[TPP反対 ふるさと危機キャンペーン 第5部 日本の針路 2] 軍事伴わぬ戦争 漫画家 小林よしのり氏 (04月11日)
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http://www.agrinews.co.jp/uploads/fckeditor/2012/04/11/uid001010_201204111331253c34c791.jpg 環太平洋連携協定(TPP)っていうのは、軍事を伴わない戦争なんよ。グローバリズムの中で、米国は日本の商慣習のありとあらゆるものを非関税障壁だといって攻めてくる。さらに農業を崩壊させる。日本人を、集団性を重んじる農耕民族から競争主義の狩猟民族に変えちゃう。
既に前哨戦が始まってるよね。米国資本系のスーパーで、ミニマムアクセス(最低輸入機会=MA)の米を売り始めた。安い方がいいだろ、と言いたいわけだよ。これはもう絶対、米の関税も撤廃を要求してくる。完全な自由競争の原理にさらそうとしてる。
でも米国側の圧力だけじゃなく、日本側からも乗っかっていってる。「農業を保護しても強くならなかった」とか「競争原理で強くなる」とか言って、わざわざ無防備になろうとしてる。他の先進国は食料自給率100%以上を維持しようと予算を組んでるのに。
食料危機の時に、いくら品質が良くても野菜や果物ばかり食べて生きていけるわけがない。世界の人口が増えて、水と食料とエネルギーの争奪戦が始まるという危機意識が根本的にない。軍隊を捨ててるのと同じだよ。原発の問題もそうだけど、「国家的な危機は訪れない」と、いまだに思ってる。
結局、安い方がいいとか、国家の財政負担とか、経済合理性でしか考えてない。全て金。日本の中で、何かが崩壊してる。自国の伝統とか国柄より、グローバリズムや新自由主義を歴史の必然だと洗脳されてる。政治家も官僚も外交官も。グローバリズムなんて、米国の商慣習でしょ。アメリカニズムでしかない。http://www.agrinews.co.jp/uploads/fckeditor/2012/04/11/uid001010_2012041113313028ffe14f.jpg
野田佳彦首相は「分厚い中間層を復活させる」と言ってる。全くのうそっぱちだ。TPPは格差をさらに広げて、分厚い中間層がなくなるという話だよ。逆に、米国の分厚い中間層を再生させる。オバマ大統領の狙いは製造業の再建だから。日本はその格好の輸出先。
そのためには、既に自動車で言ってきているように、どんな“へ理屈”でも非関税障壁だと攻めてくる。最終的には日本語だって、米国の輸出に不利な非関税障壁だといわれかねない。そこまで考えないといけない。これは戦争なんだから。
こんなめちゃくちゃな内容なのに、政府は環太平洋連携協定(TPP)を推進してる。理由は単純で、金。日本経団連から言われてやってるだけ。それで国内に工場を造って雇用を増やせばまだいいけど、企業が内部留保するだけで、国民の生活は何も良くならない。トリクルダウン(企業や高所得者が富めば、全体に富が浸透するという経済理論)なんて起きない。
マスコミも同じ。ちょっと前までは小泉構造改革で格差が広がったとか言ってグローバリズムや新自由主義を批判してたのに、経団連の顔色をうかがってTPPを持ち上げる。それじゃ洗脳装置でしょ。わしの漫画(『ゴーマニズム宣言』)みたいにゴーマンをかますとしたら「経団連とマスコミにだまされるな!」となるね。
TPPに反対するには、金じゃない部分に訴えないといかん。最終的にはナショナリズム(愛国心)しかないかなと思う。米で言えば、日本にとって米は文化で。豊葦原(とよあしはら)の瑞穂(みずほ)の国だから。TPPで自分たちの文化が破壊されるのに反発心がないのかと。
だけど国民にも変革への憧れがあるのが怖い。「開国」とか「改革」とか「維新」とかいう言葉が好きでしょ。ずっと不景気の中で育ってきた世代には明日が約束されていないし、既得権益者が地に落ちればいいという感覚もある。良い時代を知らないから「不満でしょ?」と言っても響かない。TPPで日本が崩壊しても、元に戻そうとも思わないんじゃないか。
でも、わしは目覚めてほしいから、『反TPP論』を書いた。TPPに参加しないと今の閉塞(へいそく)感を打破できないとかいうけど、もともと日本は内需で成り立つ国。外需依存度は1割程度でしょ。
農業も、グローバリズムに乗って中国の金持ちに高級品を売るより、地域社会の中でより多くの若者の雇用を増やすことに挑戦してほしい。確かな、本物の味の農作物を地元で流通させて。
ただそれは、低価格・大量生産できない。だから、優秀な農作物にはそれにふさわしい代金を払うという感覚を国民が身に付けないといけない。逆に輸入米は、どんなに安くても買ってたまるかというナショナリズムが必要だよ。それができなきゃグローバリズムもTPPも止められないね。
〈プロフィル〉 こばやし・よしのり
1953年、福岡県生まれ。漫画家。76年、大学在学中に描いた『東大一直線』でデビュー。『おぼっちゃまくん』などのヒット作を経て、92年に社会批評漫画『ゴーマニズム宣言』の連載開始。近著に『反TPP論』(幻冬舎)。
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http://www.agrinews.co.jp/uploads/fckeditor/2012/04/11/uid001010_201204111331253c34c791.jpg 環太平洋連携協定(TPP)っていうのは、軍事を伴わない戦争なんよ。グローバリズムの中で、米国は日本の商慣習のありとあらゆるものを非関税障壁だといって攻めてくる。さらに農業を崩壊させる。日本人を、集団性を重んじる農耕民族から競争主義の狩猟民族に変えちゃう。
既に前哨戦が始まってるよね。米国資本系のスーパーで、ミニマムアクセス(最低輸入機会=MA)の米を売り始めた。安い方がいいだろ、と言いたいわけだよ。これはもう絶対、米の関税も撤廃を要求してくる。完全な自由競争の原理にさらそうとしてる。
でも米国側の圧力だけじゃなく、日本側からも乗っかっていってる。「農業を保護しても強くならなかった」とか「競争原理で強くなる」とか言って、わざわざ無防備になろうとしてる。他の先進国は食料自給率100%以上を維持しようと予算を組んでるのに。
食料危機の時に、いくら品質が良くても野菜や果物ばかり食べて生きていけるわけがない。世界の人口が増えて、水と食料とエネルギーの争奪戦が始まるという危機意識が根本的にない。軍隊を捨ててるのと同じだよ。原発の問題もそうだけど、「国家的な危機は訪れない」と、いまだに思ってる。
結局、安い方がいいとか、国家の財政負担とか、経済合理性でしか考えてない。全て金。日本の中で、何かが崩壊してる。自国の伝統とか国柄より、グローバリズムや新自由主義を歴史の必然だと洗脳されてる。政治家も官僚も外交官も。グローバリズムなんて、米国の商慣習でしょ。アメリカニズムでしかない。http://www.agrinews.co.jp/uploads/fckeditor/2012/04/11/uid001010_2012041113313028ffe14f.jpg
野田佳彦首相は「分厚い中間層を復活させる」と言ってる。全くのうそっぱちだ。TPPは格差をさらに広げて、分厚い中間層がなくなるという話だよ。逆に、米国の分厚い中間層を再生させる。オバマ大統領の狙いは製造業の再建だから。日本はその格好の輸出先。
そのためには、既に自動車で言ってきているように、どんな“へ理屈”でも非関税障壁だと攻めてくる。最終的には日本語だって、米国の輸出に不利な非関税障壁だといわれかねない。そこまで考えないといけない。これは戦争なんだから。
こんなめちゃくちゃな内容なのに、政府は環太平洋連携協定(TPP)を推進してる。理由は単純で、金。日本経団連から言われてやってるだけ。それで国内に工場を造って雇用を増やせばまだいいけど、企業が内部留保するだけで、国民の生活は何も良くならない。トリクルダウン(企業や高所得者が富めば、全体に富が浸透するという経済理論)なんて起きない。
マスコミも同じ。ちょっと前までは小泉構造改革で格差が広がったとか言ってグローバリズムや新自由主義を批判してたのに、経団連の顔色をうかがってTPPを持ち上げる。それじゃ洗脳装置でしょ。わしの漫画(『ゴーマニズム宣言』)みたいにゴーマンをかますとしたら「経団連とマスコミにだまされるな!」となるね。
TPPに反対するには、金じゃない部分に訴えないといかん。最終的にはナショナリズム(愛国心)しかないかなと思う。米で言えば、日本にとって米は文化で。豊葦原(とよあしはら)の瑞穂(みずほ)の国だから。TPPで自分たちの文化が破壊されるのに反発心がないのかと。
だけど国民にも変革への憧れがあるのが怖い。「開国」とか「改革」とか「維新」とかいう言葉が好きでしょ。ずっと不景気の中で育ってきた世代には明日が約束されていないし、既得権益者が地に落ちればいいという感覚もある。良い時代を知らないから「不満でしょ?」と言っても響かない。TPPで日本が崩壊しても、元に戻そうとも思わないんじゃないか。
でも、わしは目覚めてほしいから、『反TPP論』を書いた。TPPに参加しないと今の閉塞(へいそく)感を打破できないとかいうけど、もともと日本は内需で成り立つ国。外需依存度は1割程度でしょ。
農業も、グローバリズムに乗って中国の金持ちに高級品を売るより、地域社会の中でより多くの若者の雇用を増やすことに挑戦してほしい。確かな、本物の味の農作物を地元で流通させて。
ただそれは、低価格・大量生産できない。だから、優秀な農作物にはそれにふさわしい代金を払うという感覚を国民が身に付けないといけない。逆に輸入米は、どんなに安くても買ってたまるかというナショナリズムが必要だよ。それができなきゃグローバリズムもTPPも止められないね。
〈プロフィル〉 こばやし・よしのり
1953年、福岡県生まれ。漫画家。76年、大学在学中に描いた『東大一直線』でデビュー。『おぼっちゃまくん』などのヒット作を経て、92年に社会批評漫画『ゴーマニズム宣言』の連載開始。近著に『反TPP論』(幻冬舎)。