川嶋周一『独仏関係史』(2024年9月、中公新書)読了。
宿敵関係にあったドイツ、フランス両国がなぜ和解したのか。ヨーロッパ、そして国際関係の中の両国が置かれた状況を捉えつつも、両国の政治指導者が内外の政治情勢のなかでどのような判断や駆け引きを行いながら協調関係を築いていったのかを丁寧に紐解いた好著。国際関係史の書籍でありながら、民間レベルの動きなどにページを割いている点も好印象。
やはり読んでいて感じるのはド・ゴール=アデナウアー期の重要性であり、特にド・ゴールはやはり印象的だ。ド・ゴールというとフランスの栄光を追い求めた政治家という印象だが、本書を読むとそれ以上に様々な側面が見えてくるように感じる。
一方で、本書を読んでいると、あくまで「独仏関係史」だからなのかもしれないが、コールやメルケルの時代の印象はむしろ薄く見えるように感じる。冷戦という枠にはめ込まれた中での50年代、60年代の両国の動きと、そういった大きな枠組みがなくなった現代では、両国関係が持つ意味も大きく変わってくるのであろう。それを象徴的に表しているのがロシアによるウクライナ侵攻以後の国際情勢の中での両国なのかもしれない。
ところで、本書を読んでいて、そのド・ゴールの存在感故かポール・マッカートニー&ウイングスの「セーヌのカフェ・テラス」を想い起こした。1978年3月にリリースされたウイングスのアルバム『ロンドン・タウン』に収録された同曲はセーヌ左岸のカフェ周辺の風景を切り取った佳曲だが、フランス人の小さな人混みがテレビ屋の前にできているかと思えば、シャルル・ド・ゴール(ポールは当然英語で歌っているので「チャールズ・ド・ゴール」)が演説するのを見ていたり、英語を話す人が、ドイツビールを飲みながら大声で話していたりと、トランスナショナルな情景が描かれている(そもそも『ロンドン・タウン』の2曲目が「セーヌのカフェ・テラス」というのも意味ありげだ)。そういえばイギリスのEC加盟は1973年だ。まさに本書に出てくるような独仏関係史をドーバー海峡の反対側から見ていたポールも歴史の中にいたのだなということをなんとなく思った。
ところで、この曲のタイトル、特にセーヌ川とも言っていない「Cafe on the Left Bank」という原題はやはり秀逸で「セーヌのカフェ・テラス」はちょっと微妙な邦題だと思う。