今年最初の歌舞伎座での観劇。というわけで、ごくごく簡単に感想です。
①春調娘七草
福助=静御前、橋之助=曾我五郎、染五郎=曾我十郎による20分くらいのおめでたい舞踊。
全体の印象は悪くなかったですね。若手・中堅だけど、舞台は大きく見えた。
福助の静御前は先月と違って、品があるし、このメンバーということもあって、断然貫禄がある。
このひと、おとなしくしていれば、世代のわりに貫禄があっていいんだけど、ウケを狙う芝居だと、なんか崩れるんですよね~。大名跡を襲名する頃には、下品な芝居をやめて、堂々たる女形になって欲しいものだなあ~。
橋之助は少し貫目がついたのか、これまた堂々たる印象。三月の石川五右衛門が楽しみですね。
染五郎は、顔が小さくて、いまどきの体型だなあ~と改めて実感。色気もまあまあありました。
②石切梶原
今回は幸四郎の石切。
浅黄幕が落ちて、勢揃いという展開でしたが、幸四郎=梶原が刀を鑑定するくだり、「しからば拝見いたすにござろう」(でしたっけ?)が、少しクセをつけ過ぎていて、なんだかクドイ。
また、俣野の試し切りを梶原が断るくだり、ここも幸四郎の台詞がアヤをつけ過ぎていて、ピシャリと断ったという印象にはならなかった。どうも、老いた梶原に見えるんですよね。
他の役では、俣野の歌昇が試し切りを提案するくだり、口跡がよい。
東蔵の六郎太夫は娘梢を花道で引き止める仏壇のくだりが意外とあっさりだった代わりに、その後の述懐がセンチメンタルだったという印象。
また、魁春の梢は、しっとりと落ち着いて、若手がこの役をやるととかく娘娘してしまうところを、うまく押さえていたという感じでした。
さて、今回の幸四郎の梶原ですが、敵方が全員帰ってからの、六郎太夫、梢との三人の場面になってからの方が、見違えるように張りがありましたね。
自分に刀を買わせろという場面くらいから、口跡がよくて、梶原が一気に若返った!
ひょっとしたら、狙いでこういう芝居をしてたのかもしれませんが、後半にきてやっと溜飲が下がる舞台って感じでしたね~。
③勧進帳
團十郎=弁慶、梅玉=富樫、勘三郎=義経の勧進帳。
團十郎にとっては病気再発療養後、初の勧進帳なんじゃないのかな?
梅玉の富樫は、いつになくゆったりとした鷹揚な雰囲気の富樫。(太刀持ちは玉太郎)
今回の團十郎は前半セーブ気味で、後半(義経-弁慶の場面以後)が元気という印象でした。
なので、富樫とのやり取りは、以前の獣性を感じる展開と比べると、意外にも熱気に乏しい印象でしたが、その代わり品格は上がった!
一方、勘三郎の義経は、花道の第一声「いかに弁慶~」から品格があって素晴らしい。(玉三郎の義経は第一声がイマイチでしたからね~。)
後半の、弁慶に手を差し伸べるところもスッとしてよかったし・・・。このあたり、12月の芝居とは大違いでしたね。(ま、演目が違うからしょうがないんだけれど・・・。)
で、今回改めて思ったのは、團十郎の弁慶の古風さ。幸四郎だと「近代人の悩み」みたいなニュアンスが入ってきたりするけど、團十郎にはいい意味でそれはない。
また、幸四郎の弁慶はいつ見てもそんなに変化を感じないんだけど、團十郎は二度の病気療養で少しづつ変化を始めているんじゃないですか?なので、今後も「変化」を楽しめそうな予感がします。
さて、他の点で気になったのは、富樫が涙をこらえて退場する場面。烏帽子を被った頭をクッと斜め上に向けて涙をこらえる芝居なんですが、梅玉のふりが割合大きい。
なのに、大泣きに見えないんですよ。これは、このひとの芸の品格がそう見えさせるって事なんじゃないですかね?というのも、他の役者が大きく頭を上げると大泣きにしか見えないですからね~。(誰とはいいませんが・・・。)
それと、最後の花道、弁慶の飛び六法。少なくとも、わたしの観た日は、團十郎の弁慶、手をヒラヒラさせてはいませんでしたよ。力感充分でした!いかがでしょう?渡辺保さん!
④松浦の太鼓
三世歌六(初代吉右衛門、先代勘三郎のお父さん)、初代吉右衛門の当たり役を当代吉右衛門が演じた舞台。
といっても、この芝居、バカ殿の話ですよね。わたしなんか、森繁の「社長シリーズ」の原型は、この幕末(安政五年)の芝居なんじゃないかと思っているほどですよ。(または、海外の映画だとルビッチかな?)
で、話は、大石蔵之助と同門の松浦候が、「どうして、赤穂浪士は吉良を討たないんだ」と不満爆発、赤穂出身の女中をクビにしようとしたりして、ひと悶着があるうちに、となりの吉良邸の様子が妙なことに・・・。といった感じですかね~。
吉右衛門の松浦候は、その飄逸なイライラ感を火鉢や肘付きを扱う手の表情で、見事に演じてみせる。(ウマイ!)
また、こういう芝居って、まわりが大真面目じゃないと面白くないんだけど、大高源吾の梅玉の真面目っぽさ、飄逸過ぎない歌六演じる其角も品を損なわず、ちょうどよい塩梅だったんじゃないですか。(因みに、以前見た左團次の其角は面白キャラ過ぎた!)
まあ、凄まじくくだらない芝居だけど、これをちゃんと観られるように演じるのは、巧い吉右衛門、天真爛漫な仁左衛門くらいだなあ~、というか、これを演じられるような役者が他に出てくるのかって、はなはだ疑問ではありますよね~。
というわけで、初春のおめでたい舞台でした!
PS:後で思ったんだけど、立川談志の「松曳き」っていう、殿様の出てくるイリュージョン落語もこの芝居のテイストかな?
★ ★ ★
歌舞伎座さよなら公演
壽初春大歌舞伎
平成22年1月2日(土)~26日(火)
昼の部
一、春調娘七種(はるのしらべむすめななくさ)
曽我五郎 橋之助
曽我十郎 染五郎
静御前 福 助
二、梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)
鶴ヶ岡八幡社頭の場
梶原平三景時 幸四郎
梢 魁 春
俣野五郎景久 歌 昇
大名山口政信 由次郎
大名川島近重 種太郎
大名森村宗連 宗之助
剣菱呑助 秀 調
六郎太夫 東 蔵
大庭三郎景親 左團次
三、歌舞伎十八番の内 勧進帳(かんじんちょう)
武蔵坊弁慶 團十郎
源義経 勘三郎
亀井六郎 友右衛門
片岡八郎 高麗蔵
駿河次郎 松 江
常陸坊海尊 桂 三
太刀持音若 玉太郎
富樫左衛門 梅 玉
四、秀山十種の内 松浦の太鼓 (まつうらのたいこ)
松浦鎮信 吉右衛門
其角 歌 六
鵜飼左司馬 由次郎
渕部市右衛門 松 江
早瀬近吾 吉之助
里見幾之亟 種太郎
江川文太夫 桂 三
お縫 芝 雀
大高源吾 梅 玉
①春調娘七草
福助=静御前、橋之助=曾我五郎、染五郎=曾我十郎による20分くらいのおめでたい舞踊。
全体の印象は悪くなかったですね。若手・中堅だけど、舞台は大きく見えた。
福助の静御前は先月と違って、品があるし、このメンバーということもあって、断然貫禄がある。
このひと、おとなしくしていれば、世代のわりに貫禄があっていいんだけど、ウケを狙う芝居だと、なんか崩れるんですよね~。大名跡を襲名する頃には、下品な芝居をやめて、堂々たる女形になって欲しいものだなあ~。
橋之助は少し貫目がついたのか、これまた堂々たる印象。三月の石川五右衛門が楽しみですね。
染五郎は、顔が小さくて、いまどきの体型だなあ~と改めて実感。色気もまあまあありました。
②石切梶原
今回は幸四郎の石切。
浅黄幕が落ちて、勢揃いという展開でしたが、幸四郎=梶原が刀を鑑定するくだり、「しからば拝見いたすにござろう」(でしたっけ?)が、少しクセをつけ過ぎていて、なんだかクドイ。
また、俣野の試し切りを梶原が断るくだり、ここも幸四郎の台詞がアヤをつけ過ぎていて、ピシャリと断ったという印象にはならなかった。どうも、老いた梶原に見えるんですよね。
他の役では、俣野の歌昇が試し切りを提案するくだり、口跡がよい。
東蔵の六郎太夫は娘梢を花道で引き止める仏壇のくだりが意外とあっさりだった代わりに、その後の述懐がセンチメンタルだったという印象。
また、魁春の梢は、しっとりと落ち着いて、若手がこの役をやるととかく娘娘してしまうところを、うまく押さえていたという感じでした。
さて、今回の幸四郎の梶原ですが、敵方が全員帰ってからの、六郎太夫、梢との三人の場面になってからの方が、見違えるように張りがありましたね。
自分に刀を買わせろという場面くらいから、口跡がよくて、梶原が一気に若返った!
ひょっとしたら、狙いでこういう芝居をしてたのかもしれませんが、後半にきてやっと溜飲が下がる舞台って感じでしたね~。
③勧進帳
團十郎=弁慶、梅玉=富樫、勘三郎=義経の勧進帳。
團十郎にとっては病気再発療養後、初の勧進帳なんじゃないのかな?
梅玉の富樫は、いつになくゆったりとした鷹揚な雰囲気の富樫。(太刀持ちは玉太郎)
今回の團十郎は前半セーブ気味で、後半(義経-弁慶の場面以後)が元気という印象でした。
なので、富樫とのやり取りは、以前の獣性を感じる展開と比べると、意外にも熱気に乏しい印象でしたが、その代わり品格は上がった!
一方、勘三郎の義経は、花道の第一声「いかに弁慶~」から品格があって素晴らしい。(玉三郎の義経は第一声がイマイチでしたからね~。)
後半の、弁慶に手を差し伸べるところもスッとしてよかったし・・・。このあたり、12月の芝居とは大違いでしたね。(ま、演目が違うからしょうがないんだけれど・・・。)
で、今回改めて思ったのは、團十郎の弁慶の古風さ。幸四郎だと「近代人の悩み」みたいなニュアンスが入ってきたりするけど、團十郎にはいい意味でそれはない。
また、幸四郎の弁慶はいつ見てもそんなに変化を感じないんだけど、團十郎は二度の病気療養で少しづつ変化を始めているんじゃないですか?なので、今後も「変化」を楽しめそうな予感がします。
さて、他の点で気になったのは、富樫が涙をこらえて退場する場面。烏帽子を被った頭をクッと斜め上に向けて涙をこらえる芝居なんですが、梅玉のふりが割合大きい。
なのに、大泣きに見えないんですよ。これは、このひとの芸の品格がそう見えさせるって事なんじゃないですかね?というのも、他の役者が大きく頭を上げると大泣きにしか見えないですからね~。(誰とはいいませんが・・・。)
それと、最後の花道、弁慶の飛び六法。少なくとも、わたしの観た日は、團十郎の弁慶、手をヒラヒラさせてはいませんでしたよ。力感充分でした!いかがでしょう?渡辺保さん!
④松浦の太鼓
三世歌六(初代吉右衛門、先代勘三郎のお父さん)、初代吉右衛門の当たり役を当代吉右衛門が演じた舞台。
といっても、この芝居、バカ殿の話ですよね。わたしなんか、森繁の「社長シリーズ」の原型は、この幕末(安政五年)の芝居なんじゃないかと思っているほどですよ。(または、海外の映画だとルビッチかな?)
で、話は、大石蔵之助と同門の松浦候が、「どうして、赤穂浪士は吉良を討たないんだ」と不満爆発、赤穂出身の女中をクビにしようとしたりして、ひと悶着があるうちに、となりの吉良邸の様子が妙なことに・・・。といった感じですかね~。
吉右衛門の松浦候は、その飄逸なイライラ感を火鉢や肘付きを扱う手の表情で、見事に演じてみせる。(ウマイ!)
また、こういう芝居って、まわりが大真面目じゃないと面白くないんだけど、大高源吾の梅玉の真面目っぽさ、飄逸過ぎない歌六演じる其角も品を損なわず、ちょうどよい塩梅だったんじゃないですか。(因みに、以前見た左團次の其角は面白キャラ過ぎた!)
まあ、凄まじくくだらない芝居だけど、これをちゃんと観られるように演じるのは、巧い吉右衛門、天真爛漫な仁左衛門くらいだなあ~、というか、これを演じられるような役者が他に出てくるのかって、はなはだ疑問ではありますよね~。
というわけで、初春のおめでたい舞台でした!
PS:後で思ったんだけど、立川談志の「松曳き」っていう、殿様の出てくるイリュージョン落語もこの芝居のテイストかな?
★ ★ ★
歌舞伎座さよなら公演
壽初春大歌舞伎
平成22年1月2日(土)~26日(火)
昼の部
一、春調娘七種(はるのしらべむすめななくさ)
曽我五郎 橋之助
曽我十郎 染五郎
静御前 福 助
二、梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)
鶴ヶ岡八幡社頭の場
梶原平三景時 幸四郎
梢 魁 春
俣野五郎景久 歌 昇
大名山口政信 由次郎
大名川島近重 種太郎
大名森村宗連 宗之助
剣菱呑助 秀 調
六郎太夫 東 蔵
大庭三郎景親 左團次
三、歌舞伎十八番の内 勧進帳(かんじんちょう)
武蔵坊弁慶 團十郎
源義経 勘三郎
亀井六郎 友右衛門
片岡八郎 高麗蔵
駿河次郎 松 江
常陸坊海尊 桂 三
太刀持音若 玉太郎
富樫左衛門 梅 玉
四、秀山十種の内 松浦の太鼓 (まつうらのたいこ)
松浦鎮信 吉右衛門
其角 歌 六
鵜飼左司馬 由次郎
渕部市右衛門 松 江
早瀬近吾 吉之助
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江川文太夫 桂 三
お縫 芝 雀
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