つらねのため息

写真や少し長い文章を掲載していく予定。

護憲の射程

2007-12-18 20:35:50 | 日本のこと
前の前の記事でトラックバックをさせていただいた社民党躍進を祈るブログさんに興味深い記事があったのでリンクさせていただく。

社民党は護憲だけでいいのか?(2007-12-06)

憲法の問題に関して常々感じるのは、「護憲」という言葉の意味があまり深く考えられずに論じられているのではないかと点である。ぼくがひっかかりを感じるのは、しばしば「憲法9条を守る」とか「平和憲法を守る」という意味で「護憲」という言葉が使われている点である。ちょっと考えればわかることだが、この二つはまったく同義ではない。日本国憲法は国のかたちを定める基本法であって9条のみで成り立っているわけではない。「9条を守れ」というのと「憲法を守れ」というのはまったく違う議論である。

以前にも触れたとおり、天皇制とかの問題もあるので個人的には現行憲法を何が何でも守れというのはおかしいと思っている。なのでぼくはあんまり「護憲」という言葉は使いたくない。

しかし、逆に言えば、「護憲」という言葉の戦略的な意義がそこにはないだろうか?「護憲」という行為は9条を守るということでもあるけれども、同時にたとえば1章の天皇制を守るという意味も発生する。24条が守られる限り同姓婚は実現できないし、29条を守るというのは私有財産制が維持されるという保障でもある。

「左翼」が天皇制も守り、私有財産制も守る(まぁ、いまどきそんなごりごりの社会主義者なんてそういないだろうけれども)といっているのだから、保守派にとってこんなに嬉しいことはないのではないだろうか?

つまるところ、「護憲」というのは究極の保守言説なのである(なにしろ「今あるものを守れといっているだけなのだから」)。

もちろん憲法「改正」論者の多くが9条をその標的にしている以上、「護憲」=「9条を守る」という意味になるという現実政治上の意味は十分理解している。しかし、それは同時にこの「護憲」という言葉をより広く活用していく好機でもあるはずだ。

せっかく「9条改悪反対」(個人的にはこう言いたいし、本来の「護憲派」の主張はこういうことであろう)ではなく、「護憲」という言葉を使うのであれば、その戦略的射程を生かさない手はない。「憲法を守る」ということは戦後日本が歩んできた天皇制と資本主義と平和憲法の(危うい)バランスを維持しようということである。その射程の先にいるのはかつて55年体制の下で、人々が求めていたものとちょうど重なり合うのではないだろうか?そして、かつて自民党一党支配を支えてきた人たちは、今小泉構造改革の下で競争にさらされ、格差にあえいでいる。憲法第3章に書かれた多くの権利は彼女/彼らの生活を守り、拡充させていくひとつの道しるべとなる。「護憲派」はその言葉の内実を深めることによって、その裾野を大きく広げることができるはずだ。

そもそも、国民投票法ができた以上、たとえ「護憲派」であっても「護憲政党」に投票する必要はない。国民投票という場は改憲の場であると同時に護憲の場ともなりうる。過半数の市民が「護憲」を望めばたとえ多くの政治家が改憲を望んでも国民投票によって否決されうる。欧州憲法条約が各国でほとんどの政治家に支持されながらも国民投票で批准を拒否されるという現象はまだ、われわれの記憶に新しい。

それに、「護憲」は政治的スローガン、旗印ではあっても政策ではない。「護憲派です」というだけでは改憲案が出てきたときに反対するというだけであり、きわめて消極的、かつ受動的な意義しか持たない。極論すれば、それは「改憲派が改憲案を出さない場合は何もしません」という姿勢と同じだからである。

「護憲」の深化がが必要ではないだろうか。

四月になれば彼女は

2007-12-17 22:28:44 | Musik
将棋界の女流独立問題に関して、嵐の中で凛と咲く花の様な独立派女流棋士の美しさを描いた素敵な記事の中でSimon & GarfunkelのApril Come She Willをはじめて知った。

「松本博文ブログ」「April Come She Will」

1966年発表の彼等の2作目、Sounds of Silenceに収められていたこの曲は4月に現れて8月には消えていってしまうはかない恋を描いた小品だ。いかにもポールらしい美しい詩、そして、アートのボーカリストとしての才能を再確認させてくれる澄み切った歌声、すべてがすばらしい。

Sounds of Silenceというアルバムは、1stに納められていた表題作が、本人たちの知らないところで(ディランのLike A Rolling Stoneをアレンジしたのと同じメンツによって)フォークロック調のアレンジを施され、意図せぬ(物質社会の虚無性を告発した歌が時流におもねったヒット狙いのものに仕上げられたのだから、ポールのショックはいかばかりか)ヒットとなったのを受けて急遽製作されたものである。そしてこのアルバムのヒットをきっかけに、彼等はその黄金時代を築き上げていく。

しかし、この曲が何よりもそれを象徴していると思うが、彼等の音楽はむしろあの激動の時代の中で「人々の心を代弁し、癒す時代の良心の声(湯川れい子さんのライナーノーツより)」として受け入れられていったように思う。

なんとも清々しい気持ちにさせてくれる素敵な曲である。

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福島党首鞍替え論に思う

2007-12-06 01:22:52 | 日本のこと
長らく放置していたのに、2日連続の更新です(苦笑)。

さて本題。

福島社民党党首に衆院鞍替え論があるとか。
あわてて記事検索したんですがとりあえず見つかったのがここだけだったので徳島新聞の記事をコピペ。どうやら共同通信の配信記事のようですが。

‐‐‐以下引用‐‐‐

福島党首に衆院くら替え論 本人否定、解散風で再燃も (2007/12/02)

 参院議員(比例代表)の福島瑞穂社民党党首に対し、次期衆院選での「くら替え」を求める声が党内で出ている。党首が先頭に立って戦うことで「党存亡の機」を乗り越えるのが狙い。福島氏は「真剣に検討したが、衆院選に出馬することはない」と否定するが、衆院の「解散風」が強まれば再燃する可能性もある。

 くら替え論を唱えるのは阿部知子政審会長や照屋寛徳副党首ら衆院議員が中心。7月の参院選では獲得議席が2議席にとどまり、比例代表の得票率も5%を割り込んだことで、次期衆院選への危機感が高まった。知名度の高い福島氏が衆院選に出馬することで、票の掘り起こしが期待できるとの思惑がある。

‐‐‐引用終り‐‐‐

個人的な感想としては「ちとなりふりかまわな過ぎじゃねーか?」といった感じ。

確かに福島さんは知名度があるけれども、それは全国的な知名度でいわば広く薄くあるはず。特定の地方の「地元の名士」的な知名度ではないので小選挙区向けっていえるのだろうか?

それと関連するが、参院比例全国区と(比例復活当選もあるとはいえ)衆院小選挙区の質の違いに着目することなく安易に鞍替えを唱えるのはいかがなものかと思う。今回の参院選でもいわば「失業」した民主党の前衆議院議員たちがこぞって比例区に出馬し「ご当地票」をかき集めて当選したけれども、本来比例区というのはそういう小選挙区では拾い集めれない全国に薄く広く拡散した票を生かすのが目的のはずで、小選挙区で得た組織を地盤に比例区へ、比例区で得た知名度を生かして小選挙区へというのは、ちとお門違いなのではないかと思う。

もちろん、党首が出馬しなきゃ戦えないという主戦論はわからないでもないけれども、やはり鞍替えするにはそれなりの大義名分が必要だと思うのですが…。単に「社民党の存続が危ういから」ではちょっとどうなのだろうか?出馬するとなったら参院議員の任期を途中で辞職することになるわけで、少なくとも2004年の総選挙で「福島みずほ」と書いた640,832人に対しては何らかの説明が必要ではないだろうか?

そもそも、日本の現状で社民党の落下傘候補ってどれくらい効果があるのだろうか?このエントリーを書くきっかけになったのは社民党躍進を祈るブログさんの二つのエントリー

福島瑞穂さん 決断の時来る!(2007-12-02)

社民党首と幹事長の小選挙区出馬(2007-11-08)

なのですが、後者で触れられている、トニー・ブレアの例はちょっと疑問が残る。英国労働党と社民党ではまったく党のサイズが異なる。トニー・ブレアが落下傘候補としてきた場合、「二大政党のうちの一方の選択肢」となりうるが、福島党首が落下傘候補として出馬することが、自動的に同様の事を含意するわけではない。小選挙区制だから落下傘候補もありという単純な図式ではないと思う。

いずれにせよ、社民党には場当たり的、政治屋的な単なる得票対策ではなく、社民党らしい原理原則論を押し立てて選挙戦を戦ってもらいたい。



デンマーク総選挙

2007-12-05 01:51:11 | 海外のこと
遅まきながら、11月14日にあったデンマークの総選挙結果を載せてみます。

総議席:179議席

与党:
左翼党(Venstre):26.2%(-2.8)46議席(-6)
保守国民党(Det Radikale Venstre):10.4%(+0.1)18議席

閣外協力
国民党(Dansk Folkeparti):13.9%(+0.6)25議席(+1)
新同盟(Ny Alliance):2.8%(+2.8)5議席(+5)

野党:
社会民主党(Socialdemokraterne):25.5%(-0.3)45議席(-2)
急進左翼党(Det Radikale Venstre):5.1%(-4.1)9議席(-8)
社会主義人民党(Socialistisk Folkeparti):13.0(+7.0)23議席(+12)
統一リスト(Enhedslisten):2.2(-1.2)4議席(-2)

という結果になりました(投票率は86.6%)。

そのほかにグリーンランドとフェロー諸島から2人ずつ議員が選ばれています。

まず、各党の説明ですが、
左翼党は名前は左翼ですが農民中心の保守政党。
急進左翼党はそこから出てきたリベラルな中道政党です。
新同盟は今年になってから、急進左翼党の左派的な姿勢に批判的な人たちが離党してつくった政党です。
保守国民党は経済界の後押しが強い党、
国民党は移民排斥を訴える極右政党、
社会民主党はその名の通り、
社会主義人民党は60新左翼政党、
統一リストは左翼の小政党の統一リストです。

結果としては与党とこれまで閣外協力をしてきた国民党の議席をあわせても89議席と過半数に1議席足りず、与党はとりあえずフェロー諸島選出の議員の協力を得て過半数を確保することにしたようです。

一方、上述の通り今年になって結成された新同盟はその行方が注目されましたが、事前の世論調査での予想ほどは得票が伸びず。

そもそも新同盟は移民であるNaser Khaderが急進左翼党の左派的な姿勢を「社民党との連立を目指していても現実的ではない。現政権と連立を組むことによって、極右の影響力をそぐべきだ」と批判してつくった政党です。一応与党との協議に応じる姿勢を見せているのですが、そもそも移民の政党と反移民の極右・国民党では協力できるわけがないので、どうなるか見ものです。その後の報道では、新同盟は少し政権と距離を置いた感じになりそうですが…。

新同盟が党を割ってしまったために急進左翼党は後退。前回選挙ではリベラルな姿勢を前面に出して、極右との対立軸をつくりだし躍進したのですが…。

それにかわって伸びたのが、社会主義人民党。今回は移民問題に加え、福祉や税、社会保障なども争点となっていたのが良かったのかもしれません。

社民党は前回に続き、歴史的敗北でした。与野党全体の比率でいうと少し持ち直したので、党首の責任論とかは今のところ出てきていないようですが。

与党の方も体制は磐石とはいないので、しばらくは注目です。

そういえば日本での一部報道などで「自由党中心の中道右派・与党連合と、社会民主党を核とする左派連合が競り合う展開」などという記述が見られましたが、イタリアの様に左右の政党がブロックごとに統一リストをつくるとかそういうことはありません。

一応参照先(デンマーク語ですが):http://politiken.dk/