川べりの土手には蔓になった植物がたくさん絡み合っている。
ヤエムグラ、アレチウリ、カラスウリなどの緑一色の中に赤紫色の「クズ(葛)」の花が目に付いた。
クズの葉は大きいので、花はその陰に隠れてひっそりと咲いているものが多い。
風が吹くと葉が揺れ、中にある花が顔を見せてくれる。
秋の七草の一つになっているクズは古くから親しまれていて、日本人の暮らしの中で様々なことに利用されてきた。
根からは葛粉がとれるし、 根を干したものは生薬になり、葛根(かっこん)と呼ばれ、発汗・解熱剤とされている。
また、葉や茎からは繊維が取れ、葛布といわれる織物で、かつては衣服も作られていた。
名前はクズだけど、本当に優れものだったのだ。
下の方から咲き始め、上の方はまだ固い蕾。
上の方が咲いたころにはもう下の方は咲き終わりになってしまっている。
ほんのりと香りもある。
学名: Pueraria lobata
英名:kudzu
別名:裏見草(うらみぐさ)
科名・属名: マメ科・クズ属
原産地: 日本、中国、朝鮮半島
「裏見草」の話。
クズは風が吹くと葉が揺れ、白い葉の裏が見えるから「裏見草」と呼ばれていた。
この白い色は葉の裏に細かな毛が密集しているためらしい。
大阪の和泉市、信太の森にある神社に「葛の葉」という名の白狐が住んでいて、人間と結ばれ、その時にできた子供が平安京の陰陽師、安倍晴明と言われている。
そして、晴明が5歳になった時に母親が白狐だと、その正体を知ってしまった。
正体を知られた母親の「葛の葉」は、「恋しくば 尋ねきてみよ 和泉なる 信太の森の うらみ葛の葉」という歌を残し、森に消えていった、という伝説がある。
この伝説は有名で、人形浄瑠璃や歌舞伎の題材にもなっている。
和歌などでは「裏見」という言葉から「恨み」につなげたものが多く詠まれているため、この場合の「うらみ葛の葉」が恨みにつながるという説があるが、そうは思わない。
母親の気持ちになってみたら、「葛の葉(母)はとても悲しい」とか、「母は信太の森の裏にいるから」とかじゃないのかな、と勝手に解釈している。