姫沙羅

2019-06-30 02:44:54 | 


姫沙羅の花
椿に似ているから「夏椿」

沙羅の繊細な花を椿と呼ぶのには私には抵抗がある

初めてこの花を見たのは若い頃のとある庭園であった
人妻でありながら奔放な生き様で
周囲が呆れ返るほどの行状の美魔女と呼ぶにふさわしい女(ひと)の
案内で訪れた


まだ勝手も分からない赴任地でひょんな事から知り合って
観光案内を買って出てくれたけれど
いやはや、この手の女の人はおろか
女性との付き合いなどしたことも無い朴念仁だった私には
ありがたいやら、迷惑?やら

池を巡る庭園をそぞろ歩きながらも
なんとも居心地の良くない私だった

そんな私の雰囲気に気がついたのか
件の美魔女は
「ここでお茶でも飲みましょう」と
茅葺きの洒落た古民家風の座敷に入った

まだ若く抹茶など飲んだことの無い私は
作法など知らないからもじもじと抹茶茶碗を見つめるだけ

気配を察して、色白の腕をすうぅっとのばして
茶碗をとり、こうして飲むのよって
手本をみせてくれつつ
美味しいわよって、微笑むのだった

見よう見まねで引き寄せた茶碗の中の緑色のお茶を
一口飲んで、むっ、これは旨い
そう思ったものだ

庵を巡りつつ、そこで出会ったのが姫沙羅の花だ

初めて見る繊細な白い花にしばし見とれていたら

「この花は朝に咲いて夕には落ちてしまうのよ」
と耳元でささやく

「貴男はまだ若いから一日限りに精一杯咲くこの花の命が解るかな」
そう言って又、私を困らせる

「私も今朝さいて、そして日暮れには落ちてしまう花なのよ」
「落ちる前の束の間を貴男と過ごしたいわ」

・・・・・

沙羅の白い花を見る度に帰らぬ若き日の思い出である







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