侯爵家のお屋敷にお泊り、という一大イベント。
ミカが徹底的に人払いをしてくれているおかげで、自分たちは勝手気ままにしていられるのだが。
(この寝床だけは許容できーん!!)
と、心の中で唸ってヒロは寝返りを打つ。
寝返りを打つたび体は沈むし、じっとしていてもぐにゃぐにゃの柔らかい感触が気になって落ち着かないし、
そうでなくても、ふわふわの軽いものが全身に張り付くように覆いかぶさっていて、
身動きする体の形に合わせて吸い付いてくるような滑らかさが、…いっそ何かの呪いの様で恐ろしい。
ウイなんかはそれをとても気に入ったらしく、起きている時でもふわふわのクッションを見定めてはもふもふして楽しんでいるが
自分には無理だ、と思う。寝床は適度に固さがなくては落ち着かない。
幸い、ミオには同意を得られたのでひとしきり辛さを分かち合って多少は満足したものの。
それで眠れるかと言うのは、別の話。
(うーん、つれええ…)
と、何度目かの溜息をついたとき、そうかコレじゃつらいよな、と思い至る。
この寝心地に生まれた時から慣れているのなら、そりゃあ旅の間の宿のベッドはつらいだろう。
言わずと知れたミカのコトではあるが。
ミカは朝が弱いのだと思っていたが、実は寝床に問題があって、よく眠れていないのではないだろうか。
そんな考えがふと浮かんで、ヒロは目を開けた。
闇に慣れた目には、月明かりに部屋の様相ははっきりととらえられる。
それらを何とはなしに目に入れながら、ここで生まれ育ったミカの事を思う。
(ミカは、そういうことを言わないから)
いや、そうじゃない。思い返せば、出会って旅を始めた頃には意見の相違はあった。
些細な衝突、他愛ない不満や疑問、見知らぬ者同士が寝食を共にすれば必ず起こる諍い。
ミカがそれらを言わなくなったのはいつからだろう。
(思えば、あれが…)
あれが、きっかけだったのか?
…もうずいぶん前の事、野営の食事にミカが口を出してきたことがあった。
いくら節制とはいえ、食事にくずを使うな、と。
それはヒロにとっては心外も心外、いわれなき非難だと思ったから、よく覚えている。
自分一人ならともかく、仲間のための食事で、それも旅の間の要となる食材に「くず」を使っている意識はない。
ちゃんとした仕入れ先で、値段の交渉も適正価格、十分に満足するだけの物を使っている事を主張するヒロに、
ミカは納得していない様だった。
だから、ミカがいうところの「くず」な食材とは何なのか、それを問いただした結果。
それがまた衝撃的で。
形が揃っていない、色や艶など見た目が悪い、判別できないほど小さい、口当たりが悪い等々…
育ちが良いのだろうな、とは薄々思っていた。城内で兵士として配属されているくらいだから、そこそこ生活は良いだろう。
時折、世間知らずな発言もみられたし。
人に命令することに慣れているような口調も、まあそういう事なんだろうし。
と、ミカの主張にやや呆気にとられたヒロは、「ちょっと見てな」と麻袋の中から大きめの芋を取り出し、ナイフを構える。
そういう時のミカは、やたらヒロに素直に従った。
(今思えば、庶民の生活を学ぼうとする意欲だった、って事なんだろうけど)
芋ってのは普通、こういうもんだ、と目の前で見せれば、知ってる、と返す。
知ってはいても調理はしたこともないだろうミカの前で、芽とひげ根、皮の固い所を取り除き、傷んでいる箇所を削る。
「下準備はこれで、終わり。あとは料理に合わせて、大きく切ったり、小さく切ったりするけどな」
それがどうした、とでも言いたげなミカに一通り芋の全体を見せてから、「ミカが言ってるのは」と芋を手に構え、
今度は丁寧に皮をむいていく。
ざらついた表面の皮を残さず、綺麗にむいてしまえば、鮮やかな黄色の全体が露わになる。
「こうやって、皮の部分を全部捨てて口当たりを良くしてんだよ」
土に触れ常に成長していく外側の部分は固く頑丈で、それに守られている中身は瑞々しく柔らかく、新鮮だ。
皮をむいた芋と、むいていない芋をそれぞれ手に乗せてやって、比べさせる。
そうしておいて、「それで」と、むいた方の芋をミカの手から取り上げ、ナイフをいれる。
綺麗な長方体にするために、大雑把に、周りの実を削り落とす。
「形が揃ってる、ってのは、こうやって揃えてんだと思うよ」
他のどんな野菜でもな、と、仕上がったそれをミカに見せる。
自然に採れる野菜や果物がみんな均一に同じなんてことはありえない。人間がみんな違うのを同じだ。なんて言って
「勿論、形を揃えるにはそれなりに大きな物ばかり買わないといけないけど、これくらいの市場ではそんな大きい野菜は見ないな」
だいたいこんなものだ、と麻の袋の中を見せてやる。
芋と人参、豆、みんな片手で包み込めるくらい。
「だから、少しでも多く食べるところを確保するために皮は極力むかないし、形なんか不揃いでもどうでも良いんだよ」
そういうのが、料理屋や大きな宿の食事とは違う、ごく普通の庶民の食事だ。
それを黙って聞いていたミカは、じゃあ、とヒロが落として捨てた皮と実の部分を指さす。
「それはどうしてるんだ」
「どうって」
ヒロとしてはミカに解らせるための実演だったので、この後、まあ薄く薄くうすーーーーーく向いた皮は捨てるにしても、
長方体に切り落とした方の実は、ゆでてスープに入れるなり、つぶして塩を混ぜて食べるなりするけれど。
どうしてるんだ、という尋ね方は、ヒロの主張が正しいなら自分が今まで口にしてきた料理ではどうなっているのか、という事だろう。
「いや、それは知らねえけど」
まさか捨てたりはしないと思うから、まかないとかに使うんじゃねえ?と、あの日の自分は言ったものの。
(この分だと捨ててても全然おかしくないような…)
と、侯爵家の規模を知ってしまった今のヒロは、思ってしまう。
美しく整えられた食材、味だけでなく、見た目にも一切手を抜かず、完璧に作り上げられた、それは芸術のような料理。
それらが当たり前の日常が、この屋敷にはあって。
そこで生まれ育ってきたミカの常識を、この数日でしか体験してないヒロには、あの日のミカが何を思ったのか、
想像することもできないけれど。
まかないとは何だ、と尋ねられて、以前、小料理屋で下働きをした経験を話してやった。
「お客さんにはお金をもらうから良いもの出すだろ、その切り落としを従業員や家族の食事にするんだよ」
ミカは自分の手の中にある立方体の「良いもの」と、ヒロの足元に落ちている「切り落とし」を見比べている。
見比べて、ただじっと考え込んでいる様子は。
(きっと、ミカにとっては初めての衝撃だったはずなんだ)
ヒロがこの屋敷で次々と衝撃に打たれたように、ミカもきっと。
だがあの日のヒロにそれは解らなかった。だから、言ってやったのだ。
「俺たちはそれで慣れてるから良いけど、ミカがどうしても無理、ってんなら、ミカの分はちゃんとむいてつくってやるよ?」
食材がくずではない、と解って葛藤しているのか、と思っていたからの提案。
育ちがいいなら、まあおいおい慣れていけばいいんじゃないかな、と軽く考えたからなのだが。
いや、とミカは、手の中の芋をヒロに返しながら言った。
「いや、いい」
「え?そうか?皮むくくらいなら、別に手間じゃないけどな」
「でも、その切り落としはお前の分になるんだろ」
「まーな、俺は気にならないからな」
「…俺はお前たちの主人じゃないし、お前たちは下働きでもないんだから」
そうさせるのは違うと思う、と言い、お前が正しいのは良く解った、と言った。
それが、郷に入れば郷に従え、というそれを実践しているミカのそれまでの様子と何ら変わりはなかったから、
ヒロもそれ以上は追及しなかった。
…しなかったけれど、ミカの食が進まないようなのは見ていて良く解るし、仲間である以上同列であるべき、と言った
ミカの心根は好ましかった(それまでのヒロの人間関係で知った育ちのいいらしい人間とは違っていて驚いた)ので
こっそりとミカの料理にはひと手間と、「良いもの」を加えてやるようになった。
ミカはそれを、ミオに習ってヒロの調理の腕が上がった、というように思っているらしいが、違うのだ。
(いや、それもないとは言わないけど)
ミオの料理でも同じだ、食材は大事だから。生きているものを刈り取って、見た目が悪いから食べないという道理はない。
(俺はそれを究極の究極の究極の極致まで食える、ってのが当たり前だから)
だから、良い。ミカには知られなくて良いことだ。
(どうやったって、歪なものは歪でしかなくて)
それを美しく整えたとしても、削ぎ落された欠片は残る。残ったそれを。
(あの日のミカは、受け止めた)
受け止めたからこそ、何も言わなくなった。
それを、傍についていた自分は無意識に「良し」としていて、何も言わなくなったミカを気に掛けることもなくなっていた。
この屋敷にこなければ、たぶん、ずっと思いを寄せることもなかっただろう小さな出来事。
(正しいって、何だろう)
どうすれば良いか、どうするのが良かったのか。
自分は、ずっと「良い」ことを望んでそればかりを追ってきたような気がしているけど。
実際そうでもないのかもしれない、と考えた時。
ふいに、部屋のドアがノックされた。
こんな時間になんだ?!と飛び起きれば、寝室のはるか向こうのドアから光が差し込んで、ミカが顔を出した。
「もう寝てるのか」
といういつも通りの声音にそれまでの思考を中断され、脱力しつつ、寝室から出る。
「ちゃんとベッドで寝てますよ」
と言えば、何の話だ、と返される。
あれ?床で寝てないか見張りにきたわけじゃないのか、とミカを見れば、片手にワインを持っている。
ますます訳が分からないで首をかしげると、飲むか、とワインを見せる。
このお坊ちゃま、なりふりが下町の不良少年なんだよなあ、なんて思いながら黙っていると、ミカは勝手に用意を始めた。
「…ワイン飲みにきたのか」
「そうだ」
「何で」
「何でって、…飲まないのか」
「いや、飲む飲む、いただきます」
正直、寝るには随分と早い時間だし、ちょうど喉も乾いていたし。
「じゃ、座れ」
訳が分からないまま、とりあえずミカが用意をしているテーブルの、これまた無駄にでかいソファーに胡坐をかいて座ると、
その隣にミカも腰を下ろした。
「ウイが、こっちに来ればいいだろ、って言うから」
と言いながら、グラスを並べ、ワインの封に手をかける。
ヒロがこの部屋に一人にされるのが不安でウイの部屋に混ざっていいか聞いたら、案の定ミカにこっぴどく説教された初日。
ヒロのためにわざわざ、間取りが分かれている館を用意してやったのに、というそれには納得できたものの。
じゃあミカの部屋に混ぜて、っていうと自室に客人は泊めない、前例がない、そういう事をすれば屋敷全体が混乱する、と言われ
渋々、ヒロは一人でここ滞在しているわけだが。
ウイに言われて来た、というミカが、「ん」とワインの注ぎ口を向けるので慌ててグラスを出す。
なるほど、ミカなりに気にはしていてくれたようだ。
「あとは」
と、自分のグラスにも注ぎながら、ミカが言う。
「学生時代、舎監の目を盗んで飲酒をするのが流行っていて」
「え?ミカが?」
「俺じゃない、周りが、だ。俺はものすごくくだらないと思っていたから、参加したことはない」
それ以前に、友人がいなかったわけだが、と言うのは互いに暗黙の了解。それを視線で交わすように、ミカはヒロを見る。
「お前となら良いかと思って」
と、ひどく生真面目に言われては、返答に困る。
それは、学生という規律の厳しい時代に羽目を外すから楽しいのであって、今自分と酒を酌み交わすのは違うんじゃないかな、
と思うのだが、その辺り、ミカの思考はどうなっているのだ。
「う、うん、そうか」
「…ほかにいう事はないのか」
不機嫌そうに睨まれて、愛想笑いを一つ。
「光栄でっす」
「嘘くせえ」
「嘘じゃねーよ、来てくれてすんげー嬉しいよ!嬉しいけどさあ」
飲んだら帰るんだろ自分の部屋に、と、ミカのこの無意味な行為に困惑してる風を見せれば
いやこっちに泊まる、と言われて、え?!マジで?と、身を乗り出す。
「なんだーそれを先に言えよなー、いやあ実にいい酒ですなあー」
「嘘くせえ」
途端に調子に乗っておだてあげようとするヒロの態度に、先ほどと同じセリフを重ねて、文句の一つも続けようとしたのだろうミカが
仕方ないなというように笑って見せた。
そんなミカを見て、ヒロもようやくいつもの自分を取り戻せたような気がする。
だから深く考えずに、グラスに注がれたワインを口にして。
「ぐぇっはっ」
と盛大にむせ返る。
いい酒ですなあ、なんて調子に乗って言ったが、日ごろから進んで酒を飲んだりはしない。それは旅の間のミカも同じだ。
ただ、飲み方は覚えておいた方が良いと言うミカが用意する酒類を時折口にするくらい。
「まっずぅぅぅっ!!なんだこれ、まずっ」
「え?そんなにか?」
と驚いたミカが、少量を口に付けるようにして確かめる。
「…うん、まずいな」
「まずいな、って何?!どゆこと!?毒見?俺に毒見させたのか恐ろしい子っ」
「いや、説明する前にお前が勝手に飲んだだけだろ」
呆れたようなミカが別のグラスを差し出し、水、と言うのを受け取る。
いつも大体ミカが持ってくる酒は軽く飲めるので、完全に油断していた。一気に水を流し込む。
「俺たちが飲んでいい強さの酒じゃないと思います先生」
「そうだな、結構きついなコレ」
ヒロに同意した先生、ミカが手にしている瓶には、なんのラベルも張られていない。
「お高いのか」
「いや、おれの荘園で試しに作らせた物なんだが」
俺の!荘園で!とヒロが絶句しているのを別の意味にとったのか、ミカがきまり悪そうに、いやその、と言いよどむ。
「基本は葡萄でワインを作らせているんだが、作物一種だけだと農作被害に会った時、その年は全滅するだろ」
だからほかの作物でも作れないか、ちょっと試行錯誤をしていて、という説明に、ヒロはただ頷く。
そこそこ飲める物ができた、と届けられていたのを思い出して、これでいいかと持ってきたらしい。
「だから別にお前で人体実験をしたというわけじゃないからな」
「わかったわかった、うん、わかりました」
おれがビックリしたのはそこじゃないんだけど、とは言わず、ヒロはグラスに残った酒の匂いを確かめる。
「材料何?」
「これは、芋だったかな」
「へー芋かー、全然わかんねーな」
「解るほど酒を知らねえだろ」
「そりゃそーだけど、葡萄とか桃とか解るじゃん。甘い匂いするし」
そんな事を言いながら、あ、と思いつく。
「ソーダ水に混ぜてみたらどうかなコレ、甘くて飲みやすくなるんじゃねえ?」
「甘くする意味が解らねえ」
「じゃあミカは水で薄めてみろよ、絶対これそのままだとキツイんだって」
「なるほど」
ヒロの提案を受けて、ミカが酒の残ったグラスに水を足していく。
それを味見しながら、お互いにこれなら飲める、という所まで水で割った結果。
「…こんなに薄めるんなら別にこの酒飲まなくてもいいよな」
「そうだな…」
そんな不毛な結論に達しては、興味も失せるというものだろう。二人してソファーに身を投げた。
背もたれに反り返り天井を見ながら、「そうだ、料理!料理に使うってのもありじゃねえ?」とヒロが声を上げれば、
クッションに身を預けているミカが、くつくつと笑う。
「お前って、本当に」
「なんだよなー」
互いの姿を目に入れず、声だけで反応を窺う。軽く酒が入って、楽しい気分になっているらしい。
「どんなものでも余すことなく利用しようとするな」
「そりゃーまー、利用できるならとことん利用しないと、失礼でしょーよ」
余り、捨て去られるのは、しのびない。どんなものでも。
「なるほど、礼か」
「礼だ」
そう言い切ったヒロは、別の事を考えていた。
あの日。
美しく整えられた形を手にし、美しく整えるために切り落とされたものを目にしたミカだからこそ、
今のヒロの言葉を受け入れることができるのかもしれない。
いや、それは自分の成した驕りだろうか。
「じゃあ、料理と…、ソーダ水だったな。あとは、何か手があれば、考えるか」
他愛ない発言も一蹴せず、しっかりと受け止めている様子は普段のミカと何ら変わりない。
変わったのは、ミカの境遇を知ってしまったヒロの方だ。
住む世界が何もかも違う。それをいやというほど思い知らされたこの数日、友達の家に遊びに来たなんて次元じゃない。
ミカがとてつもなく遠い存在なのだと、やっと理解することができた。
それなのに。
自分は、ミカが何も変わっていない事を、ちゃんと信じていられるのだ。
個人で荘園を管理して、多くの人間を使い、それらの将来の事も見据えて支持を出したりする実態を見せつけられていても。
あの日のミカが、ヒロの中に生きている。
生きているミカと今まで積み重ねてきた時間が、互いの距離を結び付け、どんな障害に引き離されようともミカの本質を見誤る事はないと思える。
これは驕りじゃない、自信だ。
「俺、ミカんちに遊びに来てよかったと思うな」
「なんだ、突然」
「ウイが来たがってたのは、これなんだなーって思って」
よ、と軽く勢いをつけて身を起こせば、ミカがこっちを見る。
「これって、どれだよ」
「自己満足」
「自己満足だあ?」
「いいぞ、自己満足。現状に満足できて、さらにその上を目指せるって事だろ」
少なくとも自分は、ミカの境遇を知れてよかったと思う。
「別にそれを知ったからって、これからのミカに対する態度が変わるとか、ないんだけどさ」
ミカだって俺たちの家に来たからって今までと何も変わらないだろう?というヒロに、ミカが頷く。
「そうだな、態度は変わらなくても見る目は変わったな」
お前のいう家族というものがどういう事か良く解った、と言われ、俺もだ、とヒロも頷く。
「解りあえないのはしょうがねえ、って思ってたけど、実際目にするとそういうもんでもないな、って思ったな」
「形が違うだけで、本質は同じだ」
「同じか」
「整えられているか、いないか、だ」
そのミカの言い分を、ヒロはゆっくりと、胸のうちに収める。
美しく形を揃え、美しくあるために葬り去られるものを、ミカは必要としている。
いつか、俺にはお前たちが必要だ、と言っていたミカの心は多分、ここにある。
これから先も、自分たちは違う視点から世界を見るだろう。同じものを、違う形のものとしてとらえ、立場を変えるだろう。
その根底にあるものを、今、知った。
知るという、強み。
それさえあれば、互いの立場の違いなど、何の隔たりにもならない。
「夜会、成功させような」
ヒロが言えば、ミカがちらりと笑う。
「安心しろ、とことん利用してやる」
ミカにしか立ちえない立場の物言いで、礼を尽くす、と言っている。
「それは、願ったり叶ったり」
三度目の、お調子者の本懐ここにありと言ったヨイショには、「嘘くせえ」という抗議はこなかった。
はるか高みにある美しきものが、いびつなものに送る礼と賛。
それはきっと、類をみないお披露目になるだろう。
全然絞められなくて、中途半端にぶったぎりですがスミマセン(;´・ω・)モウムリ