にわからない。
まあ、元々彼には人をまとめる才があったのも事実であるし、嫉ましい気持ちなどは更々ない。
むしろ厳しい状況の会社のために頑張ってもらいたいと思っている。
自分も少しずつ毎日に閉塞感を感じていた頃で、母の病気は何かを変えるには自分にとって丁度良いタイミングだったようにも思う。
さすがにそれを上司に伝える時には、少しばかり悩んだが・・・。
もしかしてあの頃、自分が彼女を手に入れていたら、違う答えを選んでいたかも知れない。
・・・でも、もう済んだこと。
あの選択は正かったのか、今さら考えることもない。




思えば、これはどこかのドラマや映画にあるようなシチュエーションだ。
もしこれがドラマなら、主役はどちらなのだろうか。
そんな馬鹿なことを考える。
でもよくよく考えれば、あちらの方がよくある人生のシチュエーションを真似て作っているのだろうから、そんなことを考えている自分に少し笑える。
きっとエンドロールは、まだまだ先。
ずっと先。
そうだろ？




懐かしい思いに駆られ、古い棚を漁っていたら、新入社員の頃に会社からもらった社内報を見つけた。
彼の自己紹介欄の趣味のところには「ライブ・オン・ターフ」と記されていた。
そういえば、昔ＪＲＡにそんなキャッチコピーがあった。
そうだ、自分を競馬に引き込んだのは、まぎれもなく彼だった。




社内では気安く話せない。
今度、外で話でもしよう。






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