えびす顔の造花卸売問屋元社長からの手紙

かすかな希望を抱いて幸せを自慢する尊大な手紙。重複掲載御免。造花仏花の造花輸入卸売問屋ニューホンコン造花提供

「父」を壊す

2008年05月05日 23時00分30秒 | 我が家
 ゴールデンウィークに「父」を壊した。

 屋上ベランダ南東角に手作りの温室がある。父がそのベランダでアヤメやヒマワリなどの花やネギ、トマトら野菜のミニ園芸をしていて、温室はその植物の越冬用に父がこしらえた。
 しかし、3年前に父が脳卒中で倒れてからは誰も世話をせず、20個以上もあるプランターや花鉢もそのほとんどが雑草の棲家。温室も朽ちかけてきていた。
 ベランダ階下の部屋で雨漏りがし、温室を潰さないと防水の修理が出来なかった。ただ、温室を壊すのは一仕事、半年ほど気になりながらもほっていたのをこの連休に思い切って、温室の撤去とベランダの片づけをした。
 
 最高気温が30度間際まで上がった3日の土曜日午前11時から作業を始めた。温室は一寸幅の角材に半透明の塩化ビニールの波板を打ち付けた幅2メートル、高さ1メートルほどの長方形。風雨で角材ももろくなっていて、角材同士をくぎで打ち付けた四隅の角はくぎ抜きや金槌を使わずともマイナスドライバーでこじると外れた。これは案外早く片付きそうだとたかを括った。

 少しすると急に作業のスピードが遅くなった。波板が角材に10センチ間隔ほどで丁寧に釘で打ち付けてある。さらに補強のために胴周りに角材を一巻きしている。その数およそ200、その釘を外すのがたいへん厄介だった。

 もろくなったとはいえそこそこの強度のある角材ならその角材の縁をテコの支点のようにしてドライバーでこじれば、外れる。しかし、塩ビの波板はドライバーをテコのように使おうとしても柔らかすぎてドライバーがめり込み変形するだけ。少し劣化して硬くなっている波板の所は波板そのものが破れてしまい、いずれにしても釘は外れない。で、ドライバーで釘の頭以上の穴を無理やりこじ開けるか、その穴を開けるのさえ難しい所はペンチで釘を引っこ抜く、それもだめならカッターで切って無理やりはがす。様々な方法を使って一箇所一箇所、打ち付けられた釘から外していかないといけなくなった。

 あにはからんやである。

 あっという間にお昼になった。その昼食時。

 父、
 「バールでも使わんとあかんで」
 私、
 「木もろなってるから、マイナスのドライバーでこじたら外れる。それより、波板に釘がいっぱい打ち付けられていて、それを外すんがたいへんや」
 父、
 「波板なんか木につけたままでもゴミ屋は持って行きよる」
 私、
 「木につけたままやってみ、どんだけ大きいか。少なくとも三方のうち一方は外さんと角材に波板巻いて小さあもでけへん」

 父は思い通りに温室を作ったのに飽き足らず、潰し方まで指示してくる。 

 昼ごはんを早々にすませ、作業に戻った。

 200の釘を一個一個、それも状況に応じて道具をやり方を変えながら外していった。無理にドライバーを使うせいか、しまいにはドライバーも曲がってきた。

 さらに作業を進めると、空っぽだと思っていた温室の中から鉄のアングルで組んだ花鉢台が出てきた。四隅をボルトしっかりと止めてあるのだが、そのボルトが錆びていてモンキーで回そうとしてもうまく行かない。粘り強く時間をかけて外していくしかない。こちらもたいそう手間取った。汗だくになった。

 まるで壊されるを嫌がっている「父(の温室)」が抵抗しているようだ。

 解体し終えてからも、「抵抗」が続く。角材には釘がたくさんついたまま。ぞんざいに扱うと、手に釘が刺さって怪我をする。一本一本丁寧に束ねないといけない。

 解体作業を終えたのは午後3時ごろ。結局3時間半かかった。

 

 それから荒れたままになっていたプランターや花鉢を整理した。3年間も水をやっていなかった20数個の内、アロエ一鉢だけまだ命を持ち続けていた。たまたま花鉢の下三分の一ほどを花皿が覆っていて、自然の雨水がそこに貯まり、その水を頼りに何とか3年間持ちこたえたようだ。花まで咲かしている。この種の植物は、生命の危険を感じた時に花を咲かせるとを聞いたような気もするが、それが本当なら、このアロエもすんでのところだったかもしれない。

 

 二鉢だけ耕し、一昨年に友人らからもらったままになっていた「幸せの朝顔」と種にハートマークの模様のある「ふうせんかずら」をそれぞれのプランターに蒔いた。その鉢の横に、造花ヒマワリを添えた。

 

 防水修理もふくめ全ての作業を終えたのは4時前。5月の高い陽も傾きかけていた。
 
 「父(の温室)」を壊したのは壊すのが目的ではなく、防水修理のため。
 最初は簡単に壊せると思ったが、あにはからんや、苦労した。
 ぞんざいに壊そうとすると、怪我までしそうになる。
 きれいなったベランダのプランターには新たな花が咲くに違いない。
 父の育てていたアロエも命を保ち続けていくだろう。


 この「父」を壊す作業。父から引き継いだ(有)ニューホンコン造花の経営と似ている。
 


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