つらねのため息

写真や少し長い文章を掲載していく予定。

日本将棋連盟のガバナンス

2011-08-22 00:00:00 | 将棋
日本将棋連盟会長、米長邦雄氏のウェブサイトによると、名人戦の契約をめぐって、将棋連盟は何かをしようとしているようだ。前回の契約の際に、散々もめたことは記憶に新しい。今回はスポンサーの新聞社も、ファンも素直に熱戦を期待できるような結果となることを期待したい。

そのためにも、色々と気になるところはあるのだが、一番気になるのは日本将棋連盟のガバナンスだ。米長会長のサイト内「まじめな私」というページ内の「フル回転(2011.8.13記)」という記事に、「私の決意は固まっていて、棋士個々に伝えております」という件がある。

言うまでもなく日本将棋連盟は公益社団法人という法人だ。社団法人の最高意思決定機関は社員総会(棋士総会)であり、通常の運営は理事会の決議にもとづいて行われるはずだ。上記の件を素直に読めば、そういった手続きをすっ飛ばして、会長の「決意」を「棋士個々」に伝えるのみで名人戦の契約という最も重要な問題の一つを進めようとしているような印象を受けざるを得ない。

ただ、同サイト内の「将棋の話」というページの「名人戦契約(2011.8.21記)」という記事には「名人戦契約の年。「全てを私たちに任せてもらえますか」これが理事会の置かれた立場です」という件があるので、理事会レベルでの意思決定はしているのかもしれない。

いずれにせよ、「棋士個々人と会話」ではなくきちんとした組織的な意思決定にもとづいて、組織運営が行われることを望む。

※9月4日追記
米長会長のウェブ日記「さわやか日記」の 8月26日付の記事、「契約」によると同日に「緊急月例報告会」が行われたとある。そこで「東西とも『理事会に一任』で拍手」をしたとのこと。この会合が何の会合かはこの記事からは定かではないが、「将棋連盟モバイル」の同日の中継では「棋士会」の緊急月例報告会が行われて、対局が中断した旨のコメントがあった。

例え両者の構成員が重なるといっても、「棋士会」の「緊急月例報告会」で日本将棋連盟の理事会への一任が決議されるのはおかしい。それでは「理事会に一任」という決議の正当性が全くない。やはり、公益社団法人日本将棋連盟の社員総会たる棋士総会を開いて、「理事会一任」をとりつけるべきだと思う。

応援しています、毎日新聞

2011-01-06 22:35:00 | 将棋
日本将棋連盟のホームページから順位戦と王将戦の中継サイトへのリンクが削除されているようだ。

現在までのところ、連盟からの説明がないので、なぜこのようなことになっているのかわからない。

何らかの技術的な問題なのかもしれないし、あるいは現在日本将棋連盟が進めている公益法人化との関係があるのかもしれない。

ここ数年、両棋戦を主催する毎日新聞に対して、将棋連盟はあまり良い姿勢をとってはこなかったようなので、それが関係しているのかもしれない。

いずれにせよ、詳しいことはわからないが、王将戦が今週末に始まるという時期でのこの対応はいささか不可解ではある。

ただ、日本将棋連盟をいたずらに批判して、将棋界がごたごたしているかのような印象のみをまき散らすのは私の本意でもない。

だから、私はこう言いたい。

1将棋ファンとして、いままでの連盟の姿勢にもかかわらず、順位戦を朝日新聞と共催という形で主催したうえで、王将戦を維持してくれているのみならず、良質なインターネット中継を提供していただいている毎日新聞に対して心よりの感謝の意を表します。

今後も、毎日新聞社が主催する棋戦には、ぜひ応援させてください。

また、もし毎日新聞社が将棋から撤退するような事態に至ったとしても、毎日新聞を引き続き応援します。たとえそのような事態になっても、非は毎日新聞にはないと思います。

応援しています、毎日新聞。

日本将棋連盟の公益法人化に思う

2010-11-23 00:49:00 | 将棋
この問題については以前にも少し書いたのだけれど、ちょっと前にツイッターでもつぶやいたので、そのまとめついでに少し書いてみたい。

まず、日本将棋連盟の臨時総会が開かれて、一部女流棋士の正会員への加入、外部理事の招聘などを含む、公益法人化に向けた定款の変更がおこなわれた。

んで、それについての連盟HPの記事がこちら

最初に少し確認をしておくと公益社団(あるいは財団)法人というのは2つの尺度から条件づけられている存在だと思う。
ひとつは非営利であること。金儲けをするのであれば株式会社などにすればいいのであって、そうではなく、わざわざ社団法人、財団法人という組織形態を選択するのは、営利を目的としないからだろう。

もうひとつは公益に資すること。これは難しいけれども、どうやら不特定多数の人の利益になるような活動をすることというのが、法的かつ一般的な理解のようだ。

要するに金儲けを目的にしてはいけないし、特定の人たちだけのための活動をしていてはいけませんよということだ。

ちなみに、現在の将棋連盟の組織を見ていると、正会員を事実上、四段以上の棋士に限っていて、その特定の人たちのためだけに活動している様に見えてしまうから、これをなんとかしないと公益法人になれない可能性がある。

報道されている内容を見る限り、連盟はどうやらその根幹部分には手をつけないようだ。確かに将棋という伝統文化の普及を図るというのは不特定多数の人の利益にかなう目的だから、その部分を押し出していけば大丈夫なようにも見える。

でもそれはやっぱり原理的には変じゃないの?だったら公益法人じゃない組織形態を目指した方がいいんじゃないの?ということで書いたのが前回の記事だったわけだ。

ただ、一方で、原理原則に基づいて公益法人化を進めるという手もあると思う。それは女流も含めた棋士を全員連盟の職員という扱いにすることだ。

そうすれば男女の立場などの差の問題は解決するはず。どのようにランク付けするかはわからないけど、それぞれのクラスや段位に応じて給料を決めればいいだけなので。

ちなみに、公益法人の会員に利益を分配することは禁じられている。というのも、これは原理的に株式会社の配当と同じだから。営利でやっているのと何にも変わらなくなってしまう。連盟が給料を廃止するのもこの会員への利益分配に当たる可能性があるからだ。

しかし、会員ではなく、職員にしてしまえば会員に対する利益配分にもならないので、給料制を維持できる。将棋の普及のために棋士を雇うことは必要なことだしちょうどいいではないか。イメージとしては美術館に学芸員さんが雇われている感じ。

じゃあ、会員は誰がなるのといえばファンなど将棋を普及したいと思っている人のうち一定以上の金額(会費)をおさめた人がなればいい。本来、社団法人というのは特定の目的のために意思を持った人が集まるのだから、それがあるべき姿だ。能力によって会員になれるかどうかを決めるのは原理的にはおかしい。

ちなみに、その場合でも理事などは一部棋士が続けたって問題はない(理事は全て会員である必要はない)。

ちなみに、社団法人は(一株一票ではなく)一人一票なので、沢山お金を出した企業に牛耳られるようなこともない。

ファンが少しずつお金を出し合って、その競技の組織を運営するって結構素敵なことだと思うんだけど、どうでしょう?

日本将棋連盟は社団法人たり得るか

2010-10-07 16:01:00 | 将棋
日本将棋連盟は、現在社団法人である。ところが、2008年12月から新しい公益法人制度がスタートし、すべての社団法人・財団法人は、一般社団・財団法人となり、その上で新たに公益認定を受けることになる。

問題は日本将棋連盟が、この公益法人にふさわしいかどうかである。私はこれは非常に難しい問題をはらんでいると考えている。

少し原理的に考えてみよう。社団法人というのは一定の目的を持って、構成員が集まった団体である。この場合、構成員は何らかの社会的な目的を持って集まるのであって、自分たちの利益を目的として集まるわけではない。たとえば自分たちの利益を目指すのであれば、お金を出しあって株式会社をつくり、営利事業を行った上で、利益を分配するということが考えられる。また、現在日本で法人格は認められていないが、働く者同士が共同で出資して、それぞれが事業主として対等に働く労働者協同組合(ワーカーズ・コレクティヴ)というような形式もある。

事実連盟の定款(PDF)では第3条で

本連盟は日本将棋の普及発展を図り、我が国の文化の向上に資するとともに、日本将棋を通じて諸外国との交流親善を図り、もって人類文化の向上発展に寄与することを目的とする。

と謳っていて、これが目的のはずである。

しかし、現実には連盟は会員である棋士の互助組織となっていないだろうか。すなわち将棋についてのさまざまな事業を行い、それによって得られた収益を棋士に分配するという機能が大きくなっているのではないだろうか。もちろん、将棋関連の事業を行うことは将棋の「普及発展を図」ることにもつながる。しかし、そうであれば、棋戦を開催したり、将棋イベントを開催することは何よりも、普及が目的であって、棋士はそのための手段でなくてはならない。たとえば美術館に学芸員がいるように、将棋連盟に棋士がいるというのが、公益法人のあるべき姿ではないだろうか。

ところが、この間の名人戦移管問題や女流独立問題、あるいは郷田九段の寝坊事件など、見えてきたのは棋士の互助組織として連盟の姿であり、言ってしまえば普及という本来の目的の軽視ではないだろうか。

そのような組織は公益法人というよりも、上に上げたワーカーズ・コレクティヴのような組織形態のほうが現実にあっているのではないかと私は考える。

実際、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律では第5条に公益認定の基準が挙げられているが、そのうちの第3項で

その事業を行うに当たり、社員、評議員、理事、監事、使用人その他の政令で定める当該法人の関係者に対し特別の利益を与えないものであること。

とされている。もちろん、現在の連盟のシステムが棋士に「特別の利益」を与えるものであるとは直ちにはいえない。ただ、そういう組織が社団法人としてやっていくのは、原理としては無理があるのではないだろうか。現在の三段リーグを突破したものだけが、正会員として認められ、その人たちだけが連盟の事業に携わることができるというのは社団法人としてはいかがなものなんだろうか。

激闘

2010-03-30 22:58:00 | 将棋
第35期棋王戦第5局は、久保棋王の勝利となり、3勝2敗で2連覇、王将位とあわせて二冠を堅持した。

こう書くと、実にあっさりとし感じだが、この第5局は、実にすばらしい名局であった。素人目には詳しいことはわからないが、終盤の難しいところで形勢は二転三転した様子。

恐らく善い手も悪い手もあったのであろう。しかし、善悪を超えたところにある人と人との闘いとはこういうものなのだということを見せつけられた思いだ。年度最後の大一番にふさわしい激闘といえよう。

これぞまさに観戦に値する将棋、プロの将棋である。素晴らしい将棋を見せていただいた二人に感謝したい。

がっくりと肩を落とした佐藤九段の姿が本局の壮絶さを物語っている。