つらねのため息

写真や少し長い文章を掲載していく予定。

赤穂騒擾事件にエネルギーの自治を学ぶ

2014-02-21 01:08:00 | エネルギー
太野祺郎『百年の燈火―信州伊那谷より南三陸へ』(2013年、展望社)

赤穂騒擾事件をご存じだろうか。明治44年、長野県上伊那郡赤穂(あかほ)村(現駒ヶ根市)で村営電気事業の構想が持ち上がった。当時の電燈会社に公益企業という認識は乏しく、採算の見込めない場所への電力は供給されない。そこで地元で水力発電を起こし、その電力をもって村内全戸に遍く電燈を点けようと当時の村長は考えた。また、それによって生じる電気代収入を村財政に繰り入れ活用することも考えられた。
 しかし、上下伊那郡を供給区域に繰り入れようとする長野電燈会社は、当時の政府与党立憲政友会とのつながりも利用してこの動きを封じにかかる。赤穂村の電燈事業村営の出願は却下され、先願の長野電燈会社に電燈事業の許可が下りた。
 村民はあくまで村営を実現すべく長野電燈不点火を決議していたが、一部の者が村民一致の結束を破って電燈会社から電気を引いてしまった。村民は電燈会社になびいた者を裏切り者とみなし、大正2年8月1日、その住宅を損壊し、主導したものの家に放火してしまう。警官が出動し抜剣して威圧にかかったが、逆に民衆に警察署まで押し戻され警察署のガラス戸も投石を受けて破壊された。結果的に多数の村人が有罪となったこの事件を、赤穂騒擾事件という。

本書はこの赤穂騒擾事件に取材し、フィクションを交えながら、地域におけるエネルギーのあり方を問う。時代がうつり、スケールが変わったとしても、長野電燈という電力資本が政治権力(立憲政友会)と結びつきながら、赤穂村民のエネルギーの自治を抑えつけようとした構図は現在の原子力村をめぐるそれと変わらないという指摘は実に鋭い。本書に引用されている様々な資料に載る赤穂村民の訴えは、まさにエネルギーの問題が自治の問題であることを明らかにしている。それが100年も前に、ここまで明快に訴えられていたことに驚かざるを得ない。

赤穂村営電気計画は頓挫せざるを得なかったが、町村が自治力を備えることが重要だと認識した赤穂村長・福沢泰江は、大正9 年には全国町村会の発起人となり、その設立に尽力している。

伊那谷では日本最初の組合営による電気事業者、龍丘電気利用組合などエネルギー自治の様々な試みが積み重ねられ、それが現在につながっているのではないだろうか。赤穂村の事例も、いまという時代だからこそ、その意義と先見性を再確認できる。エネルギー自治の重要性と、先人の自治への見識の高さを、改めて気付かせてくれる一冊。



常設型の住民投票条例でも住民投票の実施を拒否できる?

2014-02-17 18:30:00 | 自治のこと
『成蹊法学』76号〔判例評釈〕住民投票実施請求代表者証明書の交付申請却下処分が適法とされた事例(広島市住民投票拒否事件)/武田真一郎

この事例、詳しく知らなかったのだが大変興味深い。旧広島市民球場の解体の賛否を問う住民投票の実施を請求するため、署名収集を行おうとしたが、住民投票実施請求代表者証明書の交付を申請したところ、市長は、旧広島市民球場の解体は「市政運営上の重要事項」に当たらないとして、申請を却下した、という事例。

先日の小平市の住民投票の事例でもみられたが、地域の重要争点について住民投票のための条例を直接請求して制定し、住民投票を実施することは、首長や議会の壁に阻まれとても難しい。

これを回避するのが常設型の住民投票条例で、一定数の署名が集まれば必ず住民投票を実施しなければならないとようにするものだ。

広島市にも常設型の住民投票条例があるが、その第1条、第2条は以下のように規定している。

第1条 この条例は、地方自治の本旨に基づき、市政運営上の重要事項について、市民の意思を問う住民投票の制度を設け、これによって示された市民の意思を市政に的確に反映し、もって市民の福祉の向上を図ることを目的とする。

第2条 住民投票に付することができる市政運営上の重要事項(以下「重要事項」という。)は、現在又は将来の市民の福祉に重大な影響を及ぼし、又は及ぼすおそれのあるもの(次に掲げるものを除く。)とする。
(1)市の機関の権限に属しない事項
(2)法令の規定に基づき住民投票を行うことができる事項
(3)専ら特定の市民又は地域に関係する事項
(4)市の組織、人事又は財務の事務に関する事項
(5)前各号に定めるもののほか、住民投票に付することが適当でないと明らかに認められる事項

すなわち住民投票の対象が、「市政運営上の重要事項」に限定されている。

さらに広島市住民投票条例施行規則第12条1~3項は以下のように規定している。
(1)条例第5条第1項の規定により住民投票の実施を請求しようとする代表者(以下「請求代表者」という。)は、住民投票請求書を添え、市長に対し、文書で住民投票実施請求代表者証明書(以下「代表者証明書」という。)の交付を申請しなければならない。

(2)前項の規定による申請があった場合において、市長は、住民投票請求書に記載された住民投票に付そうとする事項が条例第2条の重要事項又は条例第6条の形式に該当しないと認めるときその他適法な方式を欠いていると認めるときは、請求代表者に対し、相当の期間を定めて、その補正を求めなければならない。

(3)前項の規定により補正を求められたにもかかわらず、請求代表者がその定められた期間内に補正をしないときは、市長は、第1項の規定による申請を却下しなければならない。

すなわち市民が直接請求をしようとしても、市長が、対象となる事項が「市政運営上の重要事項」ではないと判断すればそれを拒否できる、とも読めるようになっている。常設型の住民投票条例であっても実際には首長の判断によって直接請求の申請を拒否できる可能性があるわけで、住民投票をめぐる問題点の一つといえる。