東京新聞のルポルダージュ
を3回にわたり転載します。
人の姿のない広大な平地の空を、鳥がゆっくりと飛ぶ。
ここは米ワシントン州南東部のハンフォード核施設。
長崎に投下された原子爆弾の原料となるプルトニウムの製造拠点で、冷戦時代にも活動を続けてきたが、今は既に役割を終えている。
そばには土地の人が聖なる場所とあがめるコロンビア川が流れていた。
高レベル放射性廃棄物貯蔵用の巨大地下タンクの点検を二十七年間続けてきた
マイク・ゲファーさん写)は、自分の目を疑った。
2011年秋のことだ。
二重壁になっているタンクの壁と壁の間に挿入した放射線検知器が警戒書を発する。
引き上げると、ピーナツバターのような液体がついていた。
検知器の針が一気にふれる。
「汚染水が漏れました」「検知器が壊れてるんだろう」。
上司はゲファーさんの報告を信じなかった。
国から施設の管理を請け負う企業に所属するゲファーさんには、汚染水漏れなど不測の事態が起きた場合、管轄するエネルギー省に二十四時間以内に報告する義務が課されていた。
当初の漏れは十五㍍ほどだった。
だが、会社は詳細点検を先送り。
エネルギー省にはこう伝えた。
「タンクの壁内部にあるのは雨水」。
放射線の検知理由は現場周辺にあった過去の廃棄物に反応したと断定した。
一年後、定期点検で再び漏れが確認され、事実を公表。
事前に報告を受けていたことは隠した。
ゲファーさんは経緯をメディアなどに内部告発し、会社を辞めた。
ハンフォードの浄化活動を監視するNPO「ハンフォード・チャレンジ」代表トム・カーペンターさんは、会社や当局が汚染水漏れを認めなかった理由を「二重壁タンクからの漏れだったから」と指摘した。
施設にある大半のタンクは一重壁で、これまで既に六十七基で漏れが確認された。
二重壁はその対策として導入された「安全な保管先」。
そこで、初めて漏れが確認された。
全部で百七十七基あるタンクには、長崎原爆に搭載されたプルトニウムを精製する過程で出た放射性物質のセシウム、ストロンチウムなどを大量に含む、最も危険性の高い泥状の液体計約二億㍍が保管される。
カーペンターさんは懸念する。
「当局が安全だと信じ切っていた二重壁がダメなら将来の除染作業に多大な影響がある。
汚染水が漏れ続ければいつかは地下水に達し、コロンビア川に出る。
歴史上、最も重大な危機に直面してしまった」対策の方針が決まらないまま、汚染水は今もタンクから漏れ続ける。
(米ワシントン州ハンフォードで、長田弘己)
◇ ◇
世界初の核開発計画であるマンハッタン計画の中核を担ったハンフォード核施設は米国で「最も汚染された場所」と呼ばれる。
施設誕生から今年で七十年を迎えるが、長期にわたる除染作業は新たな試練に直面している。
苦闘する姿は福島原発事故被害の対策を模索する日本が既に向き合う課題とも重なる。
<記事中の写真・図・表>
今も続く健康被害に続く・・・
を3回にわたり転載します。
人の姿のない広大な平地の空を、鳥がゆっくりと飛ぶ。
ここは米ワシントン州南東部のハンフォード核施設。
長崎に投下された原子爆弾の原料となるプルトニウムの製造拠点で、冷戦時代にも活動を続けてきたが、今は既に役割を終えている。
そばには土地の人が聖なる場所とあがめるコロンビア川が流れていた。
高レベル放射性廃棄物貯蔵用の巨大地下タンクの点検を二十七年間続けてきた
マイク・ゲファーさん写)は、自分の目を疑った。
2011年秋のことだ。
二重壁になっているタンクの壁と壁の間に挿入した放射線検知器が警戒書を発する。
引き上げると、ピーナツバターのような液体がついていた。
検知器の針が一気にふれる。
「汚染水が漏れました」「検知器が壊れてるんだろう」。
上司はゲファーさんの報告を信じなかった。
国から施設の管理を請け負う企業に所属するゲファーさんには、汚染水漏れなど不測の事態が起きた場合、管轄するエネルギー省に二十四時間以内に報告する義務が課されていた。
当初の漏れは十五㍍ほどだった。
だが、会社は詳細点検を先送り。
エネルギー省にはこう伝えた。
「タンクの壁内部にあるのは雨水」。
放射線の検知理由は現場周辺にあった過去の廃棄物に反応したと断定した。
一年後、定期点検で再び漏れが確認され、事実を公表。
事前に報告を受けていたことは隠した。
ゲファーさんは経緯をメディアなどに内部告発し、会社を辞めた。
ハンフォードの浄化活動を監視するNPO「ハンフォード・チャレンジ」代表トム・カーペンターさんは、会社や当局が汚染水漏れを認めなかった理由を「二重壁タンクからの漏れだったから」と指摘した。
施設にある大半のタンクは一重壁で、これまで既に六十七基で漏れが確認された。
二重壁はその対策として導入された「安全な保管先」。
そこで、初めて漏れが確認された。
全部で百七十七基あるタンクには、長崎原爆に搭載されたプルトニウムを精製する過程で出た放射性物質のセシウム、ストロンチウムなどを大量に含む、最も危険性の高い泥状の液体計約二億㍍が保管される。
カーペンターさんは懸念する。
「当局が安全だと信じ切っていた二重壁がダメなら将来の除染作業に多大な影響がある。
汚染水が漏れ続ければいつかは地下水に達し、コロンビア川に出る。
歴史上、最も重大な危機に直面してしまった」対策の方針が決まらないまま、汚染水は今もタンクから漏れ続ける。
(米ワシントン州ハンフォードで、長田弘己)
◇ ◇
世界初の核開発計画であるマンハッタン計画の中核を担ったハンフォード核施設は米国で「最も汚染された場所」と呼ばれる。
施設誕生から今年で七十年を迎えるが、長期にわたる除染作業は新たな試練に直面している。
苦闘する姿は福島原発事故被害の対策を模索する日本が既に向き合う課題とも重なる。
<記事中の写真・図・表>
今も続く健康被害に続く・・・